第11話 漁民たちの反発
表に出るとジロウタに命令されたのか、アヌビスの漁民たちが集まって来ていた。手にはプラカードを持っている。
「ケントは出ていけ!」
「アヌビスの平和を乱すな!」
そんな文字が書いてある。ケントは大声で漁民に呼びかける。
「俺はみんなが豊かになるように交渉に来たのだ。お前たちは今の暮らしでいいのか。漁業組合の奴らは私腹を肥やす寄生虫だ。いつまでこんなバカなきまりに縛られているのだ。しかもありえないほどの重税。自分の頭で考えろ。俺に従えば暮らしは豊かになる。毎日、米の飯をたらふく食べられるようになる。高額な漁業料の支払いも採った魚の半分を取られるような契約もすることはない!」
「うるさい、嘘を言うな!」
「ジロウタ様を悪く言うな!」
誰かが小石をケントめがけて投げた。ケントは避けたが、それがきっかけでみんなが石を拾い上げる。
「主様、やばいズラ」
吉音はそうケントに忠告した。住民の目に殺気を感じた。この人数から石を投げられれば殺されてしまう。
「逃げようにもこの人数じゃ、逃げられんぞ!」
周りを住人に囲まれている。後ろは組合の建物があるが固く扉は閉じられているのだ。その時だ。
「待って!」
殺気だつ住人の中を銀色の物体が突き抜けてきた。
「ニケ!?」
その物体が何かケントたちには分かった。逆に住民には理解できなかった。よって、止めようとする気を削がれ、突破を阻むことはできない。
鉄鎧姿のニケは手と足を広げ、ケントたちを守るようにして住民たちとの間に立ったのだ。
「なんだ、こいつ」
「鎧をきてやがる!」
「やっちまえ!」
殺気だった住民が石を投げる。ニケの鎧にあたって甲高い音を立てた。それを合図に投石が始まる。
しかし、ニケの鎧はすべてを跳ね返す。ニケの後ろにいるケントと吉音には一つの石も届かない。鉄壁の防御である。
「ニケ、大丈夫か?」
こんな姿でも一応、18歳の女の子だ。狂ったように投石して来るアヌビスの民にビビりもせずに立ちはだかる。
(ニケ、お前、男前すぎるだろ!)
ケントは何だか感心した。鎧を着た変な奴だが、意外と勇気がある。女にしては行動力がある。
ギギギ……。ゆっくりと首が後ろを向く。ありえないことに180度回転している。
(おい、それだと普通、首が折れるのですけど。そして気持ち悪いですけど!)
ニケの様子は全く変わらない。異様な光景に投石の勢いも削がれている。
「はい。まったく痛くありません。この鎧の防御力は石程度ではびくともしませんから」
(たしかにその鎧の防御力、すごいですけど……)
石が当たっても凹みもしない。しかも時々、跳ね返して投げた相手に直撃している。カウンターのような能力まで備わっている。
オトワは魔法の鎧と言っていたが、あながち嘘ではないとケントは思った。100%の物理防御にカウンター。
そして姿が絶対に見えない『神隠し』なる性能。こんな鎧を兵士に着用させたら無敵の軍が完成するだろう。
時々発動するカウンターに恐れをなしたのか、投石が少しずつ止まる。代わりにじりじりと近づいてくる。
さすがにニケでもこの人数に襲い掛かられたら、どうしようもないだろう。
「大丈夫です。いざとなったら、戦います」
ニケはそう小声でそう言った。そして両手を前にして戦う姿勢を取る。この異様な姿でその台詞を言うとかなり説得力がある。
これが鎧姿でなければ立派なイケメン女子誕生であるが、残念ながら今の姿では滑稽さが拭えない。
「戦うって、お前ひとりを残すわけには……」
「あなたに死なれてはわたしが困ります。カリフの町へ連れて行ってもらわなくてはいけませんから」
(おい~っ。やっぱり、お前、男前すぎるやろ!)
ニケはそう言い、一歩前へ右足を出した。ドンと地面が鳴る。かなり威圧感がある。住民たちは中身が18歳の小娘とは思っていない。この構えにたじろぐ。
ニケと住民のにらみ合いになる。このまま、膠着状態かと思われた時、後ろから槍を装備した兵士が10人ほど現れた。
「解散せよ、客人に危害を与えることはアヌビスの恥になる」
大声をあげて住民に命令を下したのは族長のタロ。自分も槍を手に持ち、仁王立ちしている。
「タロ様だ……」
「どうする……」
「ジロウタ様には義理を果たした。これくらいでいいだろう……」
「面倒に巻き込まれる前に退散するか……」
膠着状態で興奮も収まった住人は、ここが潮時だと思ったのであろう。徐々に解散して家の中へと戻っていった。
(助かった……)
住民たちが引き始め、ケントはやっと安堵した。ニケが立ちはだかってくれたおかげで、ケントも吉音もケガ1つない。
また騒ぎを聞きつけたタロがアヌビス兵を率い、ケントと吉音を救わなければ、殴り殺されていたかもしれない。
「あれがタロ様ですか?」
住人が去り、タロたちと共に歩き始めたニケはそうケントに確認した。先頭を歩くタロをつぶさに観察していたのだ。
「ああ。やはり違うか?」
タロの話によると彼はカリフに行ったことがない。よって、ニケの白馬の王子様ではないことは確定している。ニケは助けてくれた王子様の顔を見ていない。
しかし雰囲気とか佇まいは覚えているのであろう。
「はい……違います。もっと、スマートなカッコいい人です」
「……ニケ、その言葉、族長に失礼だからな」
ケントはそうたしなめた。バステト族のニケの好みだ。たぶん、彼女の言うスマートなかっこいいは、筋肉質のバーバリアンみたいな男のことだろうとケントは思った。
そういう男がバステト族でいう「いい男」の条件だ。そして顔は猫顔。ケントのようなモデル体型のイケメン顔は『ブサメン』に分類されてしまうのだ。
タロはどっちかというと、体型はケントに近い。どことなく犬っぽい顔でなければ、イケメンの端くれに加えられるとケントは思っている。




