喧々諤々、当の本人は前後不覚で爆睡中
辺りに警告音と音声が鳴り響く。
その音声を聞いた探索者や協会職員が騒ぎ出した。
その中の一人、神経質そうな顔の協会職員達の上司らしい男、地守 良雄 が直ぐ後ろにいた少し小太りの部下、新井 水貴 に顔を向け、額に皺を寄せながら尋ねた。
「どう言うことだ?新井、機械の故障か?旧カードだからか?」
「地守課長、エラーは考えられません。現に旧カードの認識は行われています。認証装置に問題はないと思われます。」
尋ねられた新井は汗を拭きながら答える。
「だが、それだとライセンスを持たない者がダンジョンに入っていることになる。そうなると大阪支部の管理が問題になり、わしの査定に響くじゃないか!機械の故障だろう!新井、よく調べろ!」
兎に角、地守はあくまで機械の故障としたいようだ。言動と態度で自分の責任にしたくないという思いが透けて見えた。
「課長、そう言われてもですね、ダンジョン関係の認識装置の故障は今まで起きたことは無いんですよ。」
「では何か?こいつが何らかの方法で不正にダンジョンに入ったと言うのかね?」
渋い顔をした地守は酒瓶らしい鋳物を持った酔っ払いを指さす。
「いえ、現状判っているには、機械の故障ではあり得ないと言うことだけです。」
「では早急に原因を調べたまえ!」
地守と新井が小田原評定というか堂々巡りの話をしている横で酒瓶らしき者を持った酔っ払いは、カードを何度も認証機に翳し続けていた。
男がカードを翳す度に、
<……マイナンバーカードを確認……有効期限切れ……旧カード情報を検索……該当者一名……探索者登録無し。>
と言った音声が繰り返し流れる。
「……なんだよぅ、このカードじゃ通れねぇのか?んん?あ、酒も残り少なくなってきたな。美味い酒だけどなぁ……飲むか……うーん……いや、残りは後に置いとこ、そうしよう、そうしよう……。」
そう言うと酒瓶らしい物を抱えたまま通路の隅までふらふら歩きおもむろに横になり、程なくして、男はいびきを立て始めた。
男のいびきが辺りに鳴り響くと様子を見ていた探索者連中が騒ぎだす。
その中でも有数の実力を持つ二人が酔っ払った男を見ていた。
「こいつ良い度胸をしている、ダンジョンへの通路で寝てやがる。」
斬馬刀を背中に背負い不敵な笑みを浮かべながらこう呟く目つきの悪い男、不知火 刃。
10年前のダンジョン発生時から探索者として活動している。つまり、自衛隊上がりである。
ダンジョン探索における自衛隊の活動があまりにも消極的に思えたため、ダンジョン法が執行と同時に自衛隊を退職し探索者となった。
自衛隊とダンジョンで鍛えられ、がっしりとした体格をしており精悍な顔つきである。
「この人が持っている酒瓶?でしょうか。何か変わた物のように見受けられます。」
そう疑問を投げかけたのは、神楽坂 詩刃。
長い黒髪を後ろに束ね、長刀を手に持つ麗人である。
成人である18歳で探索者としての活動を開始し、わずか3年で最高ランクである甲種探索者となった天才。ダンジョンの申し子とも言われている。
「いやいや、そんなことよりも大事なことがあるだろう?さっき”探索者登録無し”と聞こえたてたよな?」
「……と言うことは無資格探索者でしょうか?どの様にダンジョンに入ったのか……別ルートがあるのでしょうか?」
国内にいくつかあるダンジョンには別の入口が存在する物もある。中には巧妙に隠されたっものもあり、大抵は裏社会や犯罪組織に利用されている。
「まてまて、別ルートを知っている無資格探索者だったとして、そいつがご丁寧にゲートから出ようとするのか?」
「他には私たちをこちらに引きつける陽動とも考えられますが、その場合、今のダンジョンの状態でどの様なメリットがあるのか疑問ですね。」
二人は考える限りの可能性を議論していた。が、どれも毛定だに欠ける内容だった。協会職員の地守と新井も先ほどから同じ事を堂々巡りのように繰り返している。
つまり、協会職員も探索者達も謎の酔っ払いについてあれこれと推測を言い合っていたが、意見はまとまりそうに無かった。
ただ一つ共通しているのは
”誰だコイツは?”
と言う考えだけだった。
そんな協会職員や探索者の前で帰ってきた酔っ払いは酒瓶らしい物を抱きながらすやすやと眠るのであった。




