第46話 女剣客、女配信者の元へ救いの手
「……アイリス、前からもちゃんと説明しろと言ってるだろう」
『わかってるけど、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないんだってば!』
タブレットのスピーカーから騒音の如く女エルフの声が聞こえてきた。
「……わかったから静かにしろ、それで巫女姫様がどうなったんだ?」
男エルフはため息混じりに対応する。
『下北沢のダンジョンの14階にいるんだけど、トロルに囲まれて大ピンチなんだよ!』
「……そうか」
トロルと聞いて、男エルフは苦虫を潰したような表情を浮かべる。
『倒せば倒すほど、臭いもすごくなるし、トロルが大量にでてくるし! 臭いでシオちゃんは魔法詠唱できないし……!』
女エルフはマシンガンのように次から次へと言葉を発していく。
「……これが姫様じゃなければ見捨てるところだけどな」
男エルフは大きなため息をつき、ゆっくりと私を見ていた。
「なによ?」
「……この女の魔力なら問題ないか」
何かぶつぶつと独りごちる男エルフ。
「ちょうどいい、実践だ」
そう言って男エルフは指をパチンと鳴らすと、首が締め付けられる感覚を覚える。
手で首元に触れてみると、ツルッとした感触がしていた。
「何をしたのよ……!」
「安心しろ、お前を苦しめるものではない」
ふと、机に置かれたタブレットへと目を向けると、驚く自分の姿が映っていた。
気になっていた首元には銀色のネックレスがつけられていた。
「ずいぶんといい趣味してるわね、なんでこれをつけてくれたのか気になるところだけど」
くれた相手によっては素直に喜びたいところだが、恋愛感情がないと公言していた男からだと疑いたくなってしまう。
「もちろん監視のためだ、無理矢理外そうとしたり、逃げ出そうとすれば爆発するようになっている」
淡々と身震いする言葉を向ける男エルフ。
少しでも嬉しいと思ってしまった自分が嫌になってしまう。
「それで、実践って何かしら?」
「聖魔法にきまっている。 せっかく身につけたんだ、それに巫女姫様のためにお役に立てるなら文句はないだろう」
さっきから気になっていたのだが、巫女姫というのは誰のことだろうか……?
話の流れからしてオルハさんのことかなと思うけど。
聞いてみたいところだが、自分から説明しないということはこちらから聞いても教えてはくれないだろう。
「そうね、それでどうすればいいのかしら?」
私がいるのは周りには何もない真っ白の空間だ。
あるのは木製の机と椅子だけ。
窓もなければここから出るのに必要な扉すらない。
「……今からおまえを15階に送る、彼女らがいる14階へ行き、助けろ」
「今からってどうや——」
話の途中で、男エルフは指をパチンと鳴らす。
その瞬間、目の前がグニャリと捻じ曲がっていく……
「……ここはダンジョン?」
辺りが真っ白な空間から薄暗く、圧迫感を感じる場所へと変わった。
……どうやら、男エルフがワープさせてくれたらしい。
「もっと優しくできないのかしらね……まったく顔だけがいい男ってのも考えものね」
誰に言うわけでもなく独りごちた私は腰元にあるものを確認する。
「……それにしてもゴスロリ服以外で外に出るなんて久々ね」
聖魔法を覚えるための訓練をする際に、ずっと白いローブを着せられていた。
聖なる魔法を身につけるには清めた白いローブが必須だとか言っていたような気がする。
「……そんなことよりも早くいかないと」
あの女エルフの言うことが正しければオルハさんが大変なことになっているはず。
もう一度、会ってもっと話したい。
その思いを抱き、私はダンジョンの中を歩き出していった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……シオン、大丈夫?」
「肉体的には大丈夫ですけど、精神的にはキツイです……」
「……そうね」
私もシオンも疲れはあるものの、怪我とかは一切ない。
ある意味それだけは救いなのかもしれない。
——大勢のトロルに囲まれてる状況でなければ。
「……倒せれば楽なんだけど」
トロルを倒すことは難しいことではないが、倒すと強烈な臭いを発する特性を持っている。
その臭いに釣られて他のトロルが集まり出してしまう。
「うぅ……私が魔法使えればいいんですけど、この悪臭の中で集中するのは厳しい」
シオンのローズバインドであればトロルの動きを封じ込めることができそうではあるが、彼女の言う通りこの状況で何か1つのことを集中するのは難しいようだ。
それもあって、15階を目指して逃げ続けていたのだが、気がつけばトロルの数が多くなり、結果的にこちらの身動きが取れなくなってしまっていた。
「……どうするか」
私の正面には3体のトロルがこちらをじっとみている。その中の1体は腹を空かせているのかこちらをみて舌なめずりをしていた。
「うぅ、この臭いもあってか顔まで気持ち悪く見えてくる」
私の後ろでシオンが声を震わせていた。
……臭いがなくても気持ち悪い顔をしているとは思う。
「……気持ちはわかるけど、怖がらないでいつでも逃げれる準備をしておいて」
後ろにいるシオンに声をかけながら、いつでも月華を引き抜く準備をしていた。
トロルから攻撃を仕掛けてきた場合、持っている棍棒だけを斬りたいが扱いが難しいこの月華ではトロルごと斬ってしまう可能性が高い。
そうなった時は、隙をついて逃げ出すしかない。
『オルハちゃん! シオちゃん! 朗報だよ!!!』
この状況の打開策を考えていると、突然耳元で甲高い声が耳の中に突き刺さっていく。
「……アイリス、お願いだから突然大きな声を——」
『——今からそっちに応援が行くから、なんとか耐えて!』
「応援……ですか!?」
後ろでシオンが不思議そうな声色でアイリスに返す。
「……嬉しいけど、どれくらい耐えればいいの?」
どんな応援なのかわからないが、この状況を打開できるのなら嬉しい。
……我儘いえば、今すぐの方が嬉しいが。
そうこうしているうちに、先ほど舌なめずりをしていたトロルが痺れを切らしたのか、こちらに向けて大きな棍棒を振り落としてきた。
「……シオン、逃げる準備をッ!」
叫びながら月華を勢いよく引き抜こうとすると……
「何これ……!?」
自分たちの身に起きている状況を見て、驚きの声をあげるシオン。
——自分たちの周りを光が覆っていた。
その光によってトロルが振り落とした棍棒が振り下ろされることなく宙に浮いている。
「間に合った……!」
その直後に聞こえてきた声に驚いてしまう。
「……何で!?」
声のする方へと目を向けると、白いローブに身を包んだエンジュさんの姿があった。




