逃亡者-02
ぜんかいのあらすじ~!
押井譲の物語が始まりました。
おしまいっ!
◇ ◇ ◇ ◇
「では、与党幹部の方々は善良な市民をみすみす人質に取られたばかりか、さらなる危険に晒そうとしていらっしゃるのでしょうか? お答えください」
進民党の遠藤成美党首が意見を投じた。
「内閣総理大臣」
呼び出された石黒昇壱総理に代わって、手を上げたものがいた。与党である民自党幹部であり、防衛大臣でもある垣野内美子である。
「私は総理大臣及び国家公安委員長に聞いているんです、防衛大臣は関係ない! それとも戦争でも始めるおつもりか?」
遠藤党首を始めとした野党陣営が野次を飛ばし始めた。
「垣野内美子君」
内閣府の中でも若手の垣野内はエリートである。帝大を主席卒業し女性初の国家公安委員長を歴任、現時点で防衛大臣に至る。
「その点についてですが、もはや公安委員会は動いております。また人質奪還に関しても手を打っております」
「遠藤成美君」
「手を打っているとはどういう意味でしょう? 武力行使にでも出るおつもりか? ここは慎重に、テロリストとネゴシエートするべきではないんでしょうか?」
「垣野内美子君」
「テロリストと交渉とはどういう意味でしょう? 一旦逮捕勾留した重要参考人や死刑囚を野に放てというのでしょうか? それこそナンセンスだ」
「ナンセンス! ナンセンスだといいましたね? 驕りですよ、それは。与党であるという上から目線の驕りです!」
◇ ◇ ◇ ◇
「ナンセンス。…ナンセンス…、ね」
山崎がワンセグで国会討論を観ながら笑う。
「何が面白い? いつもの風景じゃないか」
「おいおい。我が事だっちゅうのに、これを笑わずにおられへんわ。押井はん、アンタもおかしい思うちょるですやろ?」
「俺はそんな事、どうでもいいと思っている。それは後々の人間が考えるもんだ」
「は? そんな事、後々の人間にやて? どんだけ呑気なんや。もう後数時間後にゃ、作戦に投入される身やろうに」
「そんなこといちいち考えてたら、こっちの身が持たんと言っている」
「ハハン… 押井はん、ビビってはるんやろ? しゃぁないなぁ、おいちゃんが面倒見ちゃろか?」
「それより、山崎はどうなんだ? 俺たちゃ特戦群に配備された時はまだしも、今まで実戦らしい実戦を経験していないんだぜ。せいぜいアフリカまで出張っていって、近所の発砲事件に出くわしたくらいだ。曳光弾が打ち上がった時には正直びっくりしたが、弾が飛んだのは頭の上。結局大事には至らなかった。よくもまぁ飄々としてられるな」
「飄々としている… と思うか?」
「…そうだな。条件は一緒だ」
「俺らは今まで習ってきたことを淡々とこなすだけですがな、ちゃうか?」
「そうだ。淡々とこなしていれば、生きて帰れる。我を失ったら死ぬだけだ」
「ですやろ?」
「そろそろ時間だ。…行くか、相棒?」
「そう呼ばれんのも、もう何年ですやろな? アフリカ… 中東… アジアの海賊もあったなぁ」
「懐かしいなぁ、今度も生きて帰ろうぜ」
「ハイな」
◇ ◇ ◇ ◇
-作戦開始まで24時間前:海上自衛隊 SS-502艦内-
「気をつけ!」
神田一等陸尉が声を上げる。
「今より6時間後に”うんりゅう”は対象となる島の水域まで到達する。そこからは、各自の装備をもって特殊潜航艇につかまり、魚雷発射管から海中を抜けて島に上陸。そこで装備を確認・装備して予定地点に集合だ。海上では海保の艦艇が陽動で出張ってくれている。敵の陣営に関してはブリーフィングで説明した通りだ。ヴィーゼルサイズと思われる装甲車4、ゴリアテサイズとみられるドローン12,未確認の車両が1。確認できる、または予想される敵兵員の数はおおよそ20。各個判断で排除すべし。要救助者は7だ。上陸・集合後に敵の配置を確認後、最終ブリーフィングに入る。以上だ」
敬礼。そして、本命の登場だ。
「この中に実戦経験のあるものが何人いるかは知らない。経験のあるなしを問わず、要救助者を無事に確保したら、全員生きて帰れ。これは絶対命令だ。俺は運がいいのが自慢でな、特に今日から一週間はめぐりが良いときた。安心しろ、訓練を思い出せ。侮るな、ひとつひとつを着実にこなせば、絶対にうまくいく。自信を持ってかかれ。…以上だ」
「芦田一等陸尉に敬礼!」
◇ ◇ ◇ ◇
-作戦開始まで19時間前:帝都・東京-
警笛が深夜の街に響き渡った。
「野坂だ! 逃がすな!」
ビルの隙間を人影が走り抜ける。
サイレンと赤色灯が車の間を通り抜ける。
人々の間を私服達が駆け抜ける。
野坂昭という男がいた。元アーナンダ教団の幹部にして、未だ確保されていない武闘派の一人である。前事件において殺害に関わった案件は十余件。一信者から弁護士に至るまで、ありとあらゆる方法で殺害しているとされる。
『される』というのは、殺害されたといわれた遺体の殆どが薬剤などで大きく損壊されており、発見に至っていないためだ。
故に、状況証拠のみでの立件に時間を取られ、みすみす国外へと逃亡されてしまったのである。その男が帝都内へと舞い戻ってきていた。このことは公安部に大きな衝撃を与えた。その存在だけ、ではない。彼の男が持っているモノが問題だったのだ。
A群溶血性連射球菌特C型。そう名づけられた劇症連鎖球菌はかつて、帝都東京五輪の際にバラ撒かれることを予告された代物であった。それは人為的に操作され、その特異性故に”強感染性人食いバクテリア”とも呼ばれる。それがこの野坂の手の中にあった。パンデミックの恐怖再び!? 公安が恐れたのももっともである。
その存在がつい先日、官邸内にホットラインで繋がれ、逃亡中だったはずの高畑代表から直々に所持表明があったのだ。
”アーナンダ事件”で摘発され死刑宣告を受けた各幹部及び候補生14名全ての無条件開放と某国への亡命。それが高畑代表の求める条件であり、万が一の時はその代償として都民の命と国境の島ひとつであった。簡単に公にはできない案件故に、公安も焦っていた。そして、ようやく今になってとあるビルの屋上まで追い詰めたのである。
「どうしても登降する気はないか?」
公安第二課第二公安捜査部長の今川康夫は、できるだけ時間をかけて交渉のテーブルに持っていこうと試みた。しかし…。
「馬鹿め。ここに来て、そのような話に乗るほど俺はヤワではない!」
それが、野坂の最期の言葉となった。5.56mmの銃弾が野坂の額を貫通し、その身体は闇夜の中にもろくも崩れ去った。
こうして人知れずひとつの物語が終わったのである。
◇ ◇ ◇ ◇
「…そうか。よくやった」
長浜一等陸佐は電話を置くと、大きく息をついた。
「あとは、島の方だな…」
はい、前回からガラッと雰囲気が変わりましたね?
しかも、サラッと流してますね~。
あんまり細かく書くと、抵触しそうで怖かとなのです。
それでは皆様、さよなら、さよ… おっと、誰か来たようだ…。




