第15話 ウナギ漁
すぐにケントはみんなを連れてその村へ出向いた。
ウナギ漁をしている一家は川のたもとの小さな小屋に住んでいた。
小屋の前にはタライに入ったウナギが見える。数は2匹ほどだ。
「何の御用でしょうか?」
貧しい身なりの男が出て来た。後ろには赤子を抱えた女性。
そして10歳くらいの男の子を筆頭に男の子2人、女の子2人の計5人。
ウナギ漁だけでは生計は苦しいようだ。
薬としてだとそんなに買い取ってもらえないためだ。
1匹の値段も銅貨10枚程度で買い取っていると薬屋の親父は話していた。
「ウナギを買いたい」
「ウナギ……ああ、この辺りではウーロンと言いますが、これを買いたいので?」
男は不思議そうにケントに聞いた。
この気味の悪いぬるぬるとしたグロテスクな生物は代々男の家系が漁をしてきた。
このウーロンと呼ばれるウナギ漁はこの男が漁業権を持っているのだ。
それでこの辺りの川でこのウーロンと呼ばれる『ウナギ』を獲って暮らしてきたのだ。
「どうだろう……もし、今回アイリスホテルの買収に成功したら、このウナギを毎日買い取る。1匹銀貨1枚でどうだ?」
ケントはそう条件を付けた。これはかなりの好条件である。
「銀貨1枚ですか?」
男は驚いた。薬屋の10倍の値段である。
「このウナギの漁業権はお前だけにあると薬屋に聞いたが?」
「はい。それがこの辺りのきまりです。権利書もあります。ただ、このウーロンの専売漁業権があったところで暮らしはこのとおりです」
「だから、俺だけに売る契約にしてくれたら、銀貨1枚。このタライに入っている青みがかかった太い奴なら銀貨2枚を払おう」
ケントはそう約束した。これは男にとって破格な条件だ。
「主様にしては甘い契約ズラ」
吉音はそう小さな声で言った。過去のケントなら何も知らないこの貧しい男からウナギを買い叩くところだ。
追放されてから自分の主が人に随分と優しくなったと吉音は思った。
だが、いくら優しくてもケントの言うウナギなるものが美味しい食材であるとは吉音も思わない。ここに一緒に来たバーモントやレイラ、ニケにオトワも懐疑的である。
「そんな破格の値段で買い取っていただけるのなら助かります。うちは食べ盛りの子供も多くて、ウナギが毎日売れれば、生活にゆとりがでます」
「ゆとりだけじゃないぞ。たくさん獲れれば、金持ちになることも夢じゃない」
ケントはそう約束した。ただ、これはきっかけを与えただけである。ウナギがたくさん獲れなければ豊かにはなれない。
「今は2匹しかいないようだが、この川でどれだけ獲れるのだ?」
ケントは聞いてみた。転生前にウナギの養殖場を見学したことがある。
整備された池にはそれこそウナギがぎゅうぎゅうに生息していた。
川で獲るのは天然ものだ。養殖より貴重なものでその美味しさは天然でしか味わえない。
「ああ、それは問題ありません。この川の支流にたくさんいるところがあるのです」
そういうと男は10歳の息子を連れてケントたちを案内する。案内されたのは川の上流。本流から別れた小さな小川でたどっていくと池がある。
ケントが小学校のグラウンド並みだなと思ったくらいのかなりの広さだ。
「ここにいます」
水はきれいだが藻がたくさんあるのと底が泥になっているので、よく見えない。10歳の息子がそろそろと入る。腰に竹で編んだ入れ物を下げている。
「みなさんもどうぞ。簡単に手づかみできます」
そう言って男はレイラや吉音、オトワにニケにまで入れ物を渡した。靴を脱いでレイラたちが沼に入る。
にょろにょろっと気色の悪い感触が裸足の足に感じる。
「ひゃっ!」
「ズラ!」
「何かぬるぬるしたものが……」
レイラと吉音、オトワは気味悪そうに立ち止まる。全身を鉄鎧で固めたニケだけが平気だ。ニケは足元のにょろにょろした生き物を手でつかもうと屈む。
しかし、鉄製の籠手ではウナギは掴めない。つるつると滑るだけだ。
それでもニケは捕まえようと努力している。ニケのその一生懸命な態度にレイラもオトワも頑張るしかない。
吉音だけはよほど気持ち悪いのか、全身に鳥肌が立ったように身震いして一歩も動けない。
「あっ」
オトワが両手でつかみ損ねたウナギが吉音の方へ飛び出す。ウナギも必死だ。捕まえられたら殺されてしまう。
「ぎゃ、ぎゃぎゃ~」
ウナギは吉音の服の胸元へ落ちる。そして必死で頭を動かし、服の中へ潜り込む。吉音は尻もちをつく。同時に足元にいウナギの群れが水面に真っ白い腹を見えてうごめく。
「ウ、ウナギ……ズラ……」
吉音は失神してしまった。ケントが慌てて吉音を抱きかかえる。
ケントは驚いた。
日本では天然物は非常に高価で食べられない希少なウナギがこの沼には底が見えないくらい生息しているのだ。




