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元・奴隷の少年は王宮を駆け回る  作者: 水月
混沌の革命者
126/166

裏切りの舞台

 王弟一派が捕縛されて連行され、その場に残ったのは何とも豪華なメンバーだった。ルゼノ王、元王妃レノン、第一王子ユエルディーネ、王と王妃の甥であるユオルディーラ、高位貴族の子息レーウィス。十数年前にはよく見かけた光景だ、と王家が贔屓にしていた情報屋〈黒の予言者〉と呼ばれたルイは懐かしく思った。

 ルイにとって、王城は実家より馴染みのある場所だった。ルイとレイが幼い頃から城に出入りして友人となったルゼノ王夫妻、彼らの愛息と甥、そして彼らの友人が揃うのはルイが見てきた過去であり、現在、そして未来に"在るべき形"だ。


「──伯父さん、どうかした?」


 聞こえた声に視線を下げれば、甥であるヒカルが怪訝そうな顔でルイを見上げていた。夕方、喫茶店で別れてから随分と早い再会であるが、計画上ではヒカルは途中でステラに拾われ、スカイティア達と一緒に嘆願書集めに協力してもらう予定だったのだが、どうやら道すがら行き違ってしまったようだった。


(さて、スカイティアは大丈夫かな?)


 三日前に再会した時には実の兄弟だと認識していなくとも、スカイティアにはヒカルに対する執着のようなものが伺えた。ヘラーザを通じてヒカルの様子を聞いた際には少なくとも関係が悪くなくてよかったと思ったが、それでも好意的なのは何かしらの縁を感じたのだろうか。

 今日の行動に至ってはユエの出生や王弟の謀反などの衝撃が大きく、また署名活動に必死だったから冷静だったものの、今頃ヒカルの事を考えているのではないだろうか、とルイはふと考えて、ヒカルを見た。その黒髪から覗く丸々とした黒い瞳はスカイティアのものと色は異なるものの、その容姿そのものは幼い頃のスカイティアとそっくりである。


(今更だけど、スカイティアの幼少期を知っている人からしたら、ヒカルとの関係を予測するのは容易かったかな)


 スカイティアは自分の容姿に関して無頓着な為、考えもしなかっただろうが、周囲はそうではなかったのだろう。ふと先日顔を合わせた某伯爵を思い出してルイは噴き出し掛けるが、甥から怪訝そうに見られ、ルイは思い止まった。


「いや、懐かしいなって思って」

「この揃った面子が?」


 ルイの視線の先に目をやって、ヒカルは視線を戻した。


「そうそう…あぁ、でも、足りないね」

「そうね、足りないわ」


 ルイのぼやきに、レイも賛同する。


「早く"夜空"と"月"の元に帰ってこないかな、星の姫様は」


 あの中にあるべき"星"はまだ城下を駆け回っているのだろう。大切なものを守る為に。


◆◇◆◇◆


 時は遡り、ルゼノ王弟の謀反が起こる十数日前。ルゼノ城の一角にある部屋──第一王女の部屋のバルコニーに忍び込んだルイに向かって、室内から四角い物体が投げ付けられた。


「──久しぶりだね、気高き星の王女様」


 王女の牽制を軽々と受け止めたルイは、ローブの下に笑みを浮かべて王女の部屋へと入り込む。四角い物体──分厚い歴史書を投げ付けたのは王女本人だったようだ、と護衛はおろか侍女の姿もない室内にルイは苦笑した。

 そんなルイの視線の先で、王女──アルトステラは煌めく金糸の下の深青色の双眸を歪めていた。長年音沙汰のなかった教育係が唐突に現れたのだから驚くのも無理はないが、ステラの表情にあるのは驚愕ではなく、呆れであった。


「貴方にそう言われると、非常に違和感が致しますわ、ルイ殿」

「君の噂は聴いているよ。〈聡明で冷静な王女殿下〉……あのお転婆王女がよくも此処まで、と」


 大仰に肩を竦めるルイに、ステラはくすくすと笑った。


「あら、お転婆なのは変わらないと兄上には言われますわ。あぁ、最近では物語を壊す破天荒なお姫様だと」

「何をやっているのかな?」


 追加された言葉に、ルイはローブ下の顔を引き攣らせた。嘗てはルゼノ一と言われていた情報屋でも、十年余り離れていた国の王族のことを裏まで調べ上げることはできなかった。


「ただの政略結婚の駒はやらないことをしているだけですわ」


 その言わんとするところを理解して、ルイは小さく溜め息を吐いた。


「成る程、殿下ほど『転んでもただでは起きない』精神を体現化した王女はいないだろうね」

「褒めています?」


 怪訝そうな王女に対し、ルイはくすくすと笑う。本当に王女は予想を超えた成長を遂げた、と。


「それで、今更何の御用です?貴方はあの事件以降、姿を消した筈では?」

「そりゃ、殺される寸前だからね……流石に身の危険を感じたよ」

「……我が国の貴族ながら、最悪ですわね」


 ルイがルゼノを離れる切っ掛けとなった事件は王宮内で起こっている。その事実を知ったユエとステラは憤り、益々『金髪至上主義者』への嫌悪が募ったようだが、それでもルイは彼らの行動には目を瞠った。伝手を駆使して情報を集めれば集める程、あの幼かった王子達の描く未来図の断片を垣間見る度に、その成長を誇らしく、そして同時に危うさを感じた。


「そう、そこさ!それでね、僕の王女様に相談にきた」

「相談?」


 ルイの思惑を知ってか知らずか眉を顰めるステラに、ルイは口元に笑みを湛えた。


「君、ユエ殿下とレーウィス殿の計画に乗っているだろう?」

「兄上達の計画…?一体、何のことです?」


 首を傾げたステラに、ルイは笑みを深めた。まずは探り合い。これが師弟の再会かと思えば随分と殺伐としたものだが、ルイとステラの間では当然のことだ。しかし、ルイは確信を持っていた。


「名付けて『ルゼノ王権威復活革命』作戦とでもしようか?」

「……名付けなくていいですわ」

「そんな残念そうな目で見なくても…」


 彼女の幼い頃の姿が蘇るほど呆れを隠さない素直さに、ついつい昔を懐かしむ。しかし、本題はこれではない。彼女もそれを分かっているので、それで?と先を促してきた。


「君は、ユエ王子達が死んでも構わないのかい?」


 知りえる情報の中でも重要な一枚の手札を切る。彼らの狙いの中で、最も重要な内容の一部だ。部外者とも言いきれない、しかし作戦を担う関係者ではない、嘗ての当事者が絡んできたとなれば、少なからず反応を見せるだろう。


「ふふっ、嫌ですわ。王族には常に命の危険が付きもの。私も兄上も死んだら、その程度ということでしょう?」

「王族の矜持というか……それを普通に受け止められる年、なんだねぇ」


 しかし、彼女はその切った手札に思うような反応はしてくれない。元より望みは薄いと思っていても深々と溜息を吐いたルイを、ステラは何処か懐かしむように双眸を眇めた。


「何より、座して死を待つより行動して本懐を遂げて死する。目的を達するなら本望ですわよ、我々は」

「遣り難い!」


 癇癪を起こす子供のように頭を両手で掻き毟るルイの動作に、ステラは目を瞠ると軈て笑みを溢した。その微笑に、何故だか友人だった王妃の影を見た。遡れば血の繋がりはあるとはいえ、それでも彼女はとても王妃に似ていると思う。


「何時までも子供ではありませんのよ、私も兄上も。遣り遂げたい事があるからこそ、それに命がけでも挑むのです」

「命があってこその物種なのに、君達は少しばかり視野が狭いね」


 お伽噺や英雄譚に憧れるような年齢ではないし、そんなものを信じた過去など一瞬たりともないだろう王女はどうやったらルイに靡いてくれるだろうか。


「それは説得ですか?」

「ねぇ、ステラ王女。君の望みはユエ王子と同じなのかい?」


 ルイが他の手札を切るには彼女の望みが分からない以上、悪手だ。彼女は既に自分の手で望むものを掴み取る力があり、自分の力が及ばないと判断したなら、叶(・)う(・)範(・)囲(・)以(・)上(・)は(・)望(・)ま(・)な(・)い(・)程に聡明だ。うっかり切った手札で、却って己の足元を掬われ兼ねない。

 さて、彼女の成長を喜べばいいのか、それとも今回ばかりは恨めばいいのか。もっと昔、彼女らが幼かった頃ならば、何も持たない無力な姫だったならば、ルイが差し伸べた手に縋りついてくれただろうか。

 そんな想像をして、否定する。彼女は彼女だったから此処にいて、ルイが欲しいものを持っている。彼女が何もなし得ない人物だったら、ルイの方こそ縋りつく様に取引を持ち掛けなかった。


「師匠は、何処までご存知?」


 ルイの素直な問いに、ステラもまた何処か覚悟を決めたように目を眇めた。


「言った通り、ルゼノ王の権威復活の為に、王弟一派が起こす騒動を殲滅すること。その果てに、彼(・)ら(・)は(・)命(・)を(・)捨(・)て(・)る(・)ことになるだろう?そ(・)の(・)出(・)生(・)の(・)為(・)に。…彼からすれば、これが本筋なのかな?同時進行して、髪色の違う異母弟達を王宮から逃がす。行き先はライゼルス、だろう?」


 彼女相手に切れる手札は余りにも少ない。しかし、嘘偽りや迂遠にして彼女を味方につけるなど、不可能だ。半分諦めて情報屋らしくもなく情報を開示すれば、ステラは暫し沈黙した。


「……貴方の情報網って、一体どうなっているのかしら?」

「各国も含め、伝手は君達にまだ負けないと思うよ?」


 肩を竦めたルイに、ステラは何処か面白そうに口元を緩めた。


「それで、貴方の目的は?我々の邪魔する心算はありませんよね」

「僕は君達の邪魔をする気はない。でも、命を捨てて欲しくない……それが僕の依頼主の望みだ」


 元アーベント伯爵夫人ヘラーザが望んだこと──ユエとレーウィスに死なせない事。ヒカルの居場所を探す為に協力してくれた彼女は非常に情が深い女性だ。大切な息子達を助けて欲しい、と彼女が願った。そして、それはルイ自身が望むものでもあった。

 しかし、その為にはユエ側の人間を引き込まなくてはならない。作戦の根本を知り、尚且つ裏切りを悟らせない人物なんて、ルイには一人しか思い浮かばなかった。


「……成る程。命さえあれば、とはよく言ったものですね」


 ステラの口から溜息が漏れる。その顔には「計画を知ってなお止めるのではなく命を捨てるな、とは…」とありありと書いてあった。

 ルイとて一番確実な手段は、彼らの計画そのものの頓挫を狙うことだと分かっている。しかし、それがただの延命にしかならないことを理解していた。今回の計画を止めた所で、第二、第三の計画を練って遂行するだろう。そんな予測ができる程に、ルゼノという国が歪に映り、また脆く壊れかけていると知っていた。


「……革命に犠牲は付き物、とは思いません?」


 ステラの問いに、ルイは昔を懐かしむ。彼女の変わらない姿勢に、いっそ驚いて。

 どんな英雄譚にも犠牲はある。誰も犠牲にならない物語など──詳細な描写があるなしは兎も角──全くない。しかし、その最後が「めでたしめでたし」で終わる物語ほど、その物語の最後が主人公の人生の絶頂期なのだ。その後のことは誰も語らない。何が起こったかも描かれていない。まるで、それ以降の事は存在しないかのように。

 そんな事は在り合えない。人間は死ぬまでがその人間の人生だ。「幸せになりました、おしまい」などという人生は存在しない。それを理解していたお姫様だからこそ、ルイは幼い頃から超現実主義の王女に「夢がないね」と茶化していたが、ステラにはそれだけ現実が見えていたのだと悲しく思ったことも懐かしい。


「多くの人々を救う為の犠牲、かい?確かに為政者は良く使う言葉だね」

「私、あれらの同類ですか?それだけは嫌ですわね」

「ははっ、正直なところは変わらないね」


 途端に黒い笑みを浮かべるステラに、ルイは思わず膝を叩いて爆笑した。

 あれだけ世間では〈冷静で聡明な王女〉と呼ばれているステラが、こうも嫌悪を隠さないのはいっそ面白かった。言葉一つ、表情筋を使う時機さえも狙って使い分ける彼女が、反射とも言える速さで否定と嫌悪を示したのは、隠すこともできない程に認めたくないことだからだろう。

 『為政者』と一括りにしたのは先代ルゼノ王を含めた上層部の事だが、彼女はきっと死んでも彼らと一緒にはなりたくないだろうし、ルイだってステラを一緒くたにした輩がいたら、その輩を意図的に貶める情報を流すだろう。

 この王女とて清廉潔白という訳ではない。情報を集めれば集める程に、真っ白だった──多分そんな時もあった筈の──彼女がグレーゾーンギリギリの方法で、己の望みを叶える事を知った。その反動が全くなかった訳ではない以上、一緒くたにする奴はいるだろうと分かっていても、彼女が何を思って行動しているかを理解している者からすれば、自己都合や保身だけで動いている輩と一緒にされるのは御免だ。


「ねぇ、お師匠様?私は『転んでもただでは起きない』王女、なのでしょう?貴方は私が兄上達を裏切る見返りに、何を齎します?」


 昔のように少し気取ったような呼び名で、それでも守られる者ではないと意志を秘めた強い目で、ステラはルイに取引条件を催促した。


「そこなんだよねぇ…正直、僕も与えられるものがない。だから、君は何を望む?」


 彼女に対して切れる手札がない事は、彼女の問いから分かっていた。彼女は国の建て直しを望んでいる。しかし、その為にはユエ達が起こす計画を成し遂げた上で、という条件付きだ。国の建て直す為に必要なことが王弟一派の完全失脚であり、またマーシャンド皇国すらも巻き込んだ騒動である以上、その代替え案など一介の情報屋の手に負える案件ではない。だからこそ彼女から譲歩を引き出さなければならないのだが、幼い頃より聡明で一層狡賢くなってしまった王女を一人で相手取るのは中々に骨が折れる。


「兄上の邪魔をしないけれど、ユエ兄上達に命を捨てさせない…でも、これにはユエ兄上達には生(・)き(・)る(・)理(・)由(・)が必要になることは、ご理解頂けますよね?」

「……困ったことにね」


 望みを聞いた筈なのに、まるで協力的な物言いだ。それだけで、彼女はユエ達の計画に執着していないことを感じ取れる。しかし、その内容は中々に面倒なことを示していた。


 何時か平等に死は訪れるのに、何故、彼らは生き急ぐ。何故、死に向かっていくことを自ら決めた。

 命を懸ける価値がある、命を掛けなければならない。

 そんな思いは確かに守りたいものがある者には大きな理由だが、ユエ達は違う。否、全く違う訳ではないけれど、己が何者かを知り、今生きる場所に絶望した先に、命を賭ける機会を見つけたに過ぎない。……それが、最初から望まれていた道だと幼心に刻みこんで。

 そんな彼らには生きる理由がなければ、生きることを望(・)ま(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)と(・)思(・)え(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)、この先を生きられないのだ。


 幼い頃から、何処か歪な子らだと思っていた。ルイにとっては甥同然の、友人の子であるユエはずっと昔から己の出生の秘密を抱えていた。ルイが彼らその秘密を知ったのは随分後で、それも偶然だったが、証明する術のない、根も葉もない噂程度で彼らが揺らぐなんて思ってもみなかった。今思えば、ルイとて選択を誤っていたのだ。

 情報屋が誰かに肩入れする時には、それ相応の報酬がなければならない。しかし、今ならば先行投資と思って動いておくべきだった。何より、それが出来ていれば今とは違った道が開けていただろうから。

 とはいえ、『後悔先に立たず』である。終わったことを、過ぎたことを悔いても戻るものはない。他人事ならば今でも放置だが、今回は当事者かつ身内絡みの案件である。労働や投資を惜しむところではない。


「では早急に、こ(・)れ(・)ら(・)を手に入れて下さい」


 尽力するという意図が伝わったのか定かではないが、ステラはにっこりと笑ってルイに一枚の紙を差し出した。その紙を受け取ったルイは苦笑を浮かべ、彼女を見返す。


「もしかして、僕がルゼノに戻ることも予想していた?」 

「えぇ?私は偶然にも『黒髪』の奴隷を探している方の情報を頂いただけですわ。その方の容姿が昔のお師匠様に似ているな、とは思いましたが」

「教え子の成長が怖い。誰に似たの?ルゼノ王だよね?ミストリア公爵家って、そこまで有能だっけ?君とシュテルインって子は突然変異なの?」

「……恐らく、シュテルインは母親似、私に関しては…陛下は貴方の悪影響だと仰るかと」

「え、酷い!それが十数年来の友人へ向ける言葉!?」


 教育係に指名しておいて何それ、と文句を垂れていたルイだったが、正直ミステリアス公爵家とは縁もゆかりもないし、というか誼を結ぶ気など更々なかったレベルで嫌悪していたので、お気に入りの王女が自分に似たならいいか、と言葉を止めた。


「それで、スカイティア達は如何するのです?事と次第によって、私が描いた計画も破綻するのですが」


 ステラの描いた筋書きと、誰かが行動を変えれば一気に計画は崩れ去る。修正可能な範囲ならばまだしも、問題はルイの妹が出て来たことにある。


「レイは直ぐにでも連れて帰りたがったけど、彼らのことを聞いて一緒に王城に乗り込む気満々だった…あの何だかんだ言っても人のことを放っておけない所は、きっとヒカルに受け継がれたんだろうね」

「そうですか。まぁ、二人を連れ帰る時機を延期して下さるならば、私としてはどちらでも構いませんよ?計画当初から、騒動後には暫く身を隠して貰う予定でしたし、その先は当事者で話し合って頂ければ」

「……スカイティアは納得するかな」


 ただでさえ漸く仲直りした状態なのだ。歪でも確かに愛されていたと実感して間もないというのに、この仕打ちとは、と頭を抱えたくなる。


「ですから、それは当事者間で話し合いをお願いします」

「冷たくない?二度と会えないかもしれないのに…」

「え、帰るって、城下にあった家ではなく?御父上の故国へ帰るご予定でしたか?」


 そこは予想外だった、とステラが目を丸くする。その選択肢がなかった訳ではないが、どうやら彼女は離別を前提としている訳では無い様だ。ちょっと嬉しい。


「それはさて置き…」

「おいておくの」

「前提として、今回の計画は決行しなければならないので」


 今現在、思い上った王弟と貴族のせいで、ルゼノ王の権威は衰退していると言わざるを得ない。

 だからこそ、ユエは騒動の果てに命を捨てること──王弟が思い上がった理由であるユエ自身共々、ルゼノ王に処刑されること──で、不穏分子の排除とそれに伴い、王の権威を復活させようとしている。ある意味、自作自演であるが、成功すればこれ以上にない効果があるのも事実だ。

 計画そのものはユエらしい綿密な策だ。その為の情報収集力、戦力は勿論、情報操作要員まで揃えているのだから、失敗する要素は殆どない。


 ──今のステラのように裏切り者がでなければ、あ(・)る(・)一(・)点(・)以外を除いては何の不安もない。


 そう、ある一点。不安なのは、ルゼノ王本人がユエを処刑できるかどうか、だ。

 ユエが描いた計画をルゼノ王が容認すると、ユエ本人が思っているから頭が痛い。実を言うと、その辺りから不安だったのだ。指摘しなかったのは、ステラも水面下で別(・)の(・)計(・)画(・)を立てていたからだが。


「ま、それこそ僕が望む展開になるか」

「ふふっ、今回は私の手駒になって頂きます。まずは…」


 クラウディアとスカイティアが、この事実を受け止められるか。そして、ユエとユオの為に王都を駆け回り、処罰軽減の署名や嘆願書を集めることができるか。

 ただでさえ、髪色蔑視の強い王都だ。スカイティアの『黒髪』は未だに受け入れ難く、またクラウディアの知り合いを回ったところで『金髪至上主義』に反感を持っている王都民とて皆無ではない。

 彼らに求める条件は城下の住民の署名と嘆願書の過半数を集めることだが、二人だけで住民の過半数以上からユエとユオの支持を集めることは容易ではない。それでも、それ位やらなければ連座で処罰される階級である以上、周囲を納得させられない。何より、後世に遺せないような遣り方では駄目だ。この先の未来に起こりうる売国奴や反逆者への処罰の度に、事例として出されて困るような事実は遺せない。だから今回の一件で『温情』を与えるには、与えるだけの理由がなくては成り立たないのだ。


「じゃ、僕は先にこ(・)れ(・)を捜してくるよ。当てがある」


 二人が浮かべるのは共犯者の笑みだ。これでステラとルイの共通の筋書きが進むことになった。


◆◇◆◇◆


「──伯父さん?」


 お転婆姫に再会した日の事を回想していると、斜め下から甥の怪訝そうな声が掛かる。鏡のように相手を映すその瞳に浮かんだルイの表情は悪戯を考えた子どものような顔をしていた、と自分で思うくらい愉悦に歪んでいた。……いけない、甥に怪訝な顔を向けられる訳だ。


「……周囲を巻き込まないでね」


 ルイが何かを言う前にヒカルは何かを察した様子で、何処か諦めたような達観したような表情になり、「はて、この子は今幾つにだったっけ?」とルイは首を傾げたのだった。

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