第10話 アヌビス漁業組合
アヌビス漁業組合の幹部たちとの会見は翌日に設けられた。
ケントのことを敵対する幹部に会うことができたのは、族長タロのおかげ。
タロが漁業組合の幹部たちに頭を下げて会見の場を作ってくれたらしい。
ケントとしてはこのチャンスを生かすしかない。
しかし、会って早々に幹部たちはケントを罵倒した。新しい領主に向かって無礼な態度である。
「よそ者が我々の組合に意見する気か!」
口から泡を飛ばして怒鳴る。口火を切ったは、組合長のジロウタという老人。
年齢は70を超えていそうな風貌。一見すると明日にでもお迎えが来そうなよぼよぼじじいである。
しかし、ケントを一喝する声は元気だ。白いあごひげが電気でも走ったかのようにぴんぴんしている。まさしく組織のガン。老害の元凶のような爺である。
「こんな提案に我らが賛成するとでも思っているのか?」
組合長に追従する男は副組合長のゲンジというアヌビス人。
こちらは60代くらいの男だ。組合長よりはしゃんとしているだけに、顔に血管を浮き出させて少し冷静に反対する。
「そうだのう……。海岸線の立ち退きで町を再建するとか、何が目的か分からぬ。あやつら貧乏人どもはすぐに仕事に行けるよう海の近くで住めばいいのだ」
大人しそうな理事の男はトメキチという中年男。
こちらは50代くらいに見える。最初の2人に比べると穏やかそうであるが、理事長と副理事長に逆らう気力はありそうもない。
「操業料金の年間一定払いに漁獲量の10%に減額だと。そんなことを認めれば、我々が干上がってしまう」
内容で反対してきたのは同じく理事のキュウタロウ。この男は働き盛りの40代の男。
具体的な数字で反論してくるところをみると、交渉の余地があるのはこの男だろうとケントは内心思った。
5人目は組合幹部の中でもっとも若いチョウジ。これは族長のタロと同世代。タロは漁業組合でもっとも話が分かる男だと言っていた。
但し、チョウジはにやにや笑っているだけで発言しない。この成り行きを見守っているようだ。
5人の中では若造だから、立場が弱いのであろう。自分の立ち回り方がよくわかっているようだ。
コホン……。話が出尽くしたのを見てケントは話し始めた。
「住民を海岸線から移すのは、海を汚染させないため。今のままでは生活排水で海の汚染が進むからだ。それにこの海にあった漁業を進めるべきだろう。今のままでは効率が悪く、収入も増えない。収入が増えれば、この組合も潤うだろう」
ケントはそう鞭だけでなくあめも提示した。この海は豊かではあるが、魚は沖に行かないと大量には採ることはできない。
船の大型化。それに見合う漁港の整備。そして湾内での魚の養殖等の計画を説明する。北部の海岸では美しい景色と砂浜を活用したリゾート施設の建設もだ。
「くくく……よそ者は勝手なことばかり言う!」
ケントの話を途中で遮ったのは、一番年長者のジロウタ。歳が歳だけに変化を嫌うのとケントの提案が理解できないのだろう。
またよそ者と言うだけですべてを拒否する。この歳だとそういう爺は珍しくはない。
「そうだ。そんな夢物語にだまされるものか」
当然、次に年寄りのゲンジが追従する。ケントの転生前の日本なら、60代ならまだ若いとは思うが、この世界では化石世代らしい。
50代のトメキチはおろおろしている。元々、ジロウタやゲンジに従っているだけの人物だと思われる。ケントの提案に魅力を感じているが、そのためにジロウタたちを説得する気概はなさそうだ。
「まさしく夢だ。そしてかなわぬ夢。一体、どれだけの金がかかると思っているのだ。実現できなければ詐欺だ」
キュウタロウの意見はケントも予想していた。確かに莫大な資金がいる。そのあてがなければ、ただの夢物語だ。
「あてはある。アヌビス族の繁栄のために協力せよ」
そうケントは言い放った。もちろん、あてはあるが100%成功する自信はない。しかし、ここは交渉の場。自信たっぷりに言わねば、何も進まない。
ケントは5人の理事を見る。一番若いチョウジはケントの意見に好意的な感じを受ける。キョウタロウは黙り込んだところを見ると心が動いているようだ。
年長者のジロウタ、ゲンジ、トメキチは聞く耳をもたない。ケントに意見を頭ごなしで反対する。
「よそ者が勝手なことを言うな。このわしの目の黒いうちは勝手にはさせん!」
ジロウタは顔を真っ赤にして反対する。怒りで血管が浮き出ている。冷静な判断を下せないようだ。ゲンジも同じ。トメキチはそんな2人に便乗している。
「出ていけ、このアヌビスの土地から出て行くがいい!」
交渉は決裂である。




