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【毎日更新中】ぼっちで陰キャの俺が隣の席のマドンナに誤って告白した結果、世話焼き彼女が誕生した‼︎  作者: 黒子丸
1章

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14/22

第14話 ぼっち陰キャとマドンナとの帰宅

 午後の授業が終わり、下校の時間になった。


 今日の夕飯は、由紀が作ってくれることになっている。


 昼に食べた弁当がおいしかったこともあり、龍弥は今から楽しみにしていた。


 けれど、楽しみなだけではない。


 家族以外の女子に、自分の部屋で料理を作ってもらう。


 それがどういう光景になるのか、想像するだけで落ち着かなくなった。


 その前に、まず一緒に帰らなければならない。


 龍弥は隣の席へ目を向けた。


 由紀は、友人たちと話している。


 会話の切れ目を待っていたつもりが、いつ声をかければいいのかわからなくなっていた。


 教科書は、もうリュックに入れ終えている。


 机の中も空だ。


 それなのに、まだ何か残っているふりをして、もう一度引き出しへ手を入れる。


(……何やってるんだ、俺)


 今日は朝から、由紀に助けてもらってばかりだった。


 弁当も作ってもらい、このあとには夕飯まで世話になる。


 せめて、帰ろうと誘うくらいは、自分から言いたかった。


 龍弥は引き出しから手を抜き、隣へ体を向けた。


「由紀っ!」


 思ったより、大きな声が出た。


 由紀だけでなく、話していた友人たちまで一斉に振り向く。


 集まった視線に、龍弥は早くもひるみそうになった。


『な、何? どうしたの、龍弥』


「い、一緒に帰らないか?」


 言い終えたところで、息をつく。


 由紀は一瞬きょとんとし、それから、ぱっと笑った。


『うん。帰ろう!』


 すぐに鞄を手に取る。


『じゃあ、私、帰るね。また明日!』


 友人たちへ挨拶をして、由紀が席を離れた。


 あまりに早く話が進んだので、誘った龍弥の方が取り残されてしまう。


 教室の出口で、由紀が振り返った。


『龍弥? 準備、まだだった?』


「いや、終わってる!」


 慌ててリュックを背負う。


 友人たちに小さく会釈をしてから、龍弥は彼女のあとを追った。


     *


 廊下へ出ると、やはり何人かの視線がこちらへ向いた。


 由紀に気づき、その隣の龍弥を見る。


 小声で何かを話し始めた生徒もいた。


 何を言われているのかまでは、聞こえない。


 それでも気になってしまい、龍弥はリュックの肩紐を握り直した。


 昨日の放課後も、今朝も、同じように見られた。


 少しは慣れたつもりだったが、まだ平気な顔では歩けそうにない。


『どうしたの?』


 由紀が、顔をのぞき込んできた。


「いや……何でもない」


『そう?』


 彼女はいつもどおり、隣を歩いている。


 そのことに、少し救われた。


 周りが何を思っていても、由紀は自分と帰ろうとしてくれている。


 せめて、隣で縮こまってばかりいるのはやめよう。


 龍弥が少し顔を上げたところで、背後から声がした。


「龍弥ー!」


 足音が近づいてくる。


 龍弥は階段の手前で立ち止まり、振り返った。


「どうした、翔?」


「お、よく俺だってわかったな」


「学校で俺のことを名前で呼ぶの、由紀と翔くらいだから。声でもわかるよ」


「ああ、そっか」


 翔が笑い、二人のそばまで来た。


「帰るところ、悪い。連絡先、聞くの忘れててさ」


「連絡先?」


「メッセージアプリ、使ってるだろ? 交換しとこうぜ。バスケの話も、もっとしたいし」


「……お、おう」


 龍弥はスマートフォンを取り出した。


 通行の邪魔にならないよう、三人で廊下の端へ寄る。


 由紀以外の同級生と、連絡先を交換する。


 それだけのことなのに、画面を操作する指が少しもたついた。


「これで、いいか?」


「うん。来た来た」


 翔が画面を確かめる。


 間もなく、龍弥のスマートフォンも震えた。


 届いたのは、翔の短い挨拶とスタンプだった。


 友達の名前が、一つ増えた。


 龍弥はその画面を、少しだけ長く見てしまった。


「じゃあ、引き止めて悪かったな。また明日!」


「……ああ。また明日」


 翔は由紀にも手を振り、教室の方へ戻っていった。


 その背中を見送っていると、隣から声がする。


『よかったね』


「うん」


 今度は、すぐにうなずけた。


「翔、話しかけやすいんだよな。俺が返事に困ってても、待ってくれるし」


『龍弥も、さっきは自分から話しかけてくれたでしょう?』


「……帰ろうって言っただけだぞ」


『それが嬉しかったの』


 まっすぐ言われ、龍弥は視線を落とした。


 勇気を出した分を、そのまま返してもらった気がした。


     *


 階段を下りながら、由紀が尋ねた。


『そういえば、橋本くんとは、今日より前にも話したことがあったの?』


「いや。ちゃんと話したのは、さっきの掃除のときが初めてだけど」


『そうなんだ。掃除のあと、龍弥のことを「いい奴」って言ってたから、前から知ってるのかなと思って』


「……ああ」


 言われてみれば、そうだった。


 龍弥には、翔に褒めてもらえるようなことをした覚えはない。


 掃除をしながら、バスケの話をしたくらいだ。


「何を見て、そう思ったんだろうな」


『話してて、そう感じたんじゃない?』


「そういうものか?」


『うん。龍弥も、橋本くんと話しやすかったんでしょう?』


 龍弥は、少し考えた。


 翔がどんな人なのか、まだ詳しく知っているわけではない。


 それでも、また話してみたいとは思った。


「……確かに」


 自分だけが、何か特別な理由を探していたのかもしれない。


 そう思うと、少し気が楽になった。


     *


 学校を出た二人は、そのまま帰宅せず、家の近くの大型スーパーへ向かった。


 夕飯の材料を買うためだ。


 龍弥にとっては、よく利用する店だった。


 ただし、普段向かうのは惣菜売り場か弁当の並ぶ棚で、野菜や肉をじっくり見比べることはほとんどない。


 今日は由紀がカゴを取り、龍弥も隣に並んだ。


『龍弥は、何か食べたいものある?』


「うーん……」


『苦手なものは?』


「特にないよ」


『じゃあ、何にしようかな』


 由紀は売り場を見回し、献立を考え始めた。


 必要な材料を選ぶたび、龍弥にも確認してくれる。


 自分の部屋で食べる夕飯の材料が、少しずつカゴに増えていく。


 いつもの買い物とは、ずいぶん違った。


 ふと隣を見ると、由紀が何かをこらえるように口元を緩めていた。


「……どうした?」


『ううん。ただ……』


 由紀が少しだけ顔を寄せる。


『なんか、新婚さんみたいだなって』


 小さな声が、すぐ近くでした。


 龍弥は、カゴへ伸ばしかけていた手を止めた。


「し、新婚……?」


『一緒に夕飯の材料、選んでるから』


 由紀も、少し頬を染めている。


 それなのに、龍弥の反応を見て、楽しそうに笑った。


 また、自分ばかり照れている。


 そう思ったら、ほんの少しだけ、言い返してみたくなった。


「……じゃあ、結婚式はどこで挙げようか」


 由紀の笑顔が止まった。


 自分で言った龍弥も、動けなくなった。


 思いついた言葉を、そのまま口にするべきではなかった。


 店内の音楽が、やけにはっきり聞こえる。


「……な、なんて」


 耐えきれずに付け足すと、由紀の顔がますます赤くなった。


『龍弥の、ばか』


「ご、ごめん」


 由紀が顔をそらし、売り場の先へ歩いていく。


 龍弥は慌てて追いかけた。


 冗談のつもりだった。


 けれど、言い慣れないことをして、余計に困らせてしまったらしい。


「由紀。嫌だった?」


 隣へ追いついて尋ねると、彼女は足を緩めた。


 すぐには、こちらを見ない。


『……嫌とは、言ってない』


「え?」


『急にそんなこと言われたら、どう返したらいいかわからないでしょう』


「……それは、うん」


 まったくそのとおりだった。


 龍弥自身、返事をされたらどうするつもりだったのか、考えていない。


「ちょっと、言い返してみようと思っただけで……ごめん」


 由紀が、ようやくこちらを見た。


 その目が合った途端、龍弥も顔をそらしたくなる。


 少しの沈黙のあと、由紀が小さく笑った。


『龍弥まで赤くなってる』


「……自分で言って、恥ずかしくなった」


『何それ』


 由紀はもう一度笑い、カゴの中へ目を落とした。


 その頬には、まだ赤みが残っていた。


『じゃあ、今日は先に夕飯。ちゃんとおいしくできるか、そっちからです』


「うん。……楽しみにしてる」


 そう答えると、由紀の表情がやわらいだ。


     *


 買い物を終え、会計を済ませる。


 袋に詰めた食材へ、龍弥が手を伸ばした。


「これは、俺が持つよ」


『結構あるよ?』


「料理は任せるんだから、これくらいは」


 由紀は一度袋を見て、それから、龍弥へ持ち手を渡した。


『じゃあ、お願いします』


「……うん」


 スーパーを出ると、外の空気が少し涼しく感じられた。


 由紀が隣へ並ぶ。


 さっき買った材料をどう使うのか、彼女が話し始めた。


 龍弥は相槌を打ちながら、ときどき質問する。


 料理のことは、知らないことばかりだった。


 でも、わからないと口にすると、由紀は楽しそうに教えてくれた。


 うまく話そうとしなくても、会話が続いていく。


 そのことが、少し嬉しかった。


 やがて、見慣れたマンションが見えてくる。


 今朝は、由紀が訪ねてきた。


 今度は、自分が彼女を連れて帰ってきた。


 そう考えた途端、また緊張してしまう。


 エントランスの前で、由紀が龍弥を見上げた。


『今日は、キッチン借ります』


「ああ。……よろしくお願いします」


 つられて敬語になると、由紀が笑った。


 龍弥は食材の袋を持ち直し、彼女と一緒にマンションへ入った。 午後の授業が終わり、下校の時間になった。


 今日の夕飯は、由紀が作ってくれることになっている。


 昼に食べた弁当がおいしかったこともあり、龍弥は今から楽しみにしていた。


 けれど、楽しみなだけではない。


 家族以外の女子に、自分の部屋で料理を作ってもらう。


 それがどういう光景になるのか、想像するだけで落ち着かなくなった。


 その前に、まず一緒に帰らなければならない。


 龍弥は隣の席へ目を向けた。


 由紀は、友人たちと話している。


 会話の切れ目を待っていたつもりが、いつ声をかければいいのかわからなくなっていた。


 教科書は、もうリュックに入れ終えている。


 机の中も空だ。


 それなのに、まだ何か残っているふりをして、もう一度引き出しへ手を入れる。


(……何やってるんだ、俺)


 今日は朝から、由紀に助けてもらってばかりだった。


 弁当も作ってもらい、このあとには夕飯まで世話になる。


 せめて、帰ろうと誘うくらいは、自分から言いたかった。


 龍弥は引き出しから手を抜き、隣へ体を向けた。


「由紀っ!」


 思ったより、大きな声が出た。


 由紀だけでなく、話していた友人たちまで一斉に振り向く。


 集まった視線に、龍弥は早くもひるみそうになった。


『な、何? どうしたの、龍弥』


「い、一緒に帰らないか?」


 言い終えたところで、息をつく。


 由紀は一瞬きょとんとし、それから、ぱっと笑った。


『うん。帰ろう!』


 すぐに鞄を手に取る。


『じゃあ、私、帰るね。また明日!』


 友人たちへ挨拶をして、由紀が席を離れた。


 あまりに早く話が進んだので、誘った龍弥の方が取り残されてしまう。


 教室の出口で、由紀が振り返った。


『龍弥? 準備、まだだった?』


「いや、終わってる!」


 慌ててリュックを背負う。


 友人たちに小さく会釈をしてから、龍弥は彼女のあとを追った。


     *


 廊下へ出ると、やはり何人かの視線がこちらへ向いた。


 由紀に気づき、その隣の龍弥を見る。


 小声で何かを話し始めた生徒もいた。


 何を言われているのかまでは、聞こえない。


 それでも気になってしまい、龍弥はリュックの肩紐を握り直した。


 昨日の放課後も、今朝も、同じように見られた。


 少しは慣れたつもりだったが、まだ平気な顔では歩けそうにない。


『どうしたの?』


 由紀が、顔をのぞき込んできた。


「いや……何でもない」


『そう?』


 彼女はいつもどおり、隣を歩いている。


 そのことに、少し救われた。


 周りが何を思っていても、由紀は自分と帰ろうとしてくれている。


 せめて、隣で縮こまってばかりいるのはやめよう。


 龍弥が少し顔を上げたところで、背後から声がした。


「龍弥ー!」


 足音が近づいてくる。


 龍弥は階段の手前で立ち止まり、振り返った。


「どうした、翔?」


「お、よく俺だってわかったな」


「学校で俺のことを名前で呼ぶの、由紀と翔くらいだから。声でもわかるよ」


「ああ、そっか」


 翔が笑い、二人のそばまで来た。


「帰るところ、悪い。連絡先、聞くの忘れててさ」


「連絡先?」


「メッセージアプリ、使ってるだろ? 交換しとこうぜ。バスケの話も、もっとしたいし」


「……お、おう」


 龍弥はスマートフォンを取り出した。


 通行の邪魔にならないよう、三人で廊下の端へ寄る。


 由紀以外の同級生と、連絡先を交換する。


 それだけのことなのに、画面を操作する指が少しもたついた。


「これで、いいか?」


「うん。来た来た」


 翔が画面を確かめる。


 間もなく、龍弥のスマートフォンも震えた。


 届いたのは、翔の短い挨拶とスタンプだった。


 友達の名前が、一つ増えた。


 龍弥はその画面を、少しだけ長く見てしまった。


「じゃあ、引き止めて悪かったな。また明日!」


「……ああ。また明日」


 翔は由紀にも手を振り、教室の方へ戻っていった。


 その背中を見送っていると、隣から声がする。


『よかったね』


「うん」


 今度は、すぐにうなずけた。


「翔、話しかけやすいんだよな。俺が返事に困ってても、待ってくれるし」


『龍弥も、さっきは自分から話しかけてくれたでしょう?』


「……帰ろうって言っただけだぞ」


『それが嬉しかったの』


 まっすぐ言われ、龍弥は視線を落とした。


 勇気を出した分を、そのまま返してもらった気がした。


     *


 階段を下りながら、由紀が尋ねた。


『そういえば、橋本くんとは、今日より前にも話したことがあったの?』


「いや。ちゃんと話したのは、さっきの掃除のときが初めてだけど」


『そうなんだ。掃除のあと、龍弥のことを「いい奴」って言ってたから、前から知ってるのかなと思って』


「……ああ」


 言われてみれば、そうだった。


 龍弥には、翔に褒めてもらえるようなことをした覚えはない。


 掃除をしながら、バスケの話をしたくらいだ。


「何を見て、そう思ったんだろうな」


『話してて、そう感じたんじゃない?』


「そういうものか?」


『うん。龍弥も、橋本くんと話しやすかったんでしょう?』


 龍弥は、少し考えた。


 翔がどんな人なのか、まだ詳しく知っているわけではない。


 それでも、また話してみたいとは思った。


「……確かに」


 自分だけが、何か特別な理由を探していたのかもしれない。


 そう思うと、少し気が楽になった。


     *


 学校を出た二人は、そのまま帰宅せず、家の近くの大型スーパーへ向かった。


 夕飯の材料を買うためだ。


 龍弥にとっては、よく利用する店だった。


 ただし、普段向かうのは惣菜売り場か弁当の並ぶ棚で、野菜や肉をじっくり見比べることはほとんどない。


 今日は由紀がカゴを取り、龍弥も隣に並んだ。


『龍弥は、何か食べたいものある?』


「うーん……」


『苦手なものは?』


「特にないよ」


『じゃあ、何にしようかな』


 由紀は売り場を見回し、献立を考え始めた。


 必要な材料を選ぶたび、龍弥にも確認してくれる。


 自分の部屋で食べる夕飯の材料が、少しずつカゴに増えていく。


 いつもの買い物とは、ずいぶん違った。


 ふと隣を見ると、由紀が何かをこらえるように口元を緩めていた。


「……どうした?」


『ううん。ただ……』


 由紀が少しだけ顔を寄せる。


『なんか、新婚さんみたいだなって』


 小さな声が、すぐ近くでした。


 龍弥は、カゴへ伸ばしかけていた手を止めた。


「し、新婚……?」


『一緒に夕飯の材料、選んでるから』


 由紀も、少し頬を染めている。


 それなのに、龍弥の反応を見て、楽しそうに笑った。


 また、自分ばかり照れている。


 そう思ったら、ほんの少しだけ、言い返してみたくなった。


「……じゃあ、結婚式はどこで挙げようか」


 由紀の笑顔が止まった。


 自分で言った龍弥も、動けなくなった。


 思いついた言葉を、そのまま口にするべきではなかった。


 店内の音楽が、やけにはっきり聞こえる。


「……な、なんて」


 耐えきれずに付け足すと、由紀の顔がますます赤くなった。


『龍弥の、ばか』


「ご、ごめん」


 由紀が顔をそらし、売り場の先へ歩いていく。


 龍弥は慌てて追いかけた。


 冗談のつもりだった。


 けれど、言い慣れないことをして、余計に困らせてしまったらしい。


「由紀。嫌だった?」


 隣へ追いついて尋ねると、彼女は足を緩めた。


 すぐには、こちらを見ない。


『……嫌とは、言ってない』


「え?」


『急にそんなこと言われたら、どう返したらいいかわからないでしょう』


「……それは、うん」


 まったくそのとおりだった。


 龍弥自身、返事をされたらどうするつもりだったのか、考えていない。


「ちょっと、言い返してみようと思っただけで……ごめん」


 由紀が、ようやくこちらを見た。


 その目が合った途端、龍弥も顔をそらしたくなる。


 少しの沈黙のあと、由紀が小さく笑った。


『龍弥まで赤くなってる』


「……自分で言って、恥ずかしくなった」


『何それ』


 由紀はもう一度笑い、カゴの中へ目を落とした。


 その頬には、まだ赤みが残っていた。


『じゃあ、今日は先に夕飯。ちゃんとおいしくできるか、そっちからです』


「うん。……楽しみにしてる」


 そう答えると、由紀の表情がやわらいだ。


     *


 買い物を終え、会計を済ませる。


 袋に詰めた食材へ、龍弥が手を伸ばした。


「これは、俺が持つよ」


『結構あるよ?』


「料理は任せるんだから、これくらいは」


 由紀は一度袋を見て、それから、龍弥へ持ち手を渡した。


『じゃあ、お願いします』


「……うん」


 スーパーを出ると、外の空気が少し涼しく感じられた。


 由紀が隣へ並ぶ。


 さっき買った材料をどう使うのか、彼女が話し始めた。


 龍弥は相槌を打ちながら、ときどき質問する。


 料理のことは、知らないことばかりだった。


 でも、わからないと口にすると、由紀は楽しそうに教えてくれた。


 うまく話そうとしなくても、会話が続いていく。


 そのことが、少し嬉しかった。


 やがて、見慣れたマンションが見えてくる。


 今朝は、由紀が訪ねてきた。


 今度は、自分が彼女を連れて帰ってきた。


 そう考えた途端、また緊張してしまう。


 エントランスの前で、由紀が龍弥を見上げた。


『今日は、キッチン借ります』


「ああ。……よろしくお願いします」


 つられて敬語になると、由紀が笑った。


 龍弥は食材の袋を持ち直し、彼女と一緒にマンションへ入った。

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