第6話 あの子との出会い Ⅲ
それから、一年が経った頃だろうか。
「ルーナ様、今回の同行者ですが…ルカはいかがでしょうか」
とベルグがいう。
ベルグはつい最近父親になったので遠出させるわけにはいかず、別のものを選ぶよう言った。
「うん、わかった」
ベルグが選んだということは実力も折り紙つきだろう。
それ以上は特に考えなかった。
当日
「よろしくお願いします」
と目の前で頭を下げているのは、あの赤髪の少年だった。
「うん、よろしく」
短く返事をする。
魔剣士団の紫の入った制服がよく似合っている。
魔塔の色である紫の入った制服は、見習いには渡されないものだ。
正式に魔塔の騎士になったものや魔塔内で役職をもつもののみが纏える。
一年で見習いから魔剣士団の一員にまで上がった、ということになる。
…血筋だろうか
「今日は、偵察と近くの村で聞き込みをする」
「はい」
「定期的な見回りの一環だからそんなに危険じゃないと思うけど、気を緩めないでね」
「はい」
即答。
迷いのない返事。
視線は私の目から一度も逸れない。
まっすぐな目、あの日の迷いはもうない。
「……じゃあ行くよ」
「はい」
「…おかしい」
村で宿を取り、2人で部屋で今日の聞き込みをまとめる。
「何がですか?」
「最近、魔竜被害が増えたらしいけど、ここの近くの魔竜の群れはおとなしい方なの。人を襲わないから討伐しなかった。急に襲い始めるのはおかしい。餌の他の獣や魔物が減ったわけでもないのに」
「そうなんですか?」
というルカは敬語が板についている。
「魔竜は群れることもあるし、単体のこともあるんだけど、群れの場合はいわば“長”みたいな個体がいるの」
一拍置く。
「その個体の指示で動く。だから、行動が急に変わるとしたら──」
視線を上げる。
「代替わりした可能性があるけど…でもそれにしては、時期が早い」
首を傾げながら
「寿命はまだ先のはずだし、この辺りに“あの群れの長”より強い個体もいなかった」
部屋の中が、少しだけ静かになる。
「……じゃあ、外から来たってことですか?」
ルカの言葉に、私は一瞬だけ考える。
「その可能性もある」
そう言ってから、魔塔が送ってきた資料に目を落とす。
「…違うことを願ってるけど、竜王が生まれた可能性がある」
「竜王?」
「うん、生まれながらに竜の王になる存在。竜王の誕生に浮き足立ってるのかもしれない」
「浮き足立ってる…」
竜も浮き足立つんだ、というような顔をするルカ。
「うん。竜って、意外と単純だから」
そう言って私は肩を竦める。
「強い個体が現れれば従うし、竜王が生まれれば興奮もする。縄張り意識も強いし、“王”のために動き始めても不思議じゃない」
「……人間みたいですね」
「人間より素直だよ」
そう返すと、ルカが少しだけ目を丸くした。
「人間って面倒だよ。弱くて脆いし、群れたがるし、強いものを妬むし、勝手に争うし、自分より強い存在に集団で攻撃する」
「ルーナ様も人間では…」
「まあ、そうだけどさ」
とくすくすと笑うと、ルカは驚いたような顔をする。
「何?」
「いえ、笑ったところを初めて見たので…」
「まずまず、そんなに関わってきてないでしょ」
「まあ、はい」
「…寝るよ。明日は竜の縄張りに入るから、体力ちゃんと回復してね」
「はい」




