とりあえずの保護
すやすやと眠る酔っぱらいの前で立ち尽くしていた協会職員や探索者達の内、何人かが我に返った。
その中の一人協会職員の新井が上司の地守に向かって尋ねる。
「地守課長、とりあえずこの人どうしますか?協会内の休憩所に連れて行きますか?」
新井の言葉に我に返ったのか地守は反射的に答える。
「そ、そうだな、協会内の休憩所に運び込んで……逃げ出さないように厳重に見張らんとな。」
「判りました。」
新井は集まった探索者のリーダー格である二人、不知火と神楽坂に酔っ払いを協会の休憩室に運び込み監視する様に指示を出した。
その内の一人、不知火が確認のため新井の方へ顔を向けた。
「新井さん、今日のダンジョン探索は中止ということですか?その場合は追加報酬は出るんでしょうね?」
どうやら監視に当たることで本来の報酬が減額されることを危惧している様だ。
「それは当……」
新井が“当然”と言いかけたところで地守がその言葉を遮る。
「新井君、何を言ってるのかね、今の状態は緊急事態では無い!従って、基本報酬に含まれている事案だ。よって、追加は認められん!」
明らかに想定外の事態なのだが、この地守は探索者の報酬が増えることで自分の手腕が疑われると思っているようだ。
実際はもう既に周囲から疑われているのだが、地守本人はその事に全く気づいていない様子である。
「それと、ダンジョン探索は中止では無い!直ぐに探索に赴け!」
その言葉を聞いた不知火は眉をひそめ足を止めた。
今、大阪城ダンジョンに集まったのは国内でも有数の高ランクの探索者達である。
その彼らのほとんどが、”想定外の事態が起こったのであるなら、その原因を知るためにはその当事者であろう人物(酔っ払い)から情報を入手することを優先すべきだ”と考えていた。
不知火は情報の入手を無視してダンジョン探索を行わせようとする地守を冷ややかな目で見つめ溜息を吐いた。
「地守さん、我々はダンジョンへの入坑を拒否する。」
不知火の言葉を聞いた地守は顔を真っ赤にしてつばを飛ばす。
「何だと!探索者の分際で入坑拒否だと!お前は準国家公務員だろう、ダンジョンの緊急時の対処を知らないのかっ!」
「ええ、知ってますよ。”ダンジョンの緊急時には探索者はその対応に当たらなければならない”でしたか?」
「そ、そうだ、だったら早く……」
不知火はニヤリと笑う。
「ええ、ですが今の状態は緊急事態では無いと先ほど言いましたよね?地守さん?」
「あ。」
地守は自分の失言に気がついたのか,先ほどまでの真っ赤な顔とは違い一気に青ざめた顔になった。
「いや、先ほどのそれは言葉のあやという物で……」
「あや……と言う割には全く洗練されていませんわね?」
神楽坂は地守の発言にすかさず駄目だしを入れる。
「いや、そんなことより今は緊急事態だ!あ、いやそうでも無いのか?だとしても??」
どう言いつくろうか混乱する地守を尻目に不知火は軽く溜息を吐いた。
「緊急かそうで無いか、どっちにしろ我々は仲間を危険にさらす気は無い。入坑しませんよ。まずはこの人物から話を聞くのが先だ。おい。」
そう言うと不知火は仲間の一人を呼び寄せた。
「陽太、この人を協会の休憩所まで運んでくれ。場所は新井さんが指示してくれるはずだ。」
不知火に呼ばれた男、佐野 陽太は男の足を持ち、体を抱え込むように前転させると、自分の肩にかつぎあげる。
「新井さん、この人何処に運びましょうか?」
「そうですね。あまり使われない20号休憩室がいいでしょう。」
新井は大阪城ダンジョンの協会支部にある休憩室は全部で20、そもうちの最も協会から遠い20号室を指定した。
協会支部からは近いがダンジョンから最も遠いためあまり使われていない。
「誘導しますよ……おっと、これも持っていかなくては。」
そう言うと新井は地面に落ちていたマイナンバーカードを拾い上げる。
現在の物とは違い少し薄い古いマイナンバーカードには栄田 来栖と記載されていた。




