第47話 元女死霊使い、これからは……
「オルハさん……!」
白いローブを纏ったエンジュさんがこちらを見ていた。
でも何で、彼女がここに? たしかあの時アイリスと一緒にいた人に連行されたはずだ。
——たしか魔族と接触したとかで。
『どうやら合流してみたいだね!』
困惑している最中、甲高い声が耳の中に突き刺さっていった。
「……アイリス、少しは声のボリュームを——」
「オルハさん!!!」
今度は後ろにいるシオンが大声で私を呼ぶ。
振り向くと先ほどまでぐったりしていたが何か毒気が抜けたようなスッキリとした顔になっていた。
「臭いのがなくなってますよ!」
シオンの言葉で自分を苦しめていた悪臭がなくなっていることに気づく。
「これから魔法に集中できますよ!」
そう告げたシオンは杖を立てると目を瞑り、術式の構築をはじめていく。
こちらに振り落としていたトロルはこちらに攻撃ができないことがようやく理解できたのか、狙いを離れたエンジュさんへと変えゆっくりと彼女の方へと歩き出していた。
「……エンジュさん!」
すぐにエンジュさんの元へ駆けていくと彼女の前に立ち、月華を振り上げる。
その直後、トロルが振り落とそうとしていた棍棒が両弾され、ドスンと音を立てて落ちていく。
「すごいわね……」
後ろでエンジュさんが小さな声をあげていた。
武器がなくなり、戸惑いを見せていたトロルだが、こちらを捉えようと太い腕を伸ばしてきた。
だが……
「ローズバインドッ!!」
トロルの腕がこちらへと届く前にシオンのローズバインドがトロルの体に突き刺さっていった。
残りの2体も仲間が苦しむ顔を見て恐怖を感じたのか逃げ出そうとするも、2体を無数のイバラが襲いかかる。
大声をあげることなく、トロルたちは身動きがとれなくなっていた。
「……今のうち」
トロルたちが動けないのを見て、私はシオンに声をかけるとその場を後にした。
「はぁはぁ……! うぅ〜まだあの臭いがする」
エンジュさんの案内もあり何とかトロルの悪臭エリアを抜け、無事に15階へとやってきた。
トロルたちが来ないことを確認してから、3人で休むことにした。
「私はそこまで疲れてないから、監視してるからゆっくり休んで」
そう言ってエンジュさんはそのまま私たちから離れていった。
大丈夫だと言おうと思ったが、思っていた以上に気が張っていたのか、一気に疲れが出てきたのでその場に座ることに。
「……慣れたとはいえ、さすがに3回連続は疲れますね」
シオンも疲れているのか、そう言いながら私の横に座る。
「そうだ……リスナーさんに声かけてあげないと」
シオンはスマホを取り出し、画面をじっと見ていた。
彼女の横には撮影用のドローンがゆったりとした動きで浮いている。
「みんなー……なんとか14階抜けたよぉー!」
シオンがスマホに向けて声をかけると、画面には一斉にコメントが流れ出してきた。
——やっと14階を抜けたなあ
——実際にいるわけじゃないのにこっちまで臭いがしてくるようだぜ
——何か、すごい臭いのするシオちゃんとか女剣客さんを想像したら興奮してきたんだが
——変態がいるぞ! あ、でも想像したらたしかにワイも興奮してきた
——おまわりさん、この2人です!
スマホの画面を埋め尽くすかのように大量のコメントが流れていた。
毎度のことながら何と書かれているのか、読むことはできないが……
「オルハさん……」
一通り、リスナーに話しかけた後、シオンはこわばった表情で私の顔を見る。
「さっきの人ってこの前のゾンビ操ってた人ですよね……?」
「……うん」
「もしかして、さっきアイリスさんが言ってた応援って……」
『うん、そうだよ!』
シオンの言葉にアイリスの大きな声が耳の中を駆け巡っていった。
「……アイリス、耳が痛い」
ため息混じりに告げるも、アイリスは悪びれる様子もなく話を続けていく。
『オルハちゃんとシオちゃんがピンチだったからバル兄……局長に相談したらあの子が送られたんだよ』
「でもあの人ってたしか……魔族と接触して極刑は免れないって」
『私もそう思ったんだけどね、一体どんな心境があったのかなあ』
アイリスはため息混じりに答えていた。
「……理由はどうあれ、私は嬉しいかな」
私は思っていることを口にする。
エンジュさんとはもう一度会って話をしたかったし。
『オルハちゃんならそう言うと思ってたよ……』
アイリスはため息混じりに答えたのはいいけど、何かため息つかれるようなことしたかな……?
ふと、横を見るとシオンが頬を膨らませているけど、何かあったのだろうか?
「少しは休めたかしら? いい時間だからそろそろ戻らないと終電がなくなっちゃう……」
暫くの間、休んでいるとエンジュさんが戻ってきた。
言われた通り、スマホの画面を見ると、思っていた以上に時間が経っていたことに気づく。
「……うん、私はもう大丈夫だけどシオンは?」
「私も大丈夫です!」
元気よく答えるシオンだったが先ほどと同じように頬を膨らませたまま、キッと鋭い表情でエンジュさんを睨みつけていた。
……なぜか私の腕にしがみつきながら。
「それじゃ出発ね、安心してポータルの場所は調べておいたから」
そう言いながら真っ先に歩き出すエンジュさん。
そして、10分ほど歩いたところでポータルを発見し、無事に戻ることができた。
「それにしても2人ともすごい臭いね、電車乗れる?」
地上に戻り、外の空気をいつも以上に味わう私とシオン。
都心の空気は汚れまくっていると言われているが、あのトロルの悪臭に比べればマシだと思える。
「……周りの目は覚悟の上だから」
そう答えるとエンジュさんは少し考え……
「それなら私の家に来ない? ここから一駅分歩くけど」
そう話すエンジュさんは少し嬉しそうに見えた。
——ずっと横にいるシオンはずっと不機嫌な顔だったが。




