第23話 帰還
ワクチン接種の副反応で高熱、頭痛、筋肉痛……悲惨じゃ。
そんな中、読んでくれる人のために投稿。ポチっとしてから気を失います。
「おお~い、ケント王子~」
リーグラード竜騎兵の小隊である。
連隊長であるバッジョ男爵が先頭で指揮をしている。
「な、何をしているのだ?」
ケントがニケに馬乗りになって、フルフェイスの兜を脱がそうとしているのだが、端から見るとなんだかじゃれ合っているようにしか見ない。
「お、おう、バッジョ男爵」
ニケの兜を両手ではさみ、脱がそうと全力で動かしていたケントは、一瞬だけ馬乗りになっていた両股の力が抜けた。
その一瞬をニケは見逃さない。
「いや!」
体を反転させた勢いで右手をケントの体に接触させた。魔法の鎧の反撃能力はそれで充分であった。
「うああああっ~」
ケントは飛んだ。屋根まで飛んだ。落ちたところが葉の生い茂る大樹でなかったら、落下死していたであろう。
結果的に体中の擦り傷とわずかな打撲で済んだ。
「王子、森を抜けるのが遅いと思って迎えに来たのだが、まさか婚約者どのとお楽しみの最中とは」
「バッジョ、あれがお楽しみの最中と思うか!」
バッジョ男爵は鎧の中身がケントの婚約者であることを知っている。変な婚約者とは思っていたが、詳しいことは知らされてはいない。
てっきり、女に飢えたケントが婚約者に襲い掛かって、鎧を脱がせようとしていたのだと本気で思っていた。
それだけケントの女癖が悪いと親友でも思っていたのだ。
まさか、ニケが右手だけで大きな大樹のてっぺんまでケントを飛ばすことができるとは思っていなかったが。
「まあ、鎧は着ている変な子だが気立ては良さそうじゃないか。お前にはお似合いだと思うぞ」
バッジョは真剣な顔でそんなことを言う。言われたケントとしては心外である。少し前まで自分は都の美姫からあこがれの的であった。
それが今はこの変な鎧娘だけだ。しかも好意すらもたれていない。
「あいつはそんなんじゃない。それよりもだ。お前はこの森を抜けたルナールに駐屯しているのだよな?」
ケントは泉で水浴びをしていた娘について、何か知っていないかバッジョに聞いてみた。バッジョはこの状況で女の話をするケントの相変わらずのゲスぶりに感心する。それに天女のような女だったという話に興味をもった。
但し、バッジョも情報は何もない。ルナールの町に駐屯し、この森もよく竜騎兵の演習でよく使う。
森番の男も森の中に畑をもつ農夫も顔見知りであるが、そんな美しい娘の話は聞いたことがなかった。
「見間違いではないのか?」
バッジョはそう言って鎧姿のニケを見た。鎧を脱いだニケじゃないのかという意味だろうが、それはないとケントは首を振った。
「あいつの鎧は原則脱げないのだ。それに確かに見た。幻想でも夢でもない。間違いなく天女が水浴びをしていた」
「西リーグラード側は比較的安全とは言え、狼も出没する場所だ。そんなに美しい娘が無防備に水浴びしているとは思えぬ」
「……そうかなあ」
ケントは納得していないが、バッジョには急ぐ理由があった。
バッジョは一足早く、自分の竜騎兵連隊の駐屯地である西リーグラード王国のルナールに戻った。そこでケントたちを待っていたのだが、予定の夕刻になっても来ない。
夜の森は危険なので朝まで待って部隊を動かしたのだ。
ドリスの森は東と西の王国の国境に広がる森でどちらの領土と決まっているわけでなく、緩衝地帯となっていた。よって東リーグラード王国の正規軍が追ってくれば、森の中で遭遇戦を行う危険もあった。
「早くしないと俺の竜騎兵の援護があっても領地まで無事に帰ることはできないと思うぞ」
そうバッジョ男爵はケントに急ぐように言った。周りは敵だらけだ。東リーグラードは軍を動かしてケントのことを捜査しているようだ。
それに西リーグラード王国はケンジントン公の影響は強くないとはいえ、アイリーンの父親が宰相だ。
ケントを裏切ったことを思えば、逃げこんで来たケントを捕らえて、ケンジントン公に差し出すくらいの汚いことはしそうだ。
そうなるとバッジョの連隊は命令違反をすることになる。場合によっては友軍との戦いになる。
「わ、わかった。ノースサンドリアまで護衛を頼む」
西リーグラードの辺境地を抜けて行けば、ケントの領地であるノースサンドリアの山岳地帯へ行ける。西リーグラード王国が正規軍を動かさなければ、竜騎兵連隊の護衛があれば問題ない。
ケントはそう言ってバッジョの竜騎兵部隊に護衛されて、ニケと共に領地へと向かったのであった。




