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第49話 女剣客、仲間の家を訪問する

Shion.Kiryu

 「うぅ……風邪ひきましたぁ」


 8月の中旬を過ぎたある日、昼過ぎからダンジョンに向かうため、朝の鍛錬を終えて朝食を摂っているとシオンから顔文字付きのメッセージが送られてきた。


 「どうしたの?」


 アイリスがキッチンでフライパンを動かしながら、こちらを見ていた。


 「……シオンが風邪ひいたみたい」

 「もしかして昨日、モンスターの水攻撃で水浸しになったのが原因かな」


 昨日は下北沢ダンジョンの16階を進んでいた際に遭遇したモンスターの水を噴き出す攻撃でシオンもそうだが、私とエンジュさんも全身水浸しになっていた。


 Shion.kiryu

 「昨日の配信は刺激が強過ぎたからアーカイブ残せないし、散々ですよぉ……サハギンなんて大嫌いだあああ!」


 メッセージにはシオンの悲痛の叫びが込められているように見えた。


 「せっかくだし、シオちゃんの家に行ってあげれば?」


 スマホ画面を見ているとアイリスが目玉焼きを乗せた皿を差し出していた。


 「……迷惑じゃない?」

 「むしろ、大喜びすると思うけど?」


 アイリスは満面な笑顔だった。


 「……そう?」

 「そうだって、シオちゃんに聞いてみなって♪」


 アイリスに促されるまま、シオン宛にメッセージを送るとすぐに返事が返ってきた。


 Shion.kiryu

 「待ってます! ちなみに住所は——」


 間髪入れずにシオンの家の住所が送られてきた。


 「……アイリス」

 「どうしたの?」

 「……エルフって人の心を読むことができるの?」


 私の質問に対し、アイリスはため息混じりに「シオちゃんはわかりやすいからねえ」と呟いていた。



 「ナビセットしたよ」


 マンションの地下駐車場にてバイクのエンジンをかけてシートに跨ると同時にアイリスからスマホを渡された。

 先ほどシオンから送ってもらった住所をナビアプリにセットしてもらっていた。

 ……何でこんなすぐにセットできるのだろうか。前にやろうとして何時間もかかったのに。


 「……ありがとう」


 礼を言いながらスマホを左右のグリップの中央のハンドルバーにセットする。

 画面を見ると、30分ほどで到着すると書かれていた。


 「たまにだし、ゆっくりしてきなよ」

 「……うん」


 ヘルメットのシールドを下げ、バイクを発進させた。

 ふとミラーを見ると、アイリスがこちらに向けて大きく手を振っていた。


 「……何であんなに笑顔なんだろ」


 アイリスがよからぬことを考えているのはいつものことだと思いつつ、駐車場からでてスピードを上げていった。



 「……ここかな」


 スマホのスピーカーからは『目的地に到着しました』と機械音が流れている。

 ナビがしていたのは閑静な住宅街の中にある一軒家だった。

 玄関の横に『桐生』と分厚い札が貼られているので間違い無いだろう。

 インターホンを押すと、ピーンポーンと機械音が鳴りだした。

 そしてしばらくすると……


 「お、オルハさん!? ほ、本当にきてくれたんだ……!!!」


 勢いよく開いた玄関の奥にはTシャツに青紫のジャージ姿のシオン。

 額には熱冷ましに効果的なジェルシートが貼られていた。


 「……うん、私がいけばシオンは喜ぶってアイリスが言ってたし」


 私が答えるとシオンは小さく「そうですけど……」と呟いていた。


 「こ、こんなところでは何ですから、中へどうぞ! バイクは庭の空いてるところに止めて大丈夫ですので!」


 そう言ってシオンは私がわかるように庭の場所を指さしていた。

 

 

 「……おじゃまします」


 バイクを庭に止めてからシオンの家の中へと入っていく。


 「すみません、汚いですけど……!」


 シオンは申し訳なさそうな顔でそう話すが、むしろ綺麗だと思える。

 

 「あ、こっちです!」


 靴を脱いでからシオンのいる方へと歩いていった先には畳が敷かれた部屋だった。

 中には机や押し入れ、小さなテーブルが置かれている。

 ぬいぐるみなども置かれているからシオンの部屋かもしれない。


 「この座布団使ってください!」


 そう言ってシオンは小さな座布団を渡してきた。


 「……気を使わなくていいから、シオンは休んでて」

 「さっきまでずっと寝てたら体が楽になったから大丈夫です!」


 と、言ってはいるものの顔が赤いが本当に大丈夫なのだろうか。


 「せっかくオルハさんが来てくれたからオフ配信でもいいかもしれない!」


 そう言ってシオンは部屋の机の上に置かれた配信用のドローンに手を伸ばすが……


 「……今日はゆっくりしてないさい」


 その手をガシッと掴む。


 「だってー、昨日の配信アーカイブが残せなかったんですよ! それのお詫びとかもリスナーさん達に伝えてないし!」

 「……そんなことはいつでもできる、今は風邪を治すことに専念すること」

 「うわーん!!」


 泣いてるような声をあげながら、地面に倒れ込むシオン。

 

 「……まったく」


 ため息混じりに倒れたシオンの体を持ち上げる。

 思っていた以上に軽くて驚く。


 「う、うわわわわ!!! お、お姫様抱っこされてる!?」


 私以上にシオンが驚いていた。


 「……シオン、ご飯食べてる? 少し痩せすぎな気がするけど」

 「食べると必要以上に太っちゃうんです! 欲しいところにはついてくれないのに!」


 胸元に痛いぐらいの視線を感じる。


 「……よくわからないけど、アイリスに言っとくから食べにおいで」


 そう伝えるとシオンをベットに下ろしてから布団をかけた。


 「今の配信に流したら絶対に盛り上がったのになあ……」


 布団で口元を隠しながらシオンが呟いていたが、私の耳に入ることはなかった。


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 一方その頃……


 「なるほど、エルフ達が動き出すとは、とんだヘマをしてしまったようだね、ベローズ」


 微かな灯りしかない一室にて、ソファに座っている男、ガーベラがワイングラスを片手に対面に座るベローズを嘲笑っていた。


 「ヘマどころでは済まされないわよ! おまけにこんな傷まで……!」


 怒りで顔を歪ませながらベローズはバルムからの攻撃で傷を負った肩を抑えていた。

 

 「それなりに時間も経ってるのに傷が癒えないなんて相当なやり手だね」

 「何でアンタはそんなに余裕な顔をしていられるのよ!!!」


 ベローズはガーベラに向けてワイングラスを投げつけるが、簡単に避けられてしまう。

 投げられたワイングラスはガーベラの後ろにある壁と衝突し、ガシャンと音を立てて崩れ落ちていった。


 「少しは落ち着きなよベローズ、そんな顔してたら綺麗な顔が台無しだよ、それに……」


 そう告げたガーベラはグラスに残ったワインを飲み干すと、持っていた手でグラスを握り潰す。


 「僕の大事な君を傷つけられて平気でいられると思ってるかい?」


 ガーベラの言葉とは裏腹に内側に秘めた怒りを見たベローズは嬉しさと同時にわずかな恐怖を感じていた。

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