4話 状況把握と無徴の烙印
体がバッキバキ。
バッキバキだよ。バッキバキ。
とりあえず身元不明者である俺は、あの後はベンチに放置されますた。
雑種犬警備員さんが毛布を貸してくれたけれど、ベンチという寝床は……ええ快適でした。はい快適でした。全身バッキバキになるくらいには。
ただ串焼きサンドをくれた雑種犬警備員さんが小一時間の雑談に付き合ってくれたおかげで、色々な情報が手に入った。
耳長男の言っていた『無徴』についてや、その他の諸々を理解できたしな。
軽くストレッチをしながら、寝る前に手帳と整理した情報を復習する。
まず第一に、俺は今『異世界に居る』と確定していい。
飛行機が飛ぶほどに社会や文化が発展している世界だけど、完全に異世界であると結論づけられた。
もちろん結論付けたのはセリフィアだが。
俺も素直に納得するほど元の世界と差がある。
この世界では人間は全員人間だけど、『魔力器官』の発達で外見に特徴が出るらしい。
『角持ち』
『耳長』
『獣』
『特徴無し』
この4つのタイプが大分類。
耳長やさぐれ男が聞いた『種族』は、この特徴の種類を確認する質問だったようだ。
特徴が出るんだから性別同様、見りゃ分かるだろって思うけど、見ただけで分からない場合もあるらしい。まぁ……分からんでもない。性別もそんなところあるかもだし。
要は、特筆すべき特徴なんかを問われた。ということだ。
で、俺の見た目は『特徴無し』タイプ。
『無特徴』を略して『無徴』と呼ばれたワケだ。
このタイプ別の特徴ってヤツは性格や性質なんかにも結構影響を及ぼすらしく、種族特性みたいな分類分けもしやすいから質問事項に入っているようだった。
分かりやすい例を挙げると
角持ちは、パワー第一主義。
耳長は、頭脳派。
獣は、各種特化型。
特徴無しは、特筆なし。
雑種犬警備員さんが、それぞれに対して『言わない方が良い禁句』とかも教えてくれた。
角持ちに『角脳』。
耳長に『鈍耳』
獣に『ケダモノ』
特徴無しに『能無し』
これはほぼほぼ喧嘩を売る時に使う蔑称なんだと。
友達同士であればギリギリを攻めた『角バカ』『ヒョロ耳』『ケモ』『無徴』とかを言うことはあるけど、基本デリケートな範疇だから特徴をいじるような言葉は控えた方が良いらしい。
耳長やさぐれクソ野郎に『無徴』って言われたけど? って暗に伝えたら、雑種犬警備員さん渋い顔になったわ。
うん。なるほど。
雑種犬警備員さんの反応で普通は使わない方が良い言葉なんだってよく分かった。
ほんと、印象悪いのを一切裏切らない耳長野郎で助かるわ。
あと、やはりこれだけ分かりやすい特徴が種族毎にあるとなると、種族間対立も普通に存在していた。
なんなら、角持ちの国のバルグラと、耳長の国のエルシオンは最近までバッチバチの戦争をしていたそうだ。
角持ちは力が正義、耳長は知識が正義。
大半が同一種族が占める国があれば他国と戦争になるのは、もう道理。
なんなら自然の摂理くらい当然のことかもしれない。
そもそも国って「あいつらとは絶対に一緒に暮らせない」で生まれた境界だと思ってるしな。俺。うん。
で、それぞれの利権となる土地争いよ。うん。
ま、こっちの人間も、元の世界の人間も考えることは、どっこいどっこい。
何も変わらないってことが分かった。
そして今、俺が居るアストレア共和国は、交易と商売で発展した多民族国家で、特徴云々より『何ができるか』の方が大事という国風らしい。
悪く言えば『稼げるヤツがえらい』って風潮。
種族は二の次。
多民族国家のアストレア共和国だから、適材適所がうまく運用されているとも思えた。
警備員が犬系っていうのは納得しかないもの。
実際、俺という異物に、匂いなり直感なりですぐに気付いたんだから優秀。
ま、そんな国でも、耳長やさぐれ男が言ってきたような差別は当然のようにあるってだけの話。
角持ちの国、耳長の国、多民族国家ときて、特徴無しの国の話題がなかったのは、特徴無しはそもそも強くないかららしい。
厳密には『内蔵型』というのが正しいようで、魔力器官が体内に内蔵されているタイプらしい……が、単純に特徴が表に出ないほど弱いということの方が多いみたい。
なので特徴無しは『能無し』が蔑称として刺さるワケ。脳無しも兼ねてるワードに聞こえるしな。
そしてパッと見で、特徴無しの能無しに括られるのが俺。
脳内で得られた情報の復習を終えつつ、体もほぐし終えたので、手帳を開く。
『非常に興味深いですね。技術や文化の中に魔力が根付いているのが、とても面白いです』
セリフィアが楽しそうで何よりです。
まぁ、とりあえずいきなり攻撃されたり死ぬような目にあわされず、比較的平穏に情報収集や状況整理できて本当に良かったと思う。
余裕があるおかげで落ち着いて物事を考えられる。
現状を踏まえて俺たちの目的を整理すると――
最終目標は『日本への帰還』
次点の目標は『能力の回復』
とりあえずの目標は『安全の確保』とか『自由の確保』かな?
『はい、マスター。現状の整理としては非常に妥当だと思います。
とくに『安全の確保』は最優先事項ですね。
関連する事項として『魔力の回復』を加えて良いかと。
私に魔力が戻れば、何があろうとマスターを守ってみせます。』
さすセリ。
手帳状態でも頼りになる。
『今日は保安捜査局から担当者が来ると思われます。
しっかりとした組織体系があることから、その目的もある程度想像ができます。』
あ、ほんと。
やっぱセリフィア頼りになる。
教えて教えて。
ページをめくる。
『情報が不確かな面もありますので、あくまでも推測ですが、以下ではないかと
・身元確認
・危険性の有無
・管理可能かの確認
要するに
1番に敵性国家のスパイの可能性。
2番に事故や事件の可能性。
3番に精神疾患や記憶障害の可能性。
それらの調査ではないかと』
なるほど。
飛行機が飛んでても直近で戦争が起こっているような世界だから、まずは自国防衛がくるわな。
セリフィアの推測を基に考えてみる。
……あれ?
結構まずくね?
俺、この世界でただの異分子じゃね?
しかも、なんの後ろ盾もない。
後ろ盾が無いのが、めちゃくちゃまずくね?
普通なら生まれた国とかの背景があるし、多分この世界は、人物を他国にも確認できるような環境が整っている。
となると非常にまずい。
人権が無い判定されね?
少し焦る気持ちでページをめくる。
『懸念は最もですマスター。
確かにマスターは異分子です。ですが、それは『危険因子』と直結しません。
保安捜査局に対しては『危険性が低い』こと。そして『利用価値がある』ことを感じさせれば、彼らに保護される可能性があります。
必要以上に恐れず、雑種犬警備員さんと同じように、あるがままのマスターでいてください。』
……確かに。
今から分からないことを恐れてても仕方ないもんな。
「ま……なるようになる。か。」
ある種の腹を括って、手帳と話をしながら保安捜査局が来るのを待つのだった。
◇ ◇ ◇
「ナカムラさん……中村さん。」
「んぇっ?」
目を開くと雑種犬警備員さんの顔。
どうやら長時間の待ちぼうけて、少し船を漕いでいたらしい。
やっべ、と思いつつ、目を横に走らせると、俺を見ている見知らぬ男女が二人。
男の長い耳に、内心で溜息をもらすのだった。




