逃亡者-03
ぜんかいのおはなし~!
押井譲達選抜隊員は、件の島へと向かうのでした
おしまいっ!
◇ ◇ ◇ ◇
-作戦開始まで18時間:SS502艦内-
ウェットスーツに身を包んだ俺達は各自装備の確認に追われていた。もう間もなく作戦開始である。ピリリとした緊張感もピークに達しており、誰もが無言だった。ただ一人を除いては。
「いよいよですがな。ホンマ、緊張しまんな~。押井はん、まさか緊張しとりゃせんやろうね?」
「お前一人だけ緊張の欠片も見えないな、気を使わせて悪い。正直いうと、少なからず緊張している」
「そういう時は笑顔。笑顔でっせ! 笑うと緊張がほぐれますさかいな。ここで小咄でもひとつ、カマしましょうか?」
「いいよ。お前のその言葉で、俺は救われてる。毎度ありがとうな」
山崎はニカッと笑うと、親指を立てながら言った。
「短時間でようこンだけ武器を集めたもんや。確かにヴィーゼル級の装甲車が4台ともなると、LAMは複数あったほうがええもんなぁ」
「それにゴリアテ級ってのが引っかかる。一気に制圧しないと、後がややこしそうだ」
「押井はんの”でもでも”って言うの、わいはキライやおまへんで。おかげで随分助けてもろうた。今回も期待しとりますさかい、あんじょうよろしく頼んます」
「…全員そのままで聞いてくれ。もう間もなく上陸作戦を開始する。その前に時間を確認しておけ。日本標準時で、21時だ」
「最近は便利になりましたな、神田はん。こんなところにまで電波時計が通用するんでっから」
「おかげで昔のように時間合わせをする手間も省ける。こんな時代がくるとはね」
「一応、時計が故障してないかの確認は必要だ。もっとも、ここまで来て壊れた時計をつけてるアホはおらんよ」
「押井はん、それは我が身と思って要確認でっせ」
「…わかってるよ。ちゃんと新品おろしてきた。作戦の度に新しくなるんだから、たまったもんじゃない」
「…全員に告げる。あと15分で上陸作戦開始だ。現在海保が島の東部に集中して敵の目を誤魔化してくれている。俺達は西部の小さな浜からの上陸だ。海流の流れは速い。くれぐれも流されないように留意すること!…では、魚雷発射管の方へ移動する」
神田一等陸尉の指示に従い、俺達は各自の装備を魚雷を改造した特殊揚陸艇のトランクに詰めた。結構な重さである。ちゃんと浮力付きで海上に出られるんだろうか? そこは技術版のお墨付きである。信頼するしかない。
俺はエアボンベを装着し、特殊揚陸艇に掴まった。ちょうどトランク部が先頭にくるように配置されており、その後ろに隠れるような配置で三名が入るスペースが確保されている。入る、といってもトランクの影に隠れると言った意味合いだ。本体は人が入る部分で細くなっており、やがて後ろのモーター部に至る。当然だが人が乗るものなので速度は魚雷よりも遅い分、その航続距離は長い。先端部にはジャイロシステムが積み込まれており、島の集合場所までピンポイントで運んでもらえる仕様だ。もちろん、使い捨てなのは言うまでもない。
俺達15名は五台の特殊揚陸艇に捕まり、出発時間を待った。
『特戦群の、その活躍と無事を祈る。以上』
レシーバーからSS-502艦長からの一言が流れてきた。
魚雷発射管内に海水が流れ込む。俺達はそのあまりの水の勢いに、振り落とされそうになった。
『注水完了、特殊揚陸艇を切り離す!』
グン… と鈍いモーター音が海中に小さく響く。そして特殊揚陸艇は二本づつ・計五本が射出されたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
C島。沖縄県宮古島から西にある、国境付近の小さな島である。本来住民はおらず、宮古島を始めとする漁民が中継地として利用している島だ。既に自衛隊が配備されている宮古島と異なり、島しょ部ということもあって未だに自衛隊の配備が為されていない。細長い菱形をしている島の中央部に漁民が利用する小さな施設があり、その施設を挟んで対角線上に山がそびえている。
その施設で漁民たちが休憩をしていたところを急襲されたということだ。酒が入っていたこともあり逃げることもできず、あっさりと拉致されてしまった。
アーナンダ教団の代表、高畑は言う。
「資本の再分配をせねばならない。財閥・グループの解散、それら企業からの財産の没収。そして未来ある若者へ分配せよ。そしていままで資本を独り占めしてきた一部の富裕層に粛清を! 社会民主主義こそ、理想的な姿である。全てはアーナンダ教の教えとともにあれ」と。
そうして未遂に終わった世界初のパンデミックを狙ったバイオテロ。やがて高畠達は二桁とは言わない案件の容疑者として追われていた。日本が経済的にも大きなダメージを被ったこのテロには、某国が関わっているともされる。それだけに慎重に事を進める必要があった。しかるに、だ。誤認逮捕の報道をきっかけに、テロ行為準備集合罪の反対運動が進民党・民社党を中心に活発化したのである。それが足を引っ張ってか、あっさりと国外に逃げられてしまった。一説によると、南アフリカへと逃亡したとも云われる。
◇ ◇ ◇ ◇
-作戦開始まで16時間:C島沿岸部-
C島では、島のあちこちからサーチライトの明かりが煌々と焚かれていた。特に島の西側、現在海自が出張ってきているあたりに集中している。俺達が上陸を果たそうという島の東側にもサーチライトがいくつか見える。が、西側ほど多くはない。俺達は特殊揚陸艇を小さな砂浜に打ち上げると、その先端部にあるトランクから装備を全て取り出した。
スエットスーツを脱ぐ。南の島特有の暖かい風が汗ばんだ素肌に心地良い。
俺達は暗闇の中すぐに着替えると、身を潜めたまま小隊長である芦田一棟陸尉の元へと駆け寄った。
「下達である。後3時間少しで夜が明ける。A班とB班は作戦開始4時間前までにこの島内に配置してある各車両・武器・兵士の数などを把握して、予定通りこのV-Ⅲ地点に集合。そこで最終ブリーフィングを行う。あくまで偵察が主任務だ。作戦開始まで気取られぬよう、行動せよ。質問は?」
「現在の状況下においてV-Ⅲ地点は何もない、となっています。万が一、ここが押さえられていたとするならば、やはり予定通り排除してしまいますか? それとも新しい集合場所を設置しますか?」
俺の質問にも芦田一等陸尉は丁寧に回答してくれた。
「心配するな。俺が必ずここを押さえておく。このV-Ⅲ地点は作戦を展開する点において、敵さんにも分かりにくい、地元民ぐらいにしかわからない場所だ。それに木々に隠れているとはいえ、意外と見晴らしもいい。施設からみても十分に隠れられる岩場もある。確実に押さえておくから、安心して行って来い。他は? …無いな。では山崎二等陸尉のA班、押井二等陸尉のB班、俺と神田・大塚は俺とV-Ⅲ地点を押さえに行く。各レコンとも偶発的排除行動にならぬよう要注意のこと。以上、解散!」
◇ ◇ ◇ ◇
-作戦開始まで4時間:V-Ⅲ地点-
そこは藪に隠れながらも、俺達15人が集まってブリーフィングするのに丁度いい小さな広場になっていた。幾原・出渕・板野3等陸尉が歩哨に立ち、ブリーフィングを開始。さっそく島全体の簡単なジオラマを土で作り、色とりどりの石をおいて作戦の展開を話し合った。敵は可能な限り捕獲。できなければ排除。その確認はできている。首謀者である高畑は生死にかかわらず確保することとなっていた。
各地を偵察して集めてきた情報から、敵車両や兵士の配置、装備を確認。俺達や敵兵士・車両に見立てた石を動かしながら、結果としてドローンを操作していると思われるヴィーゼル級の車両を中心に排除、そして兵員の排除。一気に突入して要救助者を保護する運びとなった。各員の配置についても、ほぼこれで決定となった。毎度のこととはいえ、このブリーフィングには時間がかかる。建物への突入演習は既に長崎で終わらせているものの、平面制圧に関してだけは現地の情報抜きに動くことはできない。こちらの欠員も計算に入れて何度もコマを動かし、検討する。そして最良と思われる案を見出すのだ。
結果、再び3班に分かれることになった。五名ずつの3レコン編成。二レコンが中心から外に向けて敵を排除、残りの一レコンが施設内の敵を排除する。持ってきたLAMは全て施設の外で使用。つまり、B班の俺達は好きなだけLAMをぶっ放すことができるというものだ。通常、LAMの有効射程は約200m。持ってきたLAMは圧倒的に数が足りない。さて、どう対抗しようか…?
はい、とうとう上陸しましたね。
これから本格的に要救助者奪還作戦が展開していきます。
果たしてうまくいくんでしょうか?
これからの展開にご期待!なのです。
それでは皆様、さよなら、さよなら、さよなら~♪




