3話 異世界空港、タバコ臭い取調べ
耳の長いエルフみたいな男が、こちらをチラ見したが気にするでもなく抱えていた小ぶりなダンボールを乱雑に机の上に投げた。
日本人としては「もっと丁寧に置けよ」と言いたくなるくらいの適当&雑さだ。
椅子への座り方も雑。えぇ雑。
雑種犬警備員さんと比べて小柄なのに、態度は何倍も大きく見える。
アメリカの映画とかに出てくる人みたい。
座ったことで、ようやく目が合ったが、やはりエルフみたいな男。
『みたいな』が、ここまで大きく意味を持つこともないだろうけどね。
『エルフ』って言葉から想像するのは眉目秀麗なアハハ、ウフフの容姿端麗、自然派清楚かつ高潔な雰囲気の人だと思う。
『エルフみたいな』は、まかり間違っても『エルフ』ではない。
耳が長いだけのやさぐれた男と言った方が相応しいまである。
「あのー…」
こっそり静かに手を挙げる。
返されたのは面倒くさそうな視線と舌打ち。そして溜息。
そして一本の指が俺を見ながら立てられた。
ジェスチャー的には『何も言うな。黙ってろ』だろう。
ええ。
いい大人なので意図を汲みますとも。黙りますとも。
エルフみたいなやさぐれ男が置いたダンボールに手を突っ込み、何かを取り出し机の上に置く。
「ん?」
目の前に置かれた物を見て、思わず声が漏れた。
でもエルフみたいな男は俺の言葉など気にもしておらず、段ボールにまた手を突っ込んでいる。
目の前に置かれた物は知っている物だった。
『テープレコーダー』
カセット式のテープレコーダー。昭和に活躍しただろうA面B面で裏返して使えるアレ。
『早戻し』ではなく文字通り『巻き戻し』の巻物のカセットテープが入ってるヤツ。
時代を感じるくらいに大きい。でかい。
骨董品レベルのテープレコーダーに気を取られていると、甲高い音が鳴り目を向ける。
灰皿だ。
ダンボールから灰皿を置いたことに気が付いた時には、エルフみたいな男は紙巻きタバコに火をつけ、一服始めていた。
タバコの灰をトントンと灰皿に落とし、咥えタバコでテープレコーダーのごっついボタンをガチャリと押し込む耳長やさぐれ。
「フゥーー……、あー、聴取を始める。」
とんでもなくダルそう。心底面倒くさそう。
「名前は?」
「あー、中村大輔です。中村が苗字、名前が大輔。」
「生年月日」
「えっと? あー、それは西暦ですか? それとも和暦ですか?」
「出身地は?」
「えっ? 生年月日……え? あ、出身は日本です。地名でいうと東京――」
「種族は?」
「えっ? 種……族? 人間? えっ?」
「空港にはどっから入った?」
「えっ? あ、あ~……気が付いたらいました。」
「危険物を持ち込んだか?」
「い、いえ、持っていた物も無くなってて財布も何もない……服と、あと手帳くらいしかないです。」
耳長やさぐれ男は、適当さしか感じない雑さで書類を書き進めている。後から読めないだろうと確信すら持てる雑さだ。
ペンを置いて、咥えていたタバコの灰を落とし、少し上を見ながら紫煙を吐き出す。
目が宙の一点を見つめていたかと思うと、ぎょろっと俺に向いた。
「流暢に言葉を話すが、質問に対してまともに返答する意思がないことを確認した。保安捜査局の調査が適当である。以上。」
そう言い切り、カセットテープの停止ボタンを押しこむとガチャンと音を立て録音に押し込まれていたボタンが跳ねた。
そして、あっという間にカセットテープを片付け始める耳長やさぐれ男。
これはもう帰る気満々なのが否が応にも分かってしまう。
「えっ、ちょ、真面目に答えてましたって。」
なんとなく分からないまま何かが決まった気がして声をかけると、エルフみたいな男はまた指を一本、俺の前に立てた。
そして口を開く。
「いいか、俺はお前らみたいな無徴とは違うんだ。頭の出来がな。その俺が『そう』と判断したんだから『そう』なんだよ。」
そう言い残し、エルフみたいな男はダンボールを持って帰っていった。
少し呆けてしまったが、あまりにも不快な態度に一度深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
「タバコくせぇ……」
結構なタール臭さを感じるキツめのタバコの匂いで深呼吸どころじゃない。
色々腑に落ちない気持ちから「今の何だったんだと思う?」と思いながら手帳を開いてみる。
『雑種犬警備員の上司、もしくは外部の警察のような存在かと推測します。
また『保安捜査局の調査が適当である』という発言から、私たちの扱いを外部の保安捜査局に任せるための証拠を作りに来ただけの可能性が高いです。』
なるほどね。
まだ分からないことだらけだけれど、とりあえず耳長やさぐれ男の印象は悪い。
だからアレと関わることはないだろうってことは救いにも思える。
ただ保安捜査局ってところから、もっとひどいヤツが来る可能性も全然ある。
社会が成り立っている文化的な世界ではありそうだけれど一癖も二癖もありそうで少し気が滅入る。
「確認すべきことが山積みだな……」
外部の情報だけじゃなく、自分が何ができるかも確かめたい。
俺の身体能力の高さはチート武器に依存していたことは否めないけれど、記憶の限りでは地の身体能力もそこそこ高くなっていたはずだ。
『そうですね『ムチョウ』という差別的な意図で使われただろう言葉も気になります』
ムチョウ。
確かに見下されていると感じた言葉だった。
だが、差別的な意図で発せられた言葉ということは、裏を返せば俺が『ムチョウ』とやらに属していると判断されたとも取れる。
であれば雑種犬警備員や耳長とは違う、俺みたいな普通の人間みたいなのも存在しているってことだろうか?
『さすがマスター素晴らしいご推察です。私も同意します。』
ドアがノックされると同時に開いたので目を向けると、雑種犬警備員さんが心底いやそうな顔をしながら入ってきた。
「……くっせぇ。あーナカムラ?さん? 俺にはちょっとこの部屋はキツイ。場所変えよう。」
片手で鼻を押さえながら『こっち来い』と取れる顔の動き。
おとなしく席を立って雑種犬警備員さんについていく。
着いたところは最初に居たベンチだった。
「これくらい広くないと臭すぎてな……」
犬ってだけで鼻がよさそうだもんね。うん。なんて思いつつも、タバコの煙の充満した部屋に少し閉塞感を感じていたから気分も変わる。広いところはイイネ。
それにしても雑種犬警備員さんは耳長やさぐれ男と比べて、全然人間味があって助かるわ。
……外見の人っぽさでは耳長の方が人間らしいのに、犬の方が人間味があるとは、これいかに。
「あ~、まぁなんだ。ナカムラさんは、そんな悪い人間って見えねぇしさ、どうとでもなるだろ。」
隣に座った雑種犬警備員さんが慰めのような声をかけながら紙袋を差し出してきたので受け取る。
ほんのりあったかい。
「……これは?」
「いや、腹くらい減るだろ?」
紙袋を開くと、いい匂いが広がった。
中を見れば、パン。
そして、なぜか一緒に缶ジュース? が入っている。
「串焼きサンドだよ。おごりだ。」
少し口角を上げる雑種犬警備員さん。
うんっ!
雑種犬警備員さんの方が人間だねっ! 好きっ!
……でも缶ジュースがソースでベタベタなんやが?




