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第22話 ニケの正体

 ニケはバステト族長ハンジロウの実の娘ではないと言うのだ。


「わたしのお母様は迫害から逃れ、赤ん坊のわたしを抱えて父上の山に逃げ込んだそうです」


 ニケの母親はエルグランド王国の元王家バロア家の末裔だという。

 エルグランド王国はケントの母親の出身国だ。母親は現エルグランド王国の王家、ディバル家の第7王女だったと聞いている。


 バロア家がエルグランド王国を支配していたのは200年も前の話。王家を追われてからは、一介の貴族となり、落ちぶれて行く中で神官を輩出する家となった。

 それと言うのもバロア家の人間は魔法能力が高いものが多く、『魔族』と呼ばれていたのだ。 

 王から追われたのも、その並外れた魔力が嫉妬され、迫害されたからだ。

 

 バロア家が代々崇めてきた神はズー。新興宗教にすぎなかったアズガルド教が勢いを増し、国の主要な宗教になる過程で、ズー教も勢いを失い異端となった。  

 二ケの母親はズー教の神官だったのだ。エルグランド王国は多くの民や国王、貴族はアズガルド教を信仰している。今やズー教は滅ぼすべき異端宗教である。


 リーグラード王国では深刻な宗教対立はないが、エルグランド王国では最近まで、ズー教徒に対する迫害は続いていた。

 ニケの母親は古くからの王家の血を引くズー教の聖女として、迫害から逃れてきたのだと言う。


「ああ、近代史で習ったことがある。エルグランド王国の『血の1週間』。宗教対立で最悪の事件だ」


 血の1週間ブラッドウィークは、狂信的なアズガルド教信者である貴族が、突如、ズー教徒に子供が殺されたと騒ぎ、それをきっかけにして無差別にズー教徒を虐殺したことに始まる。

 それまで対立しつつも、決定的な行動にはでなかった両者が血で血を洗う抗争となった。子どもを殺されたと言うのは言いがかりで、その後の調査でこの貴族の子供は誤って池に落ちて溺死しただけだと判明している。


 しかし、当時は凄まじい暴動になった。数で勝るアズガルド教信者は、ズー教信者を殺し、家を焼いた。

 ズー教の聖女であったニケの母親は、アズガルド教徒からすると滅ぼすべき魔女である。全力で追及して処刑しようと捜索した。


 ニケの母親は聖女らしく魔法に長けていた。それを使って包囲を突破し、何とか赤子のニケを連れ、国境を越えてバステト族の領地へと逃れたのだ。

 バステト族の支配する山間地に逃れたものの、逃げる途中の戦闘で母親は深手を負ってしまい、それが元で亡くなってしまった。


 母親をかくまったバステト族の族長であったハンジロウは、ニケを自分の養女として育てたというのだ。

 バステト族にとってズー教本山の聖女であったニケの母親は崇めるべき存在で、その子供は大切に育てることが信者としてあるべき姿なのだ。

 ニケの母親は逃げる時に一族に伝わる鎧、『絶対無垢の神衣』を持ってきており、それをニケが15歳になった誕生日に身に着けさせるよう言い残したと言う。


 神衣は普段は金の首飾りに魔法によって収納されており、ニケが15歳になった時に封印が解放されるのだ。


「この神衣カムイは、将来結婚する運命の相手が現れるまで、原則脱げないことになっています」


 そうニケは説明した。原則脱げないと言ったから、脱げるときもあるのだとニケの言いぶりから考えたケントであったが、それよりも気になることがあった。


(ということは、ニケはバステト族じゃない。エルグランド王国の旧王家の血筋。そう考えるとバステト族始まって以来のブサイクという表現は考えなくてはいけない)


 なんで今まで気づかなかったのか、ケントは自分の迂闊さを呪った。


 バステト族の美的感覚は恐ろしく違う。美しさの基準が違うのだ。リーグラードでは、イケメン王子で通っていた自分がバステト族では『ブサイク』と言われた。


(ということは、ニケは実はめちゃくちゃ可愛いのでは?)


 ケントはそう思った。十分考えられる結論だ。

 よくよく見るとニケの兜の面が上がっている。普段は姿隠しの魔法の効果で見えないが、今はあの大きなトパーズ色の瞳が見える。


「ニケ、やっぱり、お前の顔を見せろ!」


 そう言ってケントはニケの兜を脱がせようとする。以前も挑戦したが、脱がすことはできなかった。

 しかし今回は違う。周りには止める者はいない。オトワも吉音もいないのだ。ニケが叫んだところで、ここは人がいない森の中。

 魔法の鎧の防御反応が発動する前に脱がしてしまえば、顔は拝める。


 その後、突き飛ばされたとしても死ぬほどじゃない。ケントの攻撃はあくまでも兜を脱がすだけであり、ニケを殺そうとするのではない。


 魔法の鎧の反撃はこちらの悪意や攻撃力に比例する。その倍返しだとしても、脱がせるだけで死にはしないだろう。

 あばら骨の数本はもっていかれるかもしれないが、ニケの素顔が見られればそれでよい。


「や、やめてください!」


 ニケがいやいやをして抵抗する。それを押さえつけて脱がそうとするケント。やり過ぎると反撃の度合いが強くなるので、そこは注意する。

 ギシギシと兜が首の根本から少しずつ動く。これを繰り返せば、スポッと兜が脱げそうな気配だ。

 ニケはケントに馬乗りにされて手足をバタバタさせているが、ケントは必死に太ももでニケの体を抑え込んだ。


(よし行ける!)


 どうやらニケに対して殺意ある攻撃をしなければ、すぐに反撃はできないようだ。これなら兜は脱がせられるとケントは確信した。

 夢中になって脱がせようとしていたので、ケントは遠くから近づいてくる馬の足音に気づいていない。


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