第13話 ぼっち陰キャと初めての友人
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二人が教室に戻ると、ちょうど掃除開始の放送が鳴り響いた。
由紀は特別教室の掃除を担当しているらしく、龍弥と別れて友人たちと掃除場所へ向かっていった。
せっかく由紀と一緒に過ごせた昼休みが終わり、再び一人になってしまった龍弥は、少し寂しさを感じていた。
とはいえ、自分からそれほど親しくないクラスメイトに話しかけるのは難しい。結局、いつもどおり掃除用具入れから箒を取り出し、一人で掃除を始めることにした。
黙々と床を掃いていると、ふいに男子生徒から声をかけられた。
「辻ー! どこまで掃除終わったー?」
振り返ると、爽やかな顔立ちをした男子生徒が立っていた。まさに好青年という言葉がぴったりの人物だった。
「えーっと、教室の前半分はもう終わったから、俺の後に続いてやってくれ」
「おう、任せろー!」
そう言うと、彼は龍弥の左隣の列、その先頭から箒を動かし始めた。
この男子生徒の名前は、確か橋本翔だったはずだ。
爽やかな顔立ちに加え、コミュニケーション能力も高い。少しチャラいところもあるが、男女を問わず人気のある生徒だった。
龍弥とは今まで一度も話したことがなかったものの、教室でほかの生徒と話している姿を見る限り、悪い印象はまったくなかった。
(まあ、最近は悪い印象がないどころか、周りからの評判もよかったクズにも出会ったけどな……)
昨日の先輩のことを思い出し、龍弥は少し嫌な気分になった。
「おーい、龍弥! 手が止まってるぞ! さっさと終わらせようぜ!」
いつの間にか隣まで来ていた翔が、笑顔で声をかけてきた。
「お、おう。すまんな、橋本」
「気にすんなって。それと、俺のことは翔でいいぞ。俺も龍弥って呼んでいいか?」
「ああ、いいぞ」
由紀以外の人間と、こんなふうに気軽に話すのは久しぶりだった。
(これが都会の陽キャってやつか……)
龍弥は改めて、都会の高校生のコミュニケーション能力の高さに驚いていた。
「そういえば、龍弥は何部に入るとか決めてんの?」
「あー、俺は一応、バスケ部に入る予定だ」
「えっ、マジで!? 俺もバスケ部に入るつもりなんだよ! でも、龍弥って四月の体験入部には来てなかったよな?」
「ああ。何度か体育館の前までは行ったんだけど、どうにも一人じゃ入りづらくてな。そのまま帰ってたんだ」
「おー、そうだったのか。じゃあ、今度の練習から一緒に行こうぜ! 俺も行くからさ」
「お、おう。なら、行ってみるかな」
そんなやり取りを交わしながら掃除を続けているうちに、龍弥は気づけば翔と自然に会話できるようになっていた。
そして、掃除が終わる頃には、すっかり打ち解けていた。
こうして、龍弥には高校生活で初めての男子の友人ができたのだった。
掃除が終わった後も、二人は龍弥の席の近くで話し続けていた。
そこへ、特別教室の掃除を終えた由紀が戻ってきた。
『龍弥~! そっちも掃除終わったの~?』
「おう、終わったぞー」
二人がいつもどおりに会話していると、それを見ていた翔が、感心したように口を開いた。
「へえ……お前ら、本当に付き合ってるんだな」
その言葉を聞いた由紀の表情が、みるみるうちに曇っていった。
『確か、橋本くんでしたよね? 私が見ていない間に、龍弥くんに悪口でも言っていたんですか?』
少し怒った様子で問いかける由紀。
突然のことに、翔も龍弥も慌ててしまった。
「ち、違うって! 俺は龍弥と部活の話をしてただけだよ! な、龍弥?」
「お、おう! そういうことだから、心配しなくていいぞ、由紀!」
二人が慌てて説明すると、由紀の表情から少しずつ険しさが消えていった。
そして、自分が勘違いしていたことに気づくと、今度は申し訳なさそうに頭を下げた。
『ご、ごめんなさい……。今朝みたいに、龍弥の悪口を言っているのかと思って……』
由紀は翔に向かって、必死に謝った。
「あー、そういうことか。俺、今朝は龍弥の席のほうには行ってないからな。そもそも、他人の恋路を邪魔するような真似はしたくねぇし。それに、俺は二人って結構お似合いのカップルだと思ってるぞ」
翔は特に気にした様子もなく、由紀の謝罪を受け入れた。
それどころか、今度は龍弥に向かって笑顔を見せた。
「それに、龍弥っていい奴だろ? そんな奴と友達になれたんだから、俺はラッキーだと思ってるぜ。龍弥が選んだ彼女なら、きっといい子だろうしな!」
あまりにも爽やかな言葉だった。
龍弥と由紀は、そのあまりの好青年ぶりに、思わず眩しさを感じてしまった。
「……とまあ、そんなわけだから! 付き合ったばかりの二人の邪魔をするのも悪いし、俺は席に戻るわ。それじゃあ、二人とも、これからもよろしくなー!」
そう言い残すと、翔は二人の返事を待つことなく、自分の席へと戻っていった。
あまりにも急な出来事に、龍弥と由紀はその場に取り残されたまま、しばらく立ち尽くしていた。
やがて、由紀が龍弥のほうを振り向き、嬉しそうに微笑んだ。
『よかったね、龍弥! いい友達ができて!』
まるで自分のことのように喜んでくれる由紀。
(……敵わないな、由紀には)
龍弥は心の中でそうつぶやいた。
そのとき、五時間目の開始を告げるチャイムが鳴り響いた。
二人はそれぞれの席へと戻り、授業の準備を始めた。




