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『東京封鎖・2160時間〜自給率0%のメガロポリスで1400万人が共喰いするまで〜』  作者: 月神世一


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EP 9

【裏社会の台頭】新たな支配者

港区、麻布十番。

かつては外車が列をなし、セレブリティたちが夜ごとグラスを傾けていた高級ラウンジの跡地。重厚なマホガニーのテーブルには、泥靴のまま足を投げ出した男が座っていた。

「……で? その紙切れが、俺たちを腹いっぱいにさせてくれるってのか?」

半グレ集団『バジリスク』のリーダー、恭平きょうへいは、手の中でくしゃくしゃになったA4用紙をヒラヒラと揺らした。

足元の絨毯には、鼻の骨を折られ、血まみれになったスーツ姿の男が這いつくばっている。大手ディベロッパーの中堅営業マンだ。彼は、上司(第三話の黒崎)が政府に情報を売って逃げた後、残された顧客データを印刷して「自分だけの取引材料」にしようと目論んでいた。

しかし、彼には政府や自衛隊とのコネがなかった。結果として、食料を探して街を徘徊していた恭平たちに捕まり、単なる「獲物」に成り下がったのだ。

「ほ、本当です……! そこに書いてある松濤しょうとうの住所には、IT企業の社長が地下シェルターを作って隠れてます! 1年分の食料があるはずなんです!」

命乞いをする営業マンの頭を、恭平は無造作に安全靴で踏みつけた。

「へえ。金持ちの豚どもが、地下でぬくぬく缶詰食ってるってわけだ」

恭平はニヤリと笑い、傍らに控えていた仲間たちを振り返った。

彼らの手には、ホームセンターから略奪してきたエンジンカッター、バール、そして大型のガスバーナーが握られている。警察のサイレンは、もう何日も聞いていない。交番の警官たちは暴徒に殺されたか、制服を脱いで逃げ出した後だ。

「おい、聞いたかお前ら。俺たちのディナーは、分厚いコンクリートの『缶詰』の中に入ってるらしいぞ」

「ヒャッハー! 缶切り(バーナー)の出番っすね、恭平さん!」

下品な笑い声が、蝋燭の火しか灯らない薄暗いラウンジに響く。

かつて、恭平たちは社会の底辺を這いずり回るゴミだった。学歴もなく、金もなく、タワマンの住人たちからは虫けらのように見下されていた。

だが、この封鎖された1400万人の檻の中では、ルールが完全に逆転した。

暴力チカラこそが、唯一の法なのだ。

「よし、野郎ども。準備しろ。松濤の『豚小屋』へ狩りに行くぞ。……あ、こいつはもう用済みだから、その辺の道端にでも捨てとけ。どうせ数日で飢え死にだ」

「ひっ……! 助けっ、約束が……!」

絶叫する営業マンが仲間たちに引きずられていくのを背に、恭平は奪い取った高級ウイスキーのボトルをラッパ飲みした。

アルコールが血の気をたぎらせる。飢えと暴力の支配する、狂った夜のパレードの始まりだ。

地下で震えている特権階級の豚どもを引きずり出し、泣き叫ぶ顔を見ながら、奴らの備蓄を食い尽くしてやる。

暗闇に沈む高級住宅街へと歩き出した暴徒たちの頭上。

無慈悲な赤い数字が、死神の目のように彼らを見下ろしていた。

【1826:00:12】

裏社会のケダモノたちが「新たな王」として街を闊歩し始めた。

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