第14話 ノイマンの妨害
「申し訳ない……今日の魚は全部売り切れだ」
いつもレイラが購入している魚屋の親父はすまなそうにそう答えた。
目の前にはカリフの海で取れたばかりの魚が山と積まれている。
「何を言うか親父。こんなに積まれているじゃないか!」
バーモントはそう声を荒げて魚屋の親父に抗議をする。魚屋の親父は頭を下げるのみだ。
「どういうことですか、ワッツさん」
レイラもそう尋ねる。
「カリフ第一銀行の圧力があったのではないか?」
「恐らくそうズラ……」
後ろでやり取りを聞いていたケントと吉音は真っ先に邪魔が入ったと思った。
競争相手の背後にいるのはカリフ第一銀行で、その担当者が以前、ケントがNSD株式会社を立てる時に妨害したノイマン課長なのだ。
「本当に申し訳ない、お嬢様。ウブロ家には大変な恩があります。しかし、カリフ第一銀行に取引を打ち切られたらここでは生きていけないのです」
そう言って別の魚屋の親父は頭を下げた。どうやらケントと吉音の予想は当たったようだ。
魚屋だけではない。良い食材を売る肉や野菜の店もレイラに売るのを拒んだ。
全部カリフ第一銀行融資課長ノイマンの策略である。
「これでは競争も勝てない。相手はウェリントンホテルの総料理長だろ。腕でも勝てるかどうか分からないのに材料まで差をつけられたら、勝てる要素は一つもない」
バーモントはそう嘆息した。
バーモントはレイラの窮状を知り、何とか助けたいと料理を作ることになったのだ。
10年前はアイリスホテルの副料理長だったとはいえ、ずっと軍隊にいたから腕は相当になまっている。
それでも元仕えていたウブロ家には恩がある。そしてレイラとはただならぬ関係があった。
バーモントは全身全霊をかけるつもりであった。
それなのに大きなハンディキャップである。
よい材料が入らなければとても勝てない。同じスタートラインにすらつけない。
「ケント様、あの生き物は使えないのですか?」
ケントと一緒に来ていたニケが市場の小さな店の前に大きなたらいに入った黒くて長い蛇のようなものを指さした。
「なんだそれは?」
「気持ち悪い生き物ですね……」
バーモントとレイラは初めて見る生き物のようだ。
店は薬屋のようだ。薬といってもいわば精力剤の専門店。ショーウィンドウにはカメや蛇、トカゲなどの燻製が並んでいる。
「これはウナギじゃないか!」
ケントは思わず笑顔になった。
この異世界に来て食べたかったウナギである。
この世界では初めて見る。
店の主人に聞くとカリフの内陸部の川で獲れるらしい。これをこんがりと焼いてすりつぶし、丸薬にして飲むと夜の生活に効くらしい。
「夜の生活に効くってどういうことですか?」
ニケが無邪気に聞く。これが可愛い女の子の姿であったのなら、薬屋の親父も照れてしまうところである。
しかしニケはいかつい鎧姿。鬼のような大きな角のある兜を着用した変な奴である。
そこに萌えとか恥じらいとかは一切感じない。
「姫様、それはですね……」
ごにょごにょとオトワが小さな声でニケに説明する。表情は分からいないが恐らく赤面しているであろうニケ。
「要するに主様が必要とする薬ズラ」
そう吉音が言ったがこれにはケントは心外だと反論した。
「バカにするな。俺はそんな薬など必要ない。そんなのなくても夜はビン……」
慌ててケントは口をふさいだ。オトワとレイラと吉音の冷たい視線を感じたのだ。
危うく中年オヤジのエロ自慢を下品に話してしまうところであった。
「それで王子、このウナギが何かに使えるのですか?」
バーモントはそうケントに尋ねた。
「ウナギは食べられる。しかもめちゃくちゃ美味しいのだ」
ケントは説明した。ウナギを裂いてかば焼きにする。醬油ベースのたれを何度も塗っては炭火で焼く。それを炊き立ての白飯の上に乗せるのだ。
「これを出そう。カリフでしか食べられない名物料理になることは間違いがない」
ウナギならばノイマンの邪魔は入らない。
ケントは薬屋の親父から仕入れ先を聞いた。
カリフ川上流の小さな村に住む一家が細々と漁をしているというのだ。




