第17話 魔王リィ
(マサカ……4人モ、コノ化物ヨロイニ殺サレタノカ……)
リィはマントのフードを取った。白と黒に塗り分けられた仮面が露わになる。
「うあっ……不気味な奴」
ケントはリィの仮面を見てそう呟いた。
どうやら女みたいだが、ニケに負けず劣らず変な奴である。
ニケの鎧は魔法の鎧で、その防御力はかなりのもの。
そして攻撃されると自動的に反撃する。
そう見抜いた。さすがはリーグラード王国の裏稼業で名をはせる暗殺者集団の頭目だ。
「物理攻撃ハ全テ効果ナシト見タ。ナラバ、コノ攻撃シカナイ」
リィは右手を突き出して、何やら変な言葉を唱えだした。魔法の詠唱である。
「や、やばい、ニケ、奴は魔法使いだ!」
ケントが警告する。しかし、すでに詠唱は終わった。
「コレデモ喰ラウガヨイ。火炎弾!」
巨大な火の玉がリィの突き出した右手のひらの前方に現れた。
戦争なら1個小隊を吹き飛ばせる熱量である。
それが真っすぐにニケに向かって飛んでくる。それをニケは広げた両手で受け止める。まるで運動会の大玉を受け止めるかのようだ。
「うあああああっ~」
ニケの後方にいるケントにもその熱量は伝わる。
ニケの体で遮られているところはよいが、それ以外だと瞬時に黒焦げになる。
ケントは慌てて縮こまり、ニケの陰に隠れる。
やがて火炎弾は燃え尽きて消える。黒焦げになったニケがそのまま立っている。
鉄は赤く染まり、それが冷えて赤身は消えるが酸化したところが黒くなっている。煤が付いたようだ。
「ニケ、大丈夫か、ニケ!」
いくら鎧が熱に耐えても、中身の体までは熱を通さないわけにはいかないだろう。ニケの体はきっと蒸し焼きになってしまったと思われた。
「コノ火炎弾ニ耐エキレル者ナドイヨウカ……」
そう言ったリィはすぐに口をあんぐりと開けたまま固まった。
「ケント様、大丈夫です。あの程度の火炎でこの鎧の防御力は破れません」
事もなげにニケは両手を上へ伸ばしてさらに足を前後に広げ、ストレッチを始めた。本当に中の体に影響がないようだ。
(た、耐熱仕様が半端ねえ~)
「火ガ効カネバ、コレデドウダ!」
またもや詠唱を始めたリィ。
今度は突き出した左手から吹雪が渦を巻いて現れ、ニケの体を包む。
ブリザードの呪文だ。これは珍しい。火炎系を使える魔法兵はいるが、氷結系を使えるものは王都でも数人レベルの高度な魔法だ。
たちまちニケの鎧は凍り付いた。それだけではない。凍り付いたところに氷が張り付き、透明な氷の棺桶のようになった。
「ニケ~」
またしてもニケの背中に隠れたおかげでケントは難を免れたが、ニケはピクリとも動かない。
「ハハハ……。火炎ニハ強クテモ冷気ニハ弱カッタ……嘘デショ!」
ピキッ……と氷の棺桶にヒビが入る。それは徐々に全体に広がり、そしてついには亀裂が広がり粉々に砕け散った。
「はあ~気持ちよかった~」
ニケがそう言って両手を後頭部に当てて、体を反り返らせた。
「うっ……」
それを見たリィがその場で崩れ落ちる。どうやら、強力な魔法を使ったせいで消耗したようだ。
それでも辛うじて、両膝をついたリィは歯を食いしばって立ち上がる。
両手を天に向かって突き上げ、大声で最後の魔法を使う。
「偉大なる我が主、ズーファ様。今、あなたの僕に力を与えたまえ。来タレ、天ノ怒リ、神ノ雷、ライトニング!」
リィはズー教の中の異端の神、ズーファを信仰する闇巫女であった。魔神ズーファに操を捧げることで、その強力な魔力を使うことができた。
今、魔神の力を借りて放ったのが雷の魔法である。天から雷を落とし、対象を感電死させる高等魔法である。
宮廷魔術師クラスの魔法で、魔法兵で使えるものはほとんどいない。
魔神と契約し、魔法まで使えるとは、さすが二つ名に『魔王』と付くだけのことはある。
契約は誰もができるものではなく、飛びぬけた魔力と揺るぎのない魔神ズーファへの敬愛の心、そして人に対する深い憎しみが必要であった。
天から落とされた雷はニケの頭に直撃した。
ニケの体全体が光る。感電したと思われたニケだが、無敵の魔法の鎧はこれすらも防御した。
いや、防御しただけではない。
それを放電させたのだ。放電された電気エネルギーは、リィに向かう。
「グアアアアアアッ~」
雷に打たれたリィは感電し、そのままばたりと倒れた。被っていた白黒の面が割れる。
「死んだか?」
倒れたリィに恐る恐る近づくケント。心臓が動いていないか胸に耳を当てて音を聞く。
軟らかい肉の感覚が耳から伝わる。
「こ、こいつ、やっぱり女だったのかよ」
どうやらブラックハートの頭目は女だったようだ。
ケントは割れた仮面の下の素顔を見る。その顔は整った美形。まつげが異様に長い。そして銀髪の美しく長い髪。人間離れした美しい顔である。
年は思ったよりも幼い。ケントやニケと変わらないくらいだ。
ニケはリィの顔を見て何だか驚いたようだ。




