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『東京封鎖・2160時間〜自給率0%のメガロポリスで1400万人が共喰いするまで〜』  作者: 月神世一


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EP 7

【新たな脅威】プロの略奪者たち

渋谷区松濤。IT社長の一家が息絶えた地下シェルターは、血と硝煙の匂いが充満していた。

「……マサさん。社長の家族の死体、空調室の裏に放り込んできました。でも、これじゃあ長持ちしませんぜ」

元傭兵の部下、ケンが防爆ドアのロックを確認しながら吐き捨てるように言った。

リーダーのマサ(45歳・元陸自特殊作戦群)は、暗闇の中でLEDランタンの明かりだけを頼りに、奪い取った備蓄リストのタブレットをスクロールしていた。

「分かってる。三人に減ったところで、根本的な解決にはならねえ」

マサは無機質な声で答えた。

「燃料の残量が絶望的だ。二酸化炭素のろ過機を回す電力が、あと十日分しか残ってない。水も200リットル弱……残り70日を凌ぐには圧倒的に足りねえんだよ」

彼らは社長を殺して「延命」したに過ぎない。この鉄の箱舟がやがて棺桶になるという事実は何も変わっていなかった。

生き残るためには、豊富な水源と、電力を必要としない安全な拠点(新たな要塞)を奪うしかない。

「日が沈んだら外に出る。装備をチェックしろ」

マサの命令に、二人の部下は音もなく頷いた。

彼らが手にしているのは、その辺の暴徒が振り回すバールや包丁ではない。海外のPMC(民間軍事会社)ルートから密輸され、IT社長が「護衛用」として彼らに買い与えていたホンモノの軍用火器だ。

89式5.56mm小銃(折曲銃床型)、暗視装置(NVG)、そしてタクティカルベスト。完全武装した三人のプロフェッショナルが、防爆ドアを開けて「外の地獄」へと這い出した。

***

深夜の新宿方面。

マサたち三人は、腐敗臭と蠅の羽音が支配する路地を、一切の足音を立てずにポイントマン(前衛)とカバー(後衛)の完璧な陣形を保って進んでいた。

途中で出くわした、餓えに狂った数人の暴徒が襲いかかってきたが、銃弾すら使わなかった。マサがコンバットナイフで瞬時に頸動脈を切り裂き、音もなく「処理」したからだ。

「……おい、あそこでネズミが震えてるぞ」

路地裏のゴミ捨て場。悪臭の中で、空のペットボトルを抱きしめてガタガタと震えている小柄な男がいた。第25話で生き残った半グレ集団の下っ端の一人だ。

マサは銃をスリング(負い紐)で背中に回し、男の首根っこを無造作に掴み上げた。

「ヒッ……!? 殺さないで! 水はない、水はねえんだ!!」

「騒ぐな。水をよこせとは言ってねえ」

マサは男の小指を逆関節に極めながら、氷のように冷たい声で囁いた。

「俺たちは『水が大量にある場所』を探している。この二週間、お前ら底辺のネズミどもが街を這いずり回って、一番『美味そうな匂い』がした場所はどこだ?」

「あ、アギッ……!! い、言う! 言うから指を……ッ!」

男は激痛に涙と鼻水を流しながら、狂ったように叫んだ。

「す、杉並だ……! 杉並の住宅街に、悪魔がいるんだよ!!」

「悪魔?」

「そうだ! 近づいた俺の仲間が、二十人、音もなく殺された!! 銃声はしなかった! なのに、入った奴から順番に消えていくんだ! あそこには絶対に、大量の水と食料を抱え込んだヤバい奴が潜んでる!!」

男の絶叫を聞き終えると、マサは男の小指をへし折り、ゴミの山へ放り投げた。

男は痛みに悲鳴を上げながら、這いつくばって逃げていった。

「……マサさん。どうします? ただの都市伝説じゃ……」

「いや、事実だろうな」

マサは暗視装置(NVG)を額に押し上げ、獰猛な、しかし極めて理知的な笑みを浮かべた。

「銃声がしなかったってのがミソだ。二十人の暴徒を無音で処理したってことは、ブービートラップと、弓か刃物を使ったCQB(近接戦闘)のプロがそこにいるってことだ。……素人の一般人じゃねえ」

マサの脳内で、瞬時に敵のプロファイリングが完了した。

敵は高度な軍事知識を持つサバイバー。しかも、そこまでして守り抜くほどの『莫大な物資(水)』を溜め込んでいる。

だが、所詮は「銃を持たない」条件での防衛戦だ。

「罠を張り巡らせた無音の処刑人か。……面白え。だが、こっちには小銃ライフルと暗視装置がある。アウトレンジから力で制圧すれば、どんなゲリラ戦術も意味を成さねえ」

マサは89式小銃のボルトを引き、薬室に初弾を送り込んだ。

チャキッ、という冷たい金属音が、死臭に満ちた夜の街に響く。

「行くぞ。次の俺たちの『家』は、杉並だ。その悪魔ごと、水も拠点も全部奪い取ってやる」

空の赤い数字が、強者同士の凄惨な殺し合いを告げるように輝いていた。

【1650:22:10】

(封鎖から約21日経過。残り68日)

本物の銃器と軍事戦術を持った「猟犬」たちが、杉並の悪魔の巣へと、その鼻先を向けた。

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