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『東京封鎖・2160時間〜自給率0%のメガロポリスで1400万人が共喰いするまで〜』  作者: 月神世一


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EP 4

【見えない狩人】罠と薙刀

「……ヒャッハー! 水だ! 俺のもんだぁ!」

鮫島の手下、カチコミ一番乗りの男は、暗闇の廊下の奥で、月明かりを浴びて輝く2リットルのペットボトルを発見し、狂喜の声を上げた。

彼は、数秒前に自分が玄関で鳴らした微かな鈴(鳴子)の音にも、床にばら撒かれたガラス片を靴底で踏み砕いている音にも、全く気づいていない。脳内は「水」への飢えだけで支配されていた。

男はバールを放り出し、獣のように四つん這いになって、ペットボトルへ向かって突進した。

——チッ。

男の胸元が、ペットボトルの手前に張られた、目視不可能な釣り糸を引いた。

その瞬間。

——ゴォッ!!

重力と、鴨居かもいに打ち込まれた釘の摩擦抵抗を計算し尽くされた二十キロの質量が、暗闇の天井から正確無比に落下した。

「……ぶ、」

ブラウン管の古いテレビが、駆け寄る男の後頭部と頸椎を、廊下の床へと叩きつけた。

人間の骨が粉砕される、ボキッ、という鈍い音が響き、男の体は痙攣することもなく、その場に平伏したまま動かなくなった。

ペットボトルは落下したテレビの衝撃で弾け飛び、貴重な水が、砕けた脳漿と血液と共に床に広がっていく。

これが、優太の作り上げた『即席・重力ギロチン』の威力だった。

***

「……おい、今の音はなんだ?」

「おい! 答えろ!!」

外の路上で待機していた鮫島が、家の中から聞こえた鈍い衝撃音と、ピタリと止まった手下の声に、不審な表情を浮かべた。

「一般人がバールの一撃でくたばった音」にしては、何かがおかしかった。

「……鮫島さん、やっぱりこの区画、ヤバいっすよ。逃げた方が……」

「うるせえ! 豚が抵抗しただけだ! おい、お前と、お前! 二人で中を見てこい! 舐めた真似した奴は、生きたまま皮を剥いでやる!」

鮫島は、恐怖に怯え始めた手下二人を、強引に玄関へと押し込んだ。

鮫島自身は、バットを握り直し、少しだけ後ずさる。彼は生き残るための本能(臆病さ)だけで、この二週間を生き抜いてきた男だ。

***

家の中に注意が向いている鮫島たちの背後。

月明かりすら届かない隣家の塀の影から、音もなく、漆黒の防護服(ゴミ袋)を纏った死神が這い出した。

優太だ。彼は第19話での死体処理と同様、返り血を浴びないためのゴミ袋とゴーグルを着用し、自宅の偽装窓から抜け出して、鮫島たちの背後へと回り込んでいた。

その手には、ハードケースから取り出し、組み立てを終えた『薙刀』が握られている。

(……まずは、外の『外縁』から削る)

優太は、SEALsの教官から叩き込まれたCQB(近接戦闘)の原則『不意打ち(サプライズ)』を、寸分の狂いもなく実行に移した。

彼は呼吸を極限まで薄くし、猫のように気配を殺して、鮫島から最も離れた位置にいた手下の真後ろへ接近した。

男が何か異変を感じて振り返ろうとした、その瞬間。

——ヒュッ。

優太の薙刀の刃は、男の首筋、第四頸椎の隙間を、正確無比に貫通していた。

延髄を破壊された男は、悲鳴を上げることも、崩れ落ちる音を立てることも許されず、優太に抱きかかえられるようにして、静かに地面へと横たえられた。

これで、残り十九人。

優太は、血を一滴も浴びていない薙刀を引くと、次の標的へと視線を向けた。

ゴーグルの奥の瞳は、まるでカルテを見るかのように冷徹で、そこに人間に対する感情は、一片も存在しなかった。

空の赤い数字が、愚かな獣たちの命をカウントダウンしていく。

【1780:10:05】

(封鎖から約15日と20時間。残りわずか)

知略によるトラップと、軍隊式の暗殺戦術。

この二つの牙に挟まれた略奪団は、自分たちが、この地獄で最も凶暴な『鬼』の巣に入り込んだことを、死の直前に理解することになる。

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