第21話 絶対無垢の神衣
そんな都合のよいことを考えている。ニケは「はあ……」とため息をついた。
「ケント様。ケント様にとって女の子の内面はどうでもよいのですか?」
ニケが変なことを聞く。きっと、先ほど泉で見た天女のような美女と自分の無様な姿を比べての発言だろう。
「俺は男だ。男はみんなそう思っている。女の評価は第1に顔。第2にプロポーション、第3に抱き心地だ。もちろん、いい性格ならそれに越したことはない」
ケントはそう言い放つ。自分が全人類の男を代表しているようなものの言い方だ。まさしくゲス発言全開である。
吉音が傍にいればきっとキツイ突っ込みを入れていたであろう。今はいないからゲス発言がそのまま響く。
「……ケント様は国を追われる時に婚約を誓った美姫に冷たくあしらわれたと聞いていますけど……。それでも女は容姿ですか?」
ニケはそう反論する。ケントは天を仰いだ。嫌なことを思い出させる。
そして転生前の金目当ての女どもも思い出した。
(そうだ……女は見てくれじゃない……。心だ。俺を心から愛してくれる気持ちだろう……そんことは最初から分かっていた……)
だからケントはこの世界に転生してから、寄って来る女を粗略に扱った。どうせ、王子と言う自分の身分だけが好きな者たちだ。やり捨てしても心は痛まない。
だが、アイリーンとマリアーノは心があると思った。しかし違った。ケントが見抜けなかっただけだ。
いや、ケントのようなゲスな男にはそういう女しか集まらないと言うことなのかもしれない。
(じゃあ、ニケはどうなのだ?)
ケントはニケを見る。
冷たい鉄鎧だ。
(いくら心があっても、鉄鎧を好きになれるか?)
ケントは首を横に振った。確かにニケの性格は悪くはない。
そして今までケントの命を幾度も助けてくれた。
最初は人見知りする変な奴だと思ったが、慣れれば人懐っこく、そして誰にでも分け隔てなく接することができる奴だ。
(こいつがまだ普通の女の姿だったら、もしかしたら違っていたかもしれない)
そう思わなくもない。だが、やはり先ほどの天女のような女性を見てしまうと、無機質な鎧姿はありえないと思う。
「確かに妻には容姿だけではない。俺を心から愛してくれる人柄が欲しい。だが、いくら何でもお前はない。ナシよりのナシって奴だ」
「ナシよりのナシってなんですか?」
「ありえないと同義だ」
ニケは「ふん」と鼻を鳴らした。
「それは私もですよ、ケント様。私にはあなたが獣に見えるのです。きっとあなたの心がわたしにそう見させているのでしょう。わたしも獣は御免です」
「獣って随分だな」
ケントはニケのおかしな例えが気になって聞いてみた。
そう言えば、ニケがこの魔法の鎧を着るようになった経緯や鎧の力について面と向かって聞いたことはない。
いつもニケやオトワははぐらかしていた。今なら2人きりだ。ニケが話してくれるかもしれない。
「獣に見えるって、それも鎧の力なのか?」
「はい。わたしにとって害をなす男の人は獣に見えるのです。それは危険察知の能力の一つです。そうでない場合は普通に見えます」
「で、お前は俺が獣に見えるってわけか?」
「はい。怖い狼に見えました」
ケントはぴくっと瞼が動いた。「見えました」という過去形が気になったのだ。
それに誤解を招くので訂正したいのだが、ケントはニケを弄ぶとかする気持ちは一切ない。狼に見えるというニケの思い違いだ。
「俺はお前を襲おうなどと思ったことはないぞ」
「はい。しばらく経ってからそれは感じました。ケント様が狼に見えるのは時々でして……」
「時々?」
「はい。狼に見えないときは野菜……かぼちゃに見えます」
(カボチャかい!)
要するにニケはケントのことなど、そこらに転がっている野菜程度だという認識なのだ。
そう思った時には野菜に見えるらしい。魔法の鎧、どうでもいいところに凝っている。
「で、お前は15歳からその鎧を着ているそうだが。それはお前を心から愛する男がいない限り、一生脱げないのか?」
「……そうです。これは母様がわたしに残した遺品です。古来より伝わる神器の一つ。絶対無垢の神衣です」
(なんじゃそりゃ!)
まさにファンタジーだとケントは思った。しかし、このファンタジーは現実である。これまでニケがやってきた無敵の姿はこの鎧があってこそだ。
「バステト族がなんでそんな魔法具を持っているのだ?」
「……わたしはバステト族出身ではないのです」
衝撃の言葉をニケが発した。




