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森の子守歌

 シンが機嫌よく口笛を吹いている。

 村の祭りで聞き覚えたらしき旋律を器用に奏でている。

「……歌わないのか?」

 ふと思いつきで尋ねた。

 アロウにとっては楽器の旋律よりも、歌声の方が馴染みがある。

 シンの鈴の音のような美しい声ならば聞きごたえがあるだろうと思ったのだ。

 すると、シンは嫌そうな顔をして口笛を止めた。

「えぇ……歌ぁ?」

「歌がそんな嫌なのか?」

 あまりの反応にアロウはたじろぐ。

 酒場や興行で詩人や歌姫の奏でる歌声に耳を傾けるアロウとしては、何がそんなに嫌なのかと疑問に思う。

「まあ歌えなくはないけど」

 ぶつぶつとシンは何かひとりごちていたが、ふと顔を上げるとすっと息を吸い込んだ。

「~~~♪」

 美しい歌声だった。

 ただ……

 アロウもシンと同じ嫌そうな顔をすることになった。

「……捨てられた女の歌だ」

「こういうのしか知らないもーん」

 シンがぶうっと頬を膨らませる。

 唯一の家族が飲んだくれだったという環境では仕方がないのかもしれない。

 何と言っていいか困ってしまったアロウの腕に、シンはぱっと表情を変えて飛びついた。

「そうだ、アロウが教えてよ!」

「え゛っ」

「こういうの以外の歌!知ってるんでしょ?」

 首をかしげて上目遣いで「お願い」と見上げてくる仕草はわざとらしいが、大きな目をきらきらさせて迫られる効果は無視できない。

「そういうのやめろ」

「じゃあ教えてくれる?」

「……わかったよ」

 アロウはしぶしぶといった感じだったが、観念したようにため息をつくとシンの手を外してベッドに放り込んだ。

「ちょっと!」

 文句を言う頭に枕を押し付け、乱暴に布団をかける。

「今日だけ特別だ」

 ベッドカバーの上から脇に腰かけたアロウはちょっと言い訳がましく言って、息を整えて歌いだす。

 シンの肩に添えられた手が刻む一定のリズムと、時々調子を外す遠慮がちな歌声。うまくはないけど、優しい声だ。

「へえ……」

 シンは感心して呟く。

「悪くないね」

 "普通の親子"は、こんなふうに寝かしつけてもらうことがあるんだろうか。

 アロウも誰かにそうしてもらった?

 見上げたが、遠い過去に耳を澄ますような横顔からは感情は読み取れなかった。

 歌詞は空を漂い、川を超え、森へと還る。

 美しい景色に思いをはせながら、シンはまどろみに身を任せていった。

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