第13話 料理対決
「閣下、ご心配には及びません。すぐに逆転しますよ」
ノイマンは悪びれもしていない。それは今の状況を楽観しているわけでなく、彼には彼の作戦があったのだ。
ノイマンには切り札があった。次に行われるホテルの食事対決では十分な手を打っていたのだ。
「どういうことだ……?」
アーサーはノイマンの言葉に嫌な予感がした。この男がこのような表情をするときは、ずるがしこいことを企んでいるのだと分かっていたからだ。
「実は市場に圧力をかけまして……奴らに新鮮な魚介類、肉、野菜、果物が手に入らないようにしました。簡単なことですよ。市場関係者の取引は我がカリフ第一銀行が関わっているケースが多いのです。ちょっと脅せば、みんな奴らには売らないことになります」
「な、なんだと……」
アーサーは驚いた。
確かにアーサー・ウェリントンも世界的に展開するホテルチェーンを作ってきた。
その過程でライバルたちを蹴落としてきた。汚いことも随分やってきた。
しかし、これはせこい。せこすぎる。アーサーなら相手の出す料理の情報を聞いてその上をゆく手を打つ。
まさか業者に圧力をかけて相手の仕入れの邪魔をするとは……。
これからの関係を考えれば禍根を残す悪手である。
それにアーサーは本国のホテルの総料理長を連れてきている。
そんなせこい嫌がらせをするまでもなく、各国のセレブを唸らせる腕とカリフの新鮮な食材で作るアルトリア料理のフルコースが負けるはずがない。
「今回、万が一負けたら貴様の銀行とは一切取引しないからな」
アーサーはそう吐き捨てた。
ノイマンはその強い口調にビビったようだが、すぐに愛想笑いを浮かべた。
「大丈夫です。負けることなど100%ありえません」
ノイマンはそう自信たっぷりに話した。
以前、ケントの提唱するNSD株式会社への投資に乗り遅れ、頭取に叱責されそうであったが、いつものとおり、部下に罪を被せて自分は責任を免れた。
今回はその件の挽回であり、天下のウェリントンホテルグループと組む仕事である。成功しかありえないと思っているのだ。
「ホテルといえば、食事の楽しみもあり、要素としては非常に大きいものです。今から両者の食事についての提案をしていただきます」
そう司会者が促す。最初はウェリントンホテル側。
アーサーが連れてきたのは、本国にあるウェリントンホテル本店の総料理長である。
世界でも10本の指に入る腕をもち、その料理を食べに世界中のセレブがホテルを訪れる名物シェフなのだ。
「まずは前菜。カリフの新鮮な野菜と果物、アルトリアのチーズを使ったものです。ソースはカリフ海をイメージした香草ベースのものです。グリーン色のさっぱりした味になっております」
美味しい。
なによりも新鮮な食材に会場の参加者は次の料理が楽しみになる。
次はカリフでとれるカニをつかったポタージュ。濃厚なカニの味が舌に強烈に残る。
メインの皿の一つは魚料理。パイにまるごと一匹包んだ包み焼。濃厚な卵ソースと共に食べる。
次の皿はあえて肉料理ではなく、エビをメインにしたステーキ。カリフの沿岸で取れる大エビとアワビを豪快に使ったステーキである。
もうこれはこれで決まったと思われる美味しさである。
アーサーもこれ以上の料理はないと思ったほどだ。
再建するアイリスホテルは『ザ・ウェリントンホテルオブカリフ』と名を変え、本国の副料理長がメインダイニングでこれと同様のフルコースを振る舞う予定だ。料理に関しても世界一流のサービスを提供すると説明した。
*
「それではNSD側の料理を出してください」
洗練されたアルトリア料理のフルコースを試食した投資家やマシュー・アーリントンは運ばれてきた料理に唖然とした。
見たこともない箱のようなものに入っているのだ。
ケントに言われて運んできたのはバーモント。
レイラとの話でバーモントが腕を振るい、この料理を出したのだ。
「これはなんだ?」
「ただの箱?」
「これは漆塗りの漆器だな」
みんな口々に目の前の箱を評した。これはノースサンドリアで作られている入れ物である。木製の器に山で採れる漆を塗ったものだ。
ただ、よく見る器でなく、金箔が所々に貼られており、植物をイメージ多文様が描かれており、豪華な器に見える。
そしてこれはめずらしいものだ。多くの者が初めて目にする器である。
「それでは皆様、蓋をあけてください」
バーモントはそう促した。
きれいな箱の上蓋を取ると茶色の物体が目に入る。それは2枚の魚肉のようなものである。
「うな重です」
バーモントはそう聞きなれない料理名を口にした。




