第二十六話 「我が家に着けば」
さて、山田とも別れて夕焼けも沈む。
あの賑やかな時間から急に静まってしまうのはやはりさみしいものだ。
ついにもう家に到着してしまえば夜の雰囲気へと変わる。
こういう静かに変わっていく影の世界なんてのも味がある。
「(なんで今中二病みたいな事思ったんだろ・・)」
それはともかく鍵を開けてさっさと家の中に入ろう。
きっと家では妹がもう帰ってきているはずだ。
肩にかけていたカバンのポケットからゴソゴソとあさってカギを取り出す。
そしてそれを鍵穴に入れてガチャリとロックを外してドアを開く。
何か入ればもうそこは我が家に帰って来たという感じがすぐに分かる。
後はドアを閉めて、いつもの挨拶だ。
「ただいま~!」
「おかえり~!お兄ちゃん!」
そう、このいつもの挨拶で俺はもっと安心する。
妹の声だ、優しく暖かな声、耳に響いて癒され包まれそうな声。
お淑やかなイメージのある癒しボイス。
玄関のすぐ近くの部屋のドアからひょっこり顔を出して笑顔で迎えてくれる妹の姿。
髪はセミロング並に長く、俺と同じ黒髪ですこしふんわりとしている。
セーラー服姿でエプロンをしてごはんの支度をしてくれていたであろう姿。
どこのエロゲーの主人公の妹だよとツッコミたくなるけど。
微笑ましい姿だ、しっかり育ってくれて俺は本当に嬉しい。
控えめな性格ゆえに押しに弱いのが兄として少し不安だ。
「あ、お帰りなさい先輩ッ!晩御飯のお手伝いに来ました!」
「あ、お兄ちゃんいい忘れてたけど愛川さんがまたお手伝いに来てくれたよ!」
「おう、いらっしゃい」
愛川・・用事ってそういう事だったのか・・いや知ってたけど。
俺の家庭の事情をよく知っているのは山田か愛川ぐらいだ。
だから、こうやって時折手伝いに来てくれるのだが。
なんだろう、まだ数か月の間柄とは思えない光景だ。
手伝いに来るならまだしも・・コイツの場合は決まってこうだ。
「今日も止まるだろ?」
「はい!よくご存じですね!」
「当たり前だ、これで何回目だと思ってやがる・・風呂作っておくわ」
そう、泊りがけだ。
明日が学校だが、親の許可はとってあるから大丈夫との事。
しかも学校も遠く無いし、むしろ夜遅くなって家にまで帰るのが危険だ。
と言う事で愛川はここに来る時はきまって泊まりに来るということ。
いや、その発想はおかしい。
・・しかし、無理に返すのも悪いし、俺はもう慣れっこだ。
妹はこの通りスゲェ仲かが良いからより断りづらい。
まあ、普段俺とかしか家にいないから助かるは助からいいけどさ。
「ありがとうございます!先輩!」
「いいのお兄ちゃん?」
「いいのいいの、飯作ってくれてんだからさ、何か俺もやっておかないとな」
「流石お兄ちゃんだね!」
「流石は先輩です!」
「おう、ありがとう!」
でも、こうやって家に一人増えるだけで寂しさが消え失せる。
元々妹と二人っきりという状況は寂しくは無かったけど。
この状況はより寂しさがどこかへ行ってしまうな。
まったく・・頼もしい奴だよアイツは。
しかし、女の子とひとつ屋根の下同然に泊まらせるのは。
男子としてそれはいかがなモノだろうか・・大丈夫かな。
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