第4話 あの子との出会い Ⅰ
あの子との出会いは、数ある弟子の中でも印象深いものだった。
森を抜け、高台の崖から下を覗く。
「ぁ」
と小さく声を漏らす。
目下に広がるのは破壊された村。
煙が上がっている。
まだ、新しい痕跡だ。
魔法で崖から飛び降り村に入る。
焦げた匂いと錆びた鉄の匂い。
何嗅いでも、慣れない。
あの匂い。
目を瞑り、生存者がいないかと思い魔法で探る。
小さい反応が一つ。
反応は小さいのに自分はまだ生きているのだというように強く、魔力総量も多い。
所々に破壊された家の残骸が転がっていて、歩いて行くのは無理そうだ。
魔法を使い空から反応のある場所に行く。
「いた」
気絶しているのか、動いていない。
少年の手には根本から折れ、もう使えないだろう剣が握られている。
顔や髪が黒く煤で汚れ、胸元が大きく裂けている。
流れている血はあまりに多く、助かる見込みはない。
…見つけたのが私でなければ。
治癒は神官の領域と言われ、魔力とは相容れない神聖力を使って起こす奇跡の一つ。
神に愛される私は魔力を持ちながら、神聖力も持つ唯一の存在だ。
私は神殿の中で神聖力の保有量が最も多いとされる聖女さえも凌ぐ神聖力を持つが、神殿に所属していない。
神聖力は主に治癒を行う力で、攻撃に向いていない。
治癒を行える神聖力保持者はもちろん貴重だ。
そのため、狙う輩は多い。
貴族も、切羽詰まった平民も。
だから神殿に所属し、神官になることで聖騎士という神殿所属の騎士に守ってもらうのだ。
私は自分の身くらい自分で守れるので、その必要がないのだ。
わざわざ神殿に所属し、自由を制限される必要はない。
治療は完了したが、少年は起きる気配がない。
このまま連れ帰ってもいいのだが、その前にこの村を滅ぼしたであろう、魔竜の討伐をしなければならない。
だが、この少年は村を滅ぼした憎き相手は自らの手で葬りたいかもしれない。
…その気持ちは、よく、よくわかるから。
例え、葬ったとしても、大切な人が帰ってこないとわかっていても。
気が晴れるわけではないけれど。
結局、考えもまとまらぬまま、魔塔に帰ってきてしまった。
結局魔竜は討伐した。
「ルーナ様!?」
と私に気がついた魔塔所属の魔法使いの1人が駆け寄ってくる。
「この子、どこか寝かせらるところある?」
「は、はい! 医務室へ!」
「わかった」
短く答えて、私は少年を抱え直した。
翌日の朝、使用人たちが私を朝の支度をしてくれていると
「ルーナ様、失礼します」
と昨日の魔法使いーーミレイが部屋に入ってくる。
「どうしたの?」
「ルーナ様が昨日連れてこられた少年が目を覚ましました」
「そっか、ん〜」
と少し悩む。
あの村には他の生存者がいなかった。
あの少年の家族もすでに亡くなっているだろう。
発見して時点であれだけの傷を負いながらも生きていたのは本能的に魔力を生命力に変換していたからだろう。
本能的に魔力を使えるのをみると魔法使いの素質がある。
そういえば、生命力に変換していたとしても魔力の減りが異常だった。
…なぜ?
村に魔法を使った痕跡はなかった。
よほどの熟練者でなければ痕跡は消せない。
「身体強化魔法か」
身体強化魔法は通常の魔法の使い方とは魔力の使い方が異なる。
本来の魔法は、発動の際に余剰魔力が生じる。
だが身体強化は、その余剰がない。
体に流れる魔力を体の外に出さないから。
使われなかった魔力はそのまま体に残る。
本能的に使う魔法は最も適性が高い魔法だと言われている。
あの少年の場合、身体強化魔法だったのだろう。
そして、こうしたタイプは他の魔法の習得が極端に遅いか、あるいは不向きなことが多い。
少年もそうであるならば、他の魔法を教えるのは時間の無駄なのだが、どうしたものか。
「ベルグのところにやれ」
とミレイにいう。
「はい、かしこまりました。失礼しました」
と言い、ミレイは部屋を出る。
ベルグは魔剣士団の団長だ。
魔剣士とは、魔法使いの中でも近接戦闘を得意とするもののことで、魔剣士の多くが身体強化を得意とする。
魔法使いの多くが近接戦闘を苦手とする中で、唯一の近接戦闘部隊だ。
…まあ、私の方が強いが。




