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第16話 ブラックハートとの戦闘

「ああ、そうだ」


 この後に及んで隠すこともない。相手はケントを追跡してここまで来たのだ。


「子爵夫人ノ旅行ニ紛レテ、コノ森ヲ通ルコトハ予想デキタ……。ヨク小隊ノ検分ヲ通ッタモノダ……」


 どうやらケントが女装していたことや、ニケが骨董品のふりをしていたことは知らないらしい。


「子爵夫人に何かしたのではないだろうな?」


 ケントは一応聞いてみた。ひと癖ありそうな老婦人だったが、ケントにとっては恩人だ。その安否は気になる。


「アア……アノ貴族ノ一行ハ、今頃、ノンキニカリフヘノ旅行ヲ続ケテイルダロウ。王子ハココデ人知レズ死ヌガナ……」


 小さな人物がそう言った。そして名を名乗る。


「我ハ、リィ。ブラックハートデハ『魔王』ト呼バレル」

「魔王ね……声とその小さな体格からすると女か子どもか。片言の話し方だと外国人か?」


 随分と大層なふたつ名である。異世界に生を受けたケントからすると、マントに奇態な仮面を付けて『魔王』などと名乗るのは、中二病以外の何物でもない。


「王子ヨ……オシャベリガ過ギルゾ……」


 リィは不快そうにそう言った。そして右の男に顎で合図を下した。男はマントを外して正体を露わにした。


「俺はフッド。『紅の射殺魔』と呼ばれている」


 男はそう名乗った。腰に2丁の短銃を装備している。かなり形が変わっており、リーグラード陸軍の正式装備銃とは異なった仕様である。


「リーダーにしろ、あんたにしろ、ブラックハートが名前を名乗るとは、随分と悠長な暗殺者だな」


 ケントはそう皮肉った。暗殺者が名前を明らかにするのは、その仕事の性質上、あまり好ましいことではない。


「くくく……王子。その心配はいらぬ。名前を聞いた奴は全て殺すからな」


 そう言うとフッドは目にも止まらぬ速さで銃を抜いた。そして両手撃ち。

 銃口から2筋の煙が立ち昇る。

 

 フッドの目には、胸と頭を撃ち抜かれたケントが血しぶきを吹き出して倒れて行く姿が映し出されるはずであった。

 しかし、現実には大きな鉄鎧が大の字で王子の前に立ちふさがり、フッドの放った銃弾を跳ね返した。


 フッドは頬に生ぬるい液体が流れて行くのに気付いた。実に気持ち悪い感触である。


(鎧の野郎め、弾を弾いた!?)


 ニケである。

 ニケがケントの前に立ちはだかり、撃たれた銃弾を跳ね返したのだ。

 弾は撃ったフッドに向かい、1発は頬をかすめ、もう一発は右ひざをかすめた。

 足も血がだらりと流れて行く。


「こ、殺してやる!」


 怒りに火が付いたフッド。もう両手に持った短銃の引き金を引く。

 フッドの銃は特別に改造してあり、なんとリロードしなくても3発まで連続で撃てる代物である。

 計4発が放たれた。そして4発ともニケに命中。

 1発は肩に当たったが、瞬時に跳ね返し森の中へと消えた。1発は腹に命中したが割れて四散した。

 残り2発はきれいに弾いて跳弾となり、フッドの額と胸を撃ち抜いた。


「ぐぼあっ……」


 フッドは口から血を吐いた。その名のごとく、紅の中に崩れる様に倒れた。

 あまりに一瞬のできごとで、リィも傍らの男も凍り付いたように立ちすくんだ。


「こ、この野郎!」


 リィの隣にいた大男が背中の巨大な剣を抜いた。そして突進してくる。


「ヤメロ、レパルス!」


 リィがそう叫んだが、怒りに火が付いたレパルスは大剣でニケの右肩から左下へ向けて剣を放つ。

 しかし、固い鎧に阻まれて右肩に当たった剣は弾かれる。それでも今度は頭の上で回転させて、左肩へ斬りつける。

 またしても弾かれるが、今度は頭上から真っ二つに振り下ろす。


 ガキン……。

 鈍い音がしてこれも弾かれた。


「くぞ!」


 レパルスは、今度は自分の巨体で体当たりする。これは手ごたえあった。ニケは後方へ10mも下がった。


「これでとどめだ!」


 レパルスはニケを抱えると力増させに空高く放り投げた。


「きゃあああああっ~」


 たまらずニケが叫び声を上げる。ニケの鎧は80キロを超える重さだ。

 ニケの体重を加えたらゆうに100キロ越えである。それを腕だけで放り投げた。


「俺こそは、レパルス、20人斬りの狂戦士とは俺のことだ」

 

 そう言うとレパルスは大剣を垂直に立てた。空に舞い上がったニケが落ちて来る。それをクジ刺しにしようというのだ。


「ふふふ……勝った。変な鎧女はこの剣で串刺し。空中では方向はかえられまい」


 レパルスはそう言って不敵な笑みを浮かべた。その視線はニケの後方で守ってもらった形のケントだ。


 しかし、レパルスは憐れむ目のケントを目撃する。


「きゃああああああっ……」


 ニケの悲鳴が小さくなり、そしてだんだんと大きくなる。落ちて来たのだ。

 そして突き出された大剣を一瞬で粉々にし、レパルスをその体重でぺちゃんこにした。あっと言う間でレパルスは声を出す暇もなく死んだ。


「バ……馬鹿ナ……ソノ鎧娘ガ2人トモ倒ストハ……」

 

 リィはあまりのことに一歩も動けない。

 ケントたちを補足して5分と経っていない。

 それなのに暗殺集団ブラックハートの手練れのメンバーが2人も殺された。


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