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【毎日更新中】ぼっちで陰キャの俺が隣の席のマドンナに誤って告白した結果、世話焼き彼女が誕生した‼︎  作者: 黒子丸
2章

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第20話 ぼっち陰キャと騒がしい妹

 龍弥が由紀へ改めて自分の気持ちを伝えた、その翌日。


 土曜日の朝、龍弥はまだ布団の中にいた。


 明日は、由紀とのデートだ。


 そのため、今日は午後から街へ出て、服を買うつもりだった。


 由紀には、朝食や昼食を作りに来てもらわなくても大丈夫だと、前日に伝えてある。


 休日くらい、彼女にもゆっくりしてほしかった。


 それに、明日着ていく服を買いに行くのだと説明するのは、少し照れくさかった。


 昼近くまで寝て、何か食べてから出かければいい。


 そう考え、アラームは十二時三十分に設定していた。


 ここ数日は、普段より早く起きる日が続いていたうえ、昨夜も、由紀とのやり取りを思い返してなかなか寝つけなかった。


 ようやく眠ったあとは、久しぶりに深く眠れていた。


 ――インターホンが鳴るまでは。


『ピンポーン』


 龍弥は布団の中で身じろぎした。


 少し間を置き、もう一度、同じ音が響く。


「……誰だよ」


 枕元の時計を見る。


 アラームまでは、まだ時間があった。


 今日は由紀も来ないはずだ。


 眠い目をこすりながら起き上がり、インターホンへ向かう。


「……はい」


「おにぃ? 静だけど。開けてよ」


 聞き慣れた声に、龍弥は目を瞬かせた。


 寝ぼけていた頭が、ようやく相手の言葉を理解する。


「……もう来たのか?」


「もうって何。おにぃ、まさか今起きた?」


「起こされたんだよ」


「やっぱり。メッセージ送っても、全然既読つかないんだもん」


 そう言われて、龍弥はテーブルの上のスマートフォンへ目を向けた。


 静が今日来ることは、聞いていた。


 自分でも、土曜日だなと返している。


 けれど、何時に着くのかまでは、ちゃんと確かめていなかった。


「……来る時間くらい、先に決めとけばよかったな」


「そうだよ。まあ、どうせ家にいると思ったけど」


 スピーカーから、静の笑い声がした。


「可愛い妹が、わざわざ会いに来たんだから。早く入れてよ」


「はいはい。今、開ける」


 龍弥はエントランスのロックを解除した。


 それから、寝癖を手で押さえながら玄関へ向かう。


 しばらくして、ドアがノックされた。


 開けると、荷物を持った静が立っていた。


 直接顔を見るのは、およそ一か月ぶりだった。


「おはよう、お兄ちゃん」


 満面の笑みを向けられ、龍弥も少しだけ口元を緩めた。


「……おはよう。遠いところ、ご苦労さま」


     ◇


「本当に、今まで寝てたんだね」


 部屋へ上がった静は、龍弥の顔を見て、呆れたように言った。


「今日は午後から出かけるつもりだったんだよ」


「だからって、もうちょっと早く起きてもよくない?」


「休日くらい、寝かせてくれ」


 静は持ってきた荷物を置くと、ソファへ腰を下ろした。


 部屋を見回し、それから兄へ目を戻す。


「ちゃんと片づいてる」


「何を想像してたんだ、お前」


「床に服とか、コンビニの袋とか」


「そこまでひどくないわ」


 返すと、静は楽しそうに笑った。


 その声を聞いていると、久しぶりに実家へ戻ったような気分になる。


 けれど、今日の予定を考えると、龍弥は少し困っていた。


 服は買いに行きたい。


 静も、きっとついてくると言うだろう。


 それ自体は構わないのだが、妹との外出は、なかなか予定どおりに進まない。


 買い物を終えて帰ろうとすると、あっちにも寄りたい、これも見たいと、次々に行き先が増えていく。


 久しぶりに会うのだから、付き合ってやりたい気持ちはある。


 ただ、明日のことを考えると、今日はあまり遅くまで出歩きたくなかった。


(先に、服を買いたいって言っておくか……)


 そう考えていると、静の声が少し小さくなった。


「……おにぃ?」


「ん?」


「やっぱり、何かあった?」


 顔を上げると、静がこちらを見ていた。


 先ほどまでの笑みが、消えている。


「学校、つらい?」


「……え?」


「無理してない? 連絡だと、よくわかんないし」


 龍弥は一瞬、言葉に詰まった。


 静が、何を心配しているのか。


 その表情を見れば、すぐにわかった。


「……違うよ。今日の買い物、どうしようか考えてただけ」


「買い物?」


「ああ。学校のことなら、大丈夫。友達もできた」


 静が、目を丸くした。


「友達って……クラスの?」


「うん。翔っていうんだけど。向こうから話しかけてくれてさ」


 口にしてから、少し照れくさくなる。


 友達ができたと妹へ報告するのも、ずいぶん久しぶりだった。


 静はすぐには笑わなかった。


「……その人とは、ちゃんと話せてる?」


「まあ、ほとんど翔が話してくれるけどな。でも、バスケの話とか、普通にできたよ」


 静の指が、膝の上で重なった。


「変に気を遣って、無理に合わせたりしてない?」


 龍弥は、少し考えた。


 誰かと話すとき、相手の反応を気にしてしまうのは、今も同じだ。


 翔が何を思っているのか、全部わかるわけでもない。


 けれど、それでも、また話したいと思えた。


「……まだ緊張はするよ。でも、嫌な感じじゃない」


 静を見て、言葉を続ける。


「俺が返事に困っても待ってくれるし、無理に何か聞き出そうともしない。今のところ、話してて楽しいと思えてる」


「……そっか」


「だから、そんな顔するなって。何かあったら、今度はちゃんと言うから」


 静はしばらく兄を見つめ、それから、小さく息を吐いた。


「なら、いいけど」


 まだ少し心配そうだったが、声はやわらかくなっていた。


 そこまで気にかけてもらっていたことが、申し訳なくもあり、嬉しくもあった。


 龍弥は、ソファの横に置かれた荷物へ目を向ける。


 静は今日、自分に会うために、電車に乗ってここまで来たのだ。


 少しくらい予定が変わっても、いいかもしれない。


「それで、静」


「何?」


「俺、これから服を買いに行くんだけど。一緒に来るか?」


 静の顔が、ぱっと明るくなった。


「行く!」


「ただし、先に俺の服だからな。あちこち寄るのは、そのあとで」


「はいはい、わかってるって」


「その返事、信用していいんだろうな」


「大丈夫。今日は私が、お兄ちゃんに似合う服を選んであげるから」


「……自分でも選ぶぞ?」


 静は返事の代わりに、にこにこと笑った。


 少し不安にはなったが、先ほどの顔をされるよりは、ずっとよかった。


     ◇


 簡単に腹へ物を入れ、着替えを済ませる。


 その間、静はソファに座りながら、学校であったことを話していた。


 友達の話や、授業中のちょっとした出来事。


 ときどき兄の服装へ口を挟みながら、話題は途切れなかった。


 龍弥は相槌を打ち、財布とスマートフォンを鞄へ入れた。


「じゃあ、行くか」


「うん!」


 二人でマンションを出る。


 建物の前まで来たところで、龍弥は何気なく、向かいの家へ目を向けた。


 由紀は、今、何をしているのだろう。


 今日は来なくても大丈夫だと伝えたけれど、明日のことを考えているのだろうか。


 そんなことを思っていると、隣から顔をのぞき込まれた。


「おにぃ。あの家、何かあるの?」


「……え?」


「今、ずっと見てたじゃん」


 言われて、龍弥は視線を戻した。


 静が、面白がるように口元を上げる。


「もしかして、好きな人の家だったりして」


 からかうつもりなのだろう。


 龍弥は少し迷ってから、答えた。


「……まあ、そうだよ」


「え?」


「あそこ、俺の彼女の家」


 静が止まった。


 歩きかけていた足も、浮かべていた笑みも、そのまま動かなくなる。


 龍弥は妹を見て、少し首をかしげた。


「……静?」


 返事がない。


 顔の前で、軽く手を振る。


「おーい」


「……待って」


 ようやく、静が口を開いた。


「彼女って、本当に?」


「だから、言っただろ」


「だって……!」


 静が、龍弥の肩をつかんだ。


「本当に付き合ってるの!?」


「声、大きいって」


「そんな話、ちゃんと聞いてない!」


「メッセージで送ったじゃないか。彼女ができたって」


「あれ、本当だったの?」


 龍弥は、呆れたように妹を見た。


「お前、まだ疑ってたのか」


「だって、急すぎるもん! この前まで、話す相手もいないって言ってたのに!」


「それは、俺もそう思うけど……」


「友達ができたって言うから、そっちのことだったのかなって思ってたの!」


「翔は男子だよ。彼女とは別」


 静が、一度口を閉じた。


 何かを考えるように、向かいの家と龍弥を見比べる。


「……同じクラスの子、なんだよね?」


「ああ」


「どんな子? いつから? 告白したの、おにぃ?」


「一個ずつ聞けって」


「それに、家がこんなに近いなんて聞いてない!」


「そこまでは話してないからな」


 龍弥は肩から妹の手を外そうとした。


 けれど、静はまだ何か言いたそうに顔を寄せてくる。


「ねえ、今日はいないの? 会ったことないし、どんな子なのか――」


「静。とりあえず、ここで大声出すのやめよう。家の前だぞ」


 そう言った、そのときだった。


「……ねえ、龍弥?」


 背後から、聞き覚えのある声がした。


 龍弥の動きが止まる。


 ゆっくり振り返ると、そこには由紀が立っていた。


 家から出てきたところらしい。


 由紀の視線が、龍弥から、すぐ隣の静へ移る。


 そして、龍弥の肩に置かれたままの手で止まった。


「私の家の前で、何してるの?」


「ゆ、由紀。これは――」


「知らない女の子と、ずいぶん仲がいいんだね?」


 由紀が、胸の前で腕を組んだ。


 口元には笑みがある。


 けれど、龍弥が事情を説明するのを待っていることは、はっきりわかった。


「まさか、浮気とかじゃないよね?」


「違う! こいつは――」


 答えかけたところで、隣の静が龍弥の袖を引いた。


「……おにぃ」


「何だよ」


「この人?」


 小さな声だった。


 龍弥は、短くうなずく。


 静が目を丸くした。


 由紀は、そんな二人をじっと見ている。


 買い物に出るだけのはずだった。


 明日の服を選んで、できれば早めに帰る。


 そのつもりだったのに。


 龍弥は二人の顔を見比べ、今日の予定が、すでに思いどおりには進みそうにないことを悟った。

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