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『東京封鎖・2160時間〜自給率0%のメガロポリスで1400万人が共喰いするまで〜』  作者: 月神世一


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EP 2

【獣たちの夜】略奪組織の襲来

封鎖から十五日目(360時間)の深夜。

杉並区の幹線道路を、異様な熱気と暴力の匂いを纏った集団が歩いていた。

「おい、水だ! どこかに水はねえのか!」

「うるせえ、黙って歩け。足手まといは置いていくぞ」

総勢二十名を超えるその集団は、半グレ集団のリーダーである鮫島さめじまに統率された、正真正銘の『武装略奪団』だった。

手には血に染まったバール、金属バット、そしてどこかの交番から奪ったであろう警棒。彼らはこの二週間、生き残るためにマンションや民家を次々と襲撃し、抵抗する者を殴り殺し、泣き叫ぶ女子供から最後のペットボトルを奪い取ることで命を繋いできた。

だが、どれほど他者から奪おうとも、1400万人が密集するこの隔離都市で「水」は常に枯渇していた。

鮫島自身もひび割れた唇を舐め、苛立ちを隠せないでいた。略奪できる弱者はすでに死に絶え、街に転がっているのは腐敗して膨れ上がった死体と、それに群がるハエの黒い渦だけだ。

「……鮫島さん、この辺り、ちょっと変っすよ」

集団の先頭を歩いていた手下の一人が、鼻をひくつかせて足を止めた。

鮫島も周囲を見渡す。確かに、異常だった。

数ブロック先までは吐き気を催すような濃密な死臭が立ち込めていたのに、この住宅街の一角(半径50メートルほどの区画)だけ、異様に空気が澄んでいるのだ。

路上にはゴミ一つなく、死体も転がっていない。まるで、何者かが「掃除」でもしたかのような、不自然なほどの静寂が支配していた。

「……誰かが、この一帯をテリトリーにしてやがるな」

鮫島は獰猛な笑みを浮かべた。

死体がないということは、生きている人間が、衛生管理をするだけの『余裕』を持って隠れ住んでいるという証拠だ。つまり、ここには確実に大量の「水と食料」がある。

「おい、お前ら。当たりだぞ。この区画の家を片っ端から潰せ。一軒残らずだ。水を持ってる豚どもを引きずり出して、全部奪い尽くしてやる」

鮫島の号令に、飢えと渇きで血走った目をした二十人の獣たちが、歓喜の奇声を上げた。

「ヒャッハー! 久々のマトモな獲物だぜ!」

「水だ! 水とメシを出せぇ!」

彼らは完全に油断していた。

自分たちが圧倒的な暴力の側であり、隠れ住んでいる素人の一般人など、ドアを破れば簡単に蹂躙できると信じて疑わなかったのだ。

手下の一人が、最も手前にあった二階建ての民家——優太が前日に『キルハウス』へと改造した空き家——の玄関に近づき、無造作にドアノブに手をかけた。

鍵は開いている。

「おらぁっ! いるのは分かってんだよ!」

手下はバールを構え、土足のまま暗闇の玄関へと乱暴に踏み込んだ。

——チリンッ。

その瞬間、男の足首がピンと張られた釣り糸に触れ、ブロック塀の裏側に仕掛けられていた空き缶の『鳴子』が、闇夜に微かな金属音を響かせた。

暴徒たちは自分たちの立てる騒音のせいで、その小さな警告音に全く気づいていない。

だが、その音は、数十メートル離れた中村家の二階で、弓を抱えて暗闇に潜んでいた由恵の耳には、はっきりと届いていた。

「……あなた。お客様ネズミが来たわ。数は……十以上」

「ああ。分かってる」

寝室の隣、完全な暗闇の中でカーボン製の薙刀を構えた優太は、氷のような声で短く答えた。

ゴーグルの奥の瞳には、一切の感情がない。ただ、娘の眠りを脅かす害虫を駆除するための、完璧で冷酷な殺意だけが研ぎ澄まされていた。

「まずは、隣の『処刑場』で半分減らす。俺が行くまで、香を頼む」

空の赤い数字が、愚かな獣たちの命を数え終えようとしていた。

【1780:12:44】

(封鎖から約15日と20時間)

地獄の略奪団は、自分たちが『捕食者』ではなく、すでに蜘蛛の巣に絡め取られた『獲物』であることに気づかないまま、死の罠へと足を踏み入れた。

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