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第8話 買収計画

 2人の会話に割って入るのは無粋ではあったが、ケントは要件を話すことにした。

 実はここに泊まるにあたって、レイラのこの小さな宿屋のことや、バーモントの過去のことを調べていた。

 調べたうえで、ケントが新しく国のために行う投資の話を進めようと思ったのである。


「俺はノースサンドリア公国を治めるケント・アルテッツア・リーグラードと言います」


 そうケントは名乗った。当然、レイラもバーモントも知っている名前だ。


「だ、第三王子殿下」

「ケント様、こんなみすぼらしい宿に来ていただき、恐縮でこざいます」


 バーモントは驚き、そしてレイラは小さくなっている。王子がこんな庶民が泊まる宿に来るなどとは夢にも思わなかったのだろう。

 バーモントとは昨日、女装してデートしたのであるが全く気付いていない。

 そりゃそうだろう。第3王子が女装して自分とデートしていたなどというのは、マンガじゃないとないシチュエーションである。


 レイラに対しても昨日からあまり顔を見られないようにしていたから、まさか王子とは思わなかったようだ。


「頭を上げろ。俺が来たのは宿泊するためだけではない。吉音、書類を出せ」


 ケントは吉音に命じて様々な資料を机に並べた。


「これは……」


 さっと見ただけで重要なものだとレイラは感じて、そうケントに尋ねた。


「アイリスホテルの再建計画である。アーリントン家がアイリスホテルを売却すると聞いてな。もう一度、アイリスホテルを買い戻すための計画なのだ」


 ケントは説明をした。

 ビジネスホテルで成功したアーリントン家は、アイリスホテルを買収して高級ホテルの世界にも手を伸ばしたが、残念にもその投資は失敗しつつある。

 その原因の一つは元アイリスホテルの人員を確保できなかったこと。


 人材の質が足を引っ張り、さらに高級ホテルの経営にノウハウがなかったことが失敗の原因であるとケントは考えていた。


「買収は我がNSD株式会社を中心に行う。しかし、俺たちにもホテルを経営するノウハウはない。そこでレイラさんに協力して欲しいのです」

「協力ですか……」


 レイラは混乱している。アイリスホテルの買収案件があることは分かったが、自分がそこにどう関わりがあるのか理解できないのだ。


「アイリスホテルの買収にはライバルがいるズラ」


 吉音が分かりやすく説明する。

 アーリントン家が最初に売却を表明したときに食いついてきたのが、ウィリントンホテルグループ。アルトリア帝国に本拠地をもつ世界的なホテルである。


 アルトリアの貴族で資本家でもあるアーサー・ウェリントン侯爵が総帥として経営している『ザ・ウィリントンホテル』が買い取ろうというのだ。


 アーリントン家は当初、この話には乗り気であったが買収にあたって不満なこともいくつあったので、他の買収希望者と比較して進めようと方針を変えたのであった。

 そこの名を上げたのがケントのNSD株式会社。

 但し、アイリスホテルの権利を全て買い取るほど資金はないので、アーリントン家のもっている権利を部分的に買い取るという条件を提示したのだ。

 

 これは手放すとはいえ、これまでの投資を少しでも回収したいアーリントン家には魅力的に映った。

 要するに自分も経営に関わりながら、ホテルの再建を目指すか、十分な資金で売ってしまい、二度と高級ホテルの経営に関わらないかである。


「アーリントン家はどちらにするか、両方の提案で決めるらしい。提案にはそれを具現化したおもてなしプラン、提供する料理等で判断される。それにはレイラさんの協力が必要だ」


「わ、わたしのですか……」

「そうです。俺はこの買収に成功したら、レイラさん、あなたをそのホテルの社長に任命します。もう一度、ウブロ家を再興しませんか?」


 ケントはそう提案した。レイラには魅力的な提案である。社長として経営するだけでなく、ホテルの持ち株の10%を持てる。

 これをきっかけに一族がもう一度豊かな生活に戻れる。

 ケントにもメリットはある。

 そもそもホテル経営は素人である。

 レイラが経営した方が的確な判断ができる。

 そして何より、彼女が社長になることで元従業員が集まる。落ちぶれたとはいえ、長年ウブロ家から受けて来た恩は忘れられない。


「分かりました……。。是非、その話に乗らせてください」


 レイラはそう答えた。そしてバーモントの方に視線を向けた。


「バーモントさん、こんなお願いは自分勝手で本当に厚かましいと思います。けれど、この挑戦にはあなたの力が必要です。どうか力をお貸しください」


 そう言って頭を下げた。バーモントは元アイリスホテルの副料理長。

 今の宿屋は庶民相手のリーズナブルな値段設定であるから、料理はレイラの手料理である。

 しかし、今回の勝負では高級ホテルにふさわしいプロの料理が必要なのだ。


「俺はもう料理を辞めてから10年も経つ。今は兵士に過ぎない……ですが、お嬢さんの願いなら全力を尽くします」


 そう言ってレイラの手を取った。


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