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第6話 鉄鎧の姫

 7日が経過した。

 ケントは相変わらずベッドに潜っている。吉音はそんなケントを放置している。さすがに飢え死にしては困るので、適当な時間に食事を置いておくが、きれいさっぱり食べられていた。

 7日の間に100人の兵士たちは山城を拡張して、自分たちの宿舎を建設している。バステト族の助けも借りて10棟もの山小屋があちらこちらに完成しつつある。

 壊れた柵も修繕をしており、規模は小さいが山城らしくなっていた。


「ケント様、ニケ様がいらっしゃいました」


 ラーケン大尉がそうケントの住む城の扉を叩いた。吉音が対応してベッドの主と化したケントに知らせる。

 100人の兵士は城の改修をしながら、野営をしている。さらにラーケン大尉と数人の兵士は、使用人も十分でないケントの護衛兼身の回りの世話をしてくれているのだ。


「き、来た……ついに来た~っ!」


 吉音の報告を受けて、引きこもり状態になっていたケントは、やっとエネルギーを取り戻したように動き出した。

 会わないと言う選択もあったが、それはそのまま破滅エンドへつながることになりかねない。ここは会って何か打開策を考えるべきであろうと思ったのだ。

バステト族始まって以来のブサイクと言われる姫の登場だ。一体、どんな姿か見るのが怖い。

 族長のところでは会えなかったのでこれが初めて会うことになる。


(どんな猫顔だ。化け猫みたいなのだろうなあ……ああ、顔を見たら叫んでしまったらどうしよう。いくらなんでも失礼だ。それで婚約破棄になったら……)


 婚約破棄はしたいが、そうなれば身の破滅。吉音に説教されてもまだ自分のことしか考えていないゲスっぷり。

 吉音の介助で急いで体を拭き、シャツとズボンをはいて来客に備える。伸びた髭までは剃れなかったので、もっさい感じだが仕方がない。


「王子……ニケ様です」


 非常に微妙な声でラーケン大尉が紹介した。玄関のドア越しに木で作った輿が見える。バステト族の男が4人いるから担いでこの山城まで登ってきたのであろう。 

ケントは2階のポーチから、一階のホールを見下ろした。そこには猫顔したバステト族の召使女と奇妙な物体が立っていた。


「吉音……あれはなんだ?」


 思わず吉音に聞いてしまったケント。驚愕していたがそれでも小声に抑えた。

 ギーギーギー。ガチャガチャ……。

 動くたびに金属音がする。

 立っていたニケと称するのは、全身プレートアーマーを着た人物。顔どころか素肌も見えない。体は大きい。

 立っている侍女よりも一回り大きい。しかし、プレートアーマーに覆われているから中身は同じくらいだと思われるが、これではどんな体型か想像もつかない。

 一体これは現実なのか夢なのか、混乱しながら1階へ降りたケント。


「あ……あの……初めまして……俺は……ケント……リーグラードの第3王子の……」


 ケントはそう挨拶してみた。もう人間じゃないものへの挨拶だ。調子が狂う。

 がちゃがちゃ……と鎧が動いた。そして侍女の背中に隠れる。いや、侍女より大きいプレートアーマーを着ているから隠れきっちゃいない。

 この鎧娘。かなりの恥ずかしがり屋である。


(おい~っ。バステト族始まって以来のブサイクって、素顔見えないじゃん、ただの鎧じゃん、危ない人じゃん、まるでロボットじゃん。そしてこれで恥ずかしがり屋ってなんだよ。その姿の方が恥ずかしいやろ!)


 心の中で突っ込みまくるケント。

 しかし、この奇妙な鎧娘。いや、娘かどうかも分からない。中身が緑の皮膚でイボイボだらけのゴブリンでも驚かない。


「ニ……ケ……です」


 か細い声で自己紹介するのが聞こえた。

 声は可愛い。

 声だけなら美少女みたいだ。

 しかし、声の主は鉄鎧女。全身を覆うスーツアーマーを着ている。兜には水牛のような大きな角の飾りが両耳から出ており、ぐにゃり曲がってと顔の前まできている。

 迫力のある兜だ。全身は女性用の鎧らしく、曲線美が美しくはあるが、中身は想像もできない。噂ではバステト族始まって以来のブサイク女らしい。


(オワッタ……想像を絶する事態だ)


 想像もしなかった鎧娘に、もうケントは倒れそうである。


「主様、許嫁がわざわざ訪ねて来たズラ。話を聞いたらどうズラ」


 そう吉音が気を利かせた。確かにこの時間に姫だけが尋ねて来るのは何か理由があってのことだ。もしかしたら、この絶体絶命の状況を変える一石が投げられるかもしれない。


「……どうぞ、ニケ姫、こちらへ」


 気を取り直してケントはそう言い、ニケを1階ホールの片隅に置いてあるテーブルへと案内した。

 ギーギーガチャ、ガチャ……とぎこちなくニケは中に入り、テーブルへと進む。

 バステト族のメイドが椅子を引く。丸太で作られた無骨な椅子である。そこへ鉄鎧娘が座る。

 バキ……。乾いた音がした。ミシミシと床板がきしむ音がする。

 床が壊れないかドキドキしながら、ケントも対面に座る。


「それで姫……今日、訪ねて来た理由は?」

「……」


 ニケが何か話さないかとケントは待ったが、もじもじして話が始まらない。


「お茶を持ってきたズラ」

 

 5分ももじもじしていたので、吉音がお茶を持ってきた。一国の王子が使うには少し躊躇する粗末なカップに野暮な紅茶をそそぐ。

 この地方の紅茶だろうかとケントは思った。なんだか野性味がある独特な香りがする。飲んでみると不味くはない。むしろ、美味しい。これは「あり」だとお茶を見つめて感心する余裕まで出てきた。


「あ、あの……ケント……様」


 やっとニケはケントの名前を呼んだ。相変わらず声だけは可愛い。


(……この姫はブサイクということで嫁の貰い手がなく、ここまで独身だと聞いている。婿が決まったということで喜びにあまり、居ても立ってもいられず、ここへ来たに違いない)


 そうケントは都合よく考えている。都でも女の子にキャーキャー言われていた自分の容姿だ。この姫も一目ぼれしたとまだ思っている。いや、そう思いたい。


(しかし、困った。いくらケンジントン公爵の奴にはめられたとはいえ、異民族の姫と結婚したら俺の国王の可能性はなくなる。ましてや……)


 百歩譲って、この姫が絶世の美女であったら考えなくはない。一生、美人の嫁の顔を見てへき地に埋もれるのもアリだと思う。


(しかし、こいつはバステト族始まって以来のブサイクと聞く。そして実際は姿も分からない不格好な鉄鎧女。絶対、結婚なんかするかよ!)


 ケントはどう断ろうか思案している。もう外堀も内堀も埋まり、落城寸前の状況だが、なんとかこの地雷を回避したい。

 そんなケントに衝撃的な姫の声が叩きつけられる。


「私には好きな人がいます!」


第7話「ニケの事情1」は明日の12時に更新予定

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