第10話 天才魔女と、幼馴染
着替えて、教室へ戻る。
すでに授業が始めっていた。
「またか夜桜、遅いぞ」
先生の声に軽く頭を下げる。
「すみません」
席に座り、教科書を開く。
離れた席から私に水をかけた女子が睨んでくる。
なんでこんなに目の敵にされているのだろう。
不思議だ。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴り、3限が終わる。
休み時間は机に突っ伏し、なんとかお昼までやり過ごした。
「る〜な!」
と明るい声が響く。
皆がそちらを見て見惚れる。
短く切られた黒い髪、深海のように濃い青い瞳。
まるで彫像のような美しい顔立ちは中性的なのに、どことなく男らしい。
「紫苑」
そう呼ぶと嬉しそうにかけてくる。
周りの視線が痛い。
特に私に水をかけた彼女たちからは殺気すらかんじる。
「お昼一緒にた〜べよ!」
紫苑は当たり前みたいにそう言って、瑠奈の机の横に立った。
その瞬間、教室の空気が少しだけ変わる。
「またあの二人……」
「ほんと仲いいよね」
そんな小さな声が、背中のほうでざわついた。
視線が刺さる。
特にさっき水をかけてきた女子たちの方は、露骨に顔を歪めている。
紫苑は気にした様子もなく、ただ瑠奈を見ていた。
青い瞳が、まっすぐこちらだけを映している。
「るな〜、今日は私たちと一緒に食べる約束だったでしょ〜」
と猫撫で声でこちらに声をかけてくるいじめっ子たち。
紫苑の視線が、ほんの少しだけそちらに動く。
「……約束?」
低い声じゃないのに、妙に教室の空気が沈む。
声をかけてきた女子は一瞬ひるむが、すぐに笑顔を貼り付け直した。
「そうそう。ね、瑠奈ちゃん」
いじめっ子の1人ーーゆいに腕を掴んで引き寄せられる。
有無を言わさぬように、つねられている腕が痛い。
紫苑はゆっくり瞬きをしてから、瑠奈の方を見る。
「約束してたの?」
問いかけは静かで、責める感じはない。
ただ確認しているだけ。
瑠奈は少しだけ迷ってから、首を振った。
「……してない」
その瞬間だった。
紫苑は笑っていう。
「じゃあ行こ」
たったそれだけ。
まるで、最初から答えは決まっていたみたいに。
結衣に掴まれていた私の腕を紫苑はするり外し、腕を自然に引かれる。
抵抗する余地もない、でも痛くない力。
「ちょ、紫苑」
「お昼、一緒に食べるよね」
「うん、それはそうだけど」
「ならいいじゃん」
即答。
そのやり取りを見ていた女子たちの顔が引きつる。
「ちょっと……何勝手に」
声がかぶる。
紫苑はようやくそちらを見る。
青い目が、淡々と相手を捉えた。
「勝手じゃないよ」
一拍。
「瑠奈は、僕と一緒に食べたいって」
それだけ言って、また瑠奈の方に視線を戻す。
まるで最初から、その話は終わっているみたいに。
「っ!待ちなさいよ!」
後ろで大きな声で怒鳴ってくる。
紫苑は足を止めない。
今も、昔も。
私の腕を引くのはシオンだ。




