イメージカラーと好きな色2
第四王子ヴァイスルナハルトの宮殿から戻り、主人である第三王子スカイティアの宮殿に戻ると、そこには目当ての人物がいた。
戻って直ぐに目がつく、紅の髪。『赤髪』と呼ばれるが、夕焼けのような濃い赤…紅といった方がしっくりする気がしてきた。
「お帰り、ヒカル」
「お帰りなさい、ヒカル」
「ただいま戻りました」
スカイティアとレーウィスと、午後が非番だという第二王子クラウディアがいた。相変わらずの入り浸り具合である。よし、好機到来!
「いらっしゃいませ、クラウディア様、唐突ですが好きな色は何色ですか、次から選んでください」
口を挟む暇もないように矢継ぎ早にして問えば、クラウディアは手に持っていた紅茶のカップを置いて、ゆっくりとヒカルを見た。
「……心理テストか?」
「バレますか」
ヴァイスもそうだったが、クラウディアも察しがいい。諦めて認めれば、まだ答え合わせをしていなかったスカイティアが目を瞬かせていた。
「テストだったの?」
「テストとは言っても、好きな色はその人の内面が表れるといわれると聞いたので、ちょっと試しにやってみようかと」
好きな色が内面を表すとは言っても、それが全てではないけれど。
「その対象が王子って…」
「仕方ないじゃないですか、他に知り合いがいませんし」
「そうだな…ネタバレしているが、内面と言われると答えづらいな」
「あぁ、色々ありますもんね」
色を選ぶだけでも、隠れた性格や今の心理状況、相性診断など多岐に亘るらしい。
「で、クラウディア様は?」
「……〈赤〉かな」
「意外ですね。〈青〉とか〈緑〉…或いは〈茶〉かと」
クラウディアの返答に驚いたのは、スカイティアだった。確かに〈赤〉といえば、派手な印象があるからだろう。男性が選ぶことがない訳ではないだろうが、少数意見だ。……クラウディア様の髪色は似合っているから別だけど。他の髪色とか想像つかないけど。
「俺も、今までは好きではなかったな。この髪色も、血の色だと言われたことがある」
「血の、色ですか?」
「あぁ…母は、特にそう言われて気味悪がられたらしい。だから、この髪色を捨てた。俺の髪色も蔑んで、子供の頃に無理やり脱色させようとしたこともあったな……一度、完全に色が抜けて、真っ白になった。髪が伸びて戻ったが」
眉を顰めるスカイティアに、クラウディアは肩を竦めて肯定した。そして、あっさりと告げられたクラウディアの過去は余りにも壮絶で言葉にならない。
ルゼノは元々『黒髪』を忌避する国ではあった。しかし、クラウディアは王子であるが為に『赤髪』であることすら疎まれる。
……無理やり脱色。子供に?おい、それは暴力ぞ。紛れもない児童虐待ぞ。身体的にも精神的にも、子供に傷を残す虐待ぞ。
「では、何故…」
「……綺麗だと言うから。ユエ兄上やステラ姉上が、俺の髪を夕暮れの美しい色だと…この髪色は、何も血の色だと蔑まれるばかりではなかった」
母親が蔑む傍らで、異母兄達が褒めた。それならば自分を疎む母親よりも、その存在を認めてくれる優しい兄姉の方へと傾倒していくだろう。
うん、これは仕方ない。クラウディア様はお母上や育った環境を聞く度に、ユエ様を崇拝する理由に納得させられるわ。本っ当に初対面の頃はいけ好かない人だったけど、その話を聞けば納得。寧ろ、歪んで尖って当然だよ、よく頑張った…!
しかも、本人に不幸話をしている心算がないところが、一層その境遇の歪さを伺える。
「……で、〈赤〉を選んだ俺はどんな内面があるんだ?」
「言いづらいですねぇ」
さらっと話を流すな、この第二王子。まぁ、本人は不幸の心算はないのだろうけど。幸不幸は自分の捉え方で変わるしね。
「何か問題が?」
「いえ…〈赤を選ぶ人の傾向〉は、ですね」
順を追うべきかと思ったが、ここでクラウディアの選択カラーをスルーはできない。
「〈生きようとするエネルギーが強い、欲張り〉」
「あぁ、確かに…少し前まで、ユエ兄上をスカイティアに奪われたと思っていたからな。独り占めしたいと思う点では〈欲張り〉か」
それね、凄い変わり様だと思います。今では寧ろユエ様より、スカイティア様にべったりですし。
「〈個性的で目立ちたい願望を持つ、感情的で好奇心旺盛〉」
「……目立ちたい訳ではないが、俺はお前曰く『直情型』らしいからな。感情的、だろうな」
最初の項目にクラウディアは自分の性格を当て嵌め、納得したようである。
「〈面倒見がよく、リーダーシップを発揮する〉性格で〈行動的で慕われる〉が、〈大雑把〉な面もある」
「あぁ、それは騎士団の人達を見れば一目瞭然ですね。いつも中心にいらっしゃいますし、寧ろ兄上の隊って、兄上がいないと機能しないような…」
それはばっちりとばかりにスカイティアが肯定し、更には懸念を述べる。……クラウディア様がいないと機能しないって、不味くないですか?本日、非番の日ですよ?大丈夫なんですか?
「俺がいないからって、機能しないことはない。そんなことになったら、そもそも今日来てないぞ」
スカイティアの懸念に、クラウディアは首を振った。……ですよね、ほっとしました。
「最後ですが。〈外見は物静かでも、中身は激しい情熱・欲望を秘めている〉です」
「外見は兎も角……情熱と欲望?」
「欲……最初と同じだが、独り占めしたい欲はある、か…?」
やはり当て嵌まる部分と非該当部分とあるが、概ね間違っていない模様。因みに、ヒカルが予測でクラウディアに当て嵌めた色は〈赤〉だ。
「じゃあ、〈青〉を選んだ俺とレーウィスは?」
「あぁ、〈青〉だったのか…無難な色だな」
「えぇ、一般的に好まれて、面白みがない色です」
いえ、青を選んだことが悪い訳ではありません。俺も、青は好きです。
「悪かったね…で、そこまで言われるほど、無難な色を選ぶ俺達の内面は?」
ぷいっと視線を逸らしながら問われ、ヒカルは紙面に目を向ける。
「〈冷静で理知的〉」
「ん…?」
一項目目、と告げれば、スカイティアは首を傾げるが、クラウディアは納得した様子である。レーウィスは少し悩んではいるが、まぁ外れてはいないのだろう。
「〈一つの枠の中で自制できる従順さを持つ〉」
「んー…まぁ、そうかな?」
スカイティアは自分に当てはめたのか、納得する。レーウィスとクラウディアも特に異論は無いようである。
えぇ、そうですね、スカイティア様はこのルゼノにおける『黒』を忌避する環境に、従順なまでに従っておいでですよね…!
そして、レーウィス殿は従順かは兎も角、この国の在り方に対して憤りも悲しみも抱きながら〈枠の中で自制して〉ますよね…!
「〈誠実で控えめ、内向的な性格〉」
「え゛?」
声を上げたのは、クラウディアだった。しかも、声色と視線が…。
「〈保守的で、自分が正しいと思っていることが多い〉」
「あぁ…」
「〈整理整頓が得意で、創造性に富む〉」
「あー…」
「以上ですが。何ですか、その反応」
項目の一つ目から三人の反応がバラバラだったのだが、段々反応の一言目が面白くなっていた。
「待って……これって、俺とレーウィスの内面だよね?」
「そうですね、一般的に〈青を好まれる人の傾向〉ですが」
当たり外れは多いですかね、と告げれば、反応は三者三様である。
「……クラウディア様から見て、スカイティア様は〈誠実で控えめ、内向的〉は合わないと?」
「そりゃそうだろ。前半は兎も角、〈内向的〉な奴が俺の行動を把握しているか?」
クラウディアの指摘に、スカイティアは若干視線を逸らす。……事件の発端になった家の令嬢と会っていた件ですね。本当にタイムリーな情報を得ていましたもんね。
レーウィスは素知らぬ顔である。情報提供者だろうに、いっそ清々しい。
「何時も把握している訳ではないですけど…それに〈内向的〉って、要するに自分が傷つかないように人との接触を避けるってことですよね?」
「……少し前なら、そうだったな」
絶賛引き籠り中だった頃ですね。
「今でも避けられるならば避けたいですよ…でも、何時までもそういう環境でいられる訳じゃないですし」
「確かにな。不変は有り得ない」
項垂れるスカイティアに、クラウディアは何処か困ったようにふっと笑う。
「趣味のことになると、とても話を弾ませられるのになぁ」
「あぁ、その点ではリズベルト公爵家のご兄妹に対して、内向的な性格は出ませんでしたね」
「あれは最初に兄上達がいたからです…!そうでなければ、とてもとても…!」
「内向的というか、ただの人見知りだな」
クラウディアとレーウィスは「スカイティアは人見知り」と結論付けた。今更ですが。
「そういった点では、レーウィス殿ってどちらかというと社交的なイメージありますけど」
「社交的…必要な情報を得る為や不要な諍いを避ける為には、それなりに愛想はよくしておきますよ?」
レーウィスは穏やかで、知り合いも多く社交的な印象だったが、本人曰く利用するため。……俺が慣れたんかな。レーウィス殿、繕う気がないんですね。
「……社交的とは別物だな」
「他人との話を楽しんでいなければ、社交的とはいえないような…」
レーウィスの内面は、意外と黒い。いや、あくまで俺が想像するよりもってことだけど。
「親しい方ならば兎も角、見知らぬ方とは目的もなく話はしませんねぇ」
「まぁ、そんなものですよね」
身に覚えがありますよ。俺も知らない人にはついて行かないし。というか、本当に煩わしいよね。何なの、その『王族と親しい第三王子付きの元・奴隷』と話がしたいとか。下心しかなくない?
しかも、俺の方が身分下だからって、主人の使いに来た使用人すら礼儀がなっていないというか。……俺が報告したらとか、思わないのだろうか。
「……ヒカルも、上手くあしらっているよね」
「御存知でしたか」
誰に報告しなくても、自爆するし。主人の御使いを真面にできなければ当然の結果だけど。
「そりゃあ…レーウィスやシュテルインにあしらわれるからって、今度はヒカルに行くんだもん。子供だからって、舐めて掛かると痛い目を見るよね」
「俺はスカイティア様に対しても、他の方々に対しても、何もしていないと思いますが」
というか、やっぱりか、とヒカルは納得する。
レーウィスは人付き合いが上手い分、適当な言葉で橋渡し的な役割にされることを躱してきているのだろう。ステラの従者であるシュテルインは持ち前の無愛想さ──表情が滅多に動かない──が近づきづらい要素を持っている。
……で、取り入り易そうな小姓モドキの俺に来たのね。王族付きの貴公子達には取り付く島もない状況だから、此処は身分さを使っていけそうな小姓モドキの俺にってことね?…ま、俺は知らぬ存ぜぬ、知らない方にはついて行かないことをモットーにしておりますので、逃げますが。
「あしらい方が見事すぎてね……慣れてる?」
「その程度できないと、巻き込まれますから」
まぁ、それが通じるのは相手がヒカルを侮っているからに他ならないが。
相手が油断しているから、隙がある。そこを狙えば、容易く逃げられる。見た目が幼いからと侮るならば、それが命取りとなろう。
……いや、是非是非侮ってくださいな。俺の逃げ道なくなっちゃう。
ユエ様は最初から逃げ道をくれないからね。お伽噺の王子様の見た目をした為政者の王子様から、何か依頼があったら逃げられない。まぁ、協力できることは全力を尽くしますが。
「それはそうと、レーウィス殿が当て嵌まらないとなると、社交的な方ってそういらっしゃらないですよね」
「姉上は社交的な分類に入りそうな気もするけど」
スカイティアは異母姉の性格を挙げる。確かにステラは明るく、溌溂としていて話し上手な面がある。スカイティアの発言には、クラウディアも納得した様子である。
「社交的というのは、他人との話を楽しむことができる人のことだろう?それなら、兄上と姉上は言葉で探りを入れることも毒づくこともできるから、そこそこ楽しんでいるんじゃないか?」
え、そっち?それ、社交的って言葉で合っていますか?
思わず、クラウディア様を凝視した俺は悪くないと思うんだ。しかも、本人は真顔だし。




