2話 犬のお巡りさんに職質されました
犬顔というわけではなく人型の犬に驚いた俺。
更に言葉が通じたことにも驚いた俺。
混乱の極みに至った俺が気づいた時には、別室に居た。
「え~……改めてお伺いしますよ? 名前は?」
やっぱり流暢に日本語を喋ってらっしゃる。このお犬様。
顔は黒色の毛の犬なのに。
雑種っぽい顔立ちなのに。
喋ってらっしゃる。
「ファンタジー……」
「は?」
「あ、すみません。中村です。中村大輔。」
器用に『何言ってんだ』の表情の雑種犬警備員様に、つい謝ってしまう。
雑種犬さんは俺の言葉を一瞥した後に、器用にペンで頭を搔く仕草まで様になっている。
『とんでもなく面倒くせぇヤツ捕まえてしまった』と言わなくても伝わってくるわ。スゴイ。
着ている服は一見警察? と思えてしまうような服だ。
地味な一色に、なんか簡易なワッペンが張り付けてあり、黒の革ベルトにバックル。
でっかいトランシーバーを使っていたし、木の質感丸出しの警棒も刺していた。
今居る部屋を見回してみても、机が1つ、椅子が3つ。
俺のところに1つと、相手側に2つ。
壁際にはスライド扉付きの書棚があるし、書棚の中にはファイルがありそう。
小さな会議室みたいな感じだ。
ただマジックミラーみたいな窓があり、きっと100%マジックミラーなんだろうと思う。
「あ~、では中村さん。出身は?」
「えっと、日本です。」
「ニホン……ね」
片眉を吊り上げながら記している雑種犬さん。
「身分証は?」
スーツの上から自分を撫でまわしながら確認してみる。
「……ない、みたいです。」
「なし。ね。」
さらに渋くなる雑種犬さんの顔。
「なんか身分を証明できるもんはないのかい? あんたの……ニホン? のでもいいんだから」
「すみません。あったらよかったんですけど、ちょっと自分でも、なんであそこに居たのかって言われると……わかってないんですよね……」
こういう時って『正直』が美徳だと思うのよね。ぼかぁ。
「あれか……密入国?」
「違いますっ! ……違います?」
「いや、疑問形で言わないでほしいんだけど……」
だって正直、自信ないんだもん。
雑種犬さんが諦めたように書類を机に置き、頭を搔きながら背もたれに全力で寄りかかった。
ギシっと音を立てる椅子が、なかなかの体重を感じさせる。
手帳が震えて合図を送ってきた気がしたので、胸に手を伸ばして手帳を取り出す。
簡単な身体検査はされて危険物を持っていないかの確認はされたが、雑種犬さんの目の動きは俺の行動をしっかりと捉えていると感じる。
「ちょっと何かヒントになるものがないか確認するだけですんで」
手帳を開く前に、軽く『ただの手帳ですよ』『無害ですよ』アピールで見せておく。
「……魔導書……っぽい作りに見えなくもない……が、まぁその大きさのモノは無いだろうしな。」
「……ええ、ちょっと確認するだけですんで」
軽く顎を動かしたのは、好きに見ろということだろう。
魔導書という言葉は引っかかるが、念のため無害アピールしておいて正解だったようだ。
パラパラとページをめくる。
『マスター。嘘は推奨しませんが、情報が足りていない今、全てを話す必要もありません。』
パラっとページをめくる。
『異世界から来たこと、私たちの存在がダンジョン産であること、マスターの能力などは言わないよう気を付けてください。
まずは普通、知っていて当然だろうことを雑談として聞き情報を集めましょう。知らないことは知らないと伝えるだけで相手の理解も進むでしょう。』
なるほど。
とりあえず日本ではないことは確定してるし、地球でもなさそう。
現状お互いに、なんも知らん状態だから情報が大事だわな。
攻撃されるわけでもなく、きちんとした社会人っぽい人と話ができる状態って、結構な幸運だ。
「あ~……えっと? 警備員さん?」
「……なんです?」
背もたれから体重を開放する雑種犬さん。
「あの~、すごく申し訳ないんですけど……そもそも、ここって『どこ』なんでしょう?」
雑種犬さんの顔は、とてもしょっぱいモノに変わった。
◇ ◇ ◇
俺の質問に対して「あ~……」「ん~~……」「え~……」など、濁った前置きを混ぜながらも返答をしてくれていた雑種犬さん。しばらくの雑談の後「あ~……ちょっと待っていてほしい」と言葉を残して離席中である。
これまでの雑談から得られた情報は
現在いる所は「カルディア第一国際空港」であること。
そして、そこから「カルディア県」にあるということも聞けた。
「県」であることから「アストレア共和国」という国であるという情報も手に入った。
さらに「国際空港」ということは、飛行機があり、国交が民間レベルでありうる文化がある世界だろうことが推測できる。
少し話を変え、雰囲気を穏やかにする為に聞いてみた、カルディア第一国際空港で食べておいた方が良いグルメはという質問の、雑種犬さんの回答は串焼き肉を挟んだサンドイッチが好みだそうだ。
バゲットのようなパンに刻んだレタスっぽい野菜を敷いて、焼き鳥を挟んでソースをかけたものらしい。
小麦を主食として扱っているようだが「パニーニみたいなやつ?」という言葉は伝わらなかった。
B級グルメがあることで、安定した食環境があること、つまり、農業・畜産などが行われていることが推測できる。
気になっていた「魔導書」の話を振ってみたところ「いや、俺はそんなに詳しくねぇな」みたいな返答の後、ノックしてきた灰色に黒のブチが混じったような犬の人に呼ばれて出ていったまでが、これまでの会話の流れとなる。
……もちろん、俺は雑談しただけで、得た情報から推測を交えて補完された情報は、今、手帳を読んで理解した。
さすがセリフィア。
『マスターの雑談が上手で、いくつか情報が得られました』
うむ……さすが俺。
社会人生活の長さには自信があるから、初対面の人だろうが、この程度の雑談は朝飯前よ。
自画自賛をしつつ、自己肯定感を高めていると、不意にドアが開き目を向ける。
「えぇ……」
思わず声が漏れた。
雑種犬さんが入ってくると思っていたのに、違う人が入ってきたのだ。
男が。
耳の長いエルフみたいな。




