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『東京封鎖・2160時間〜自給率0%のメガロポリスで1400万人が共喰いするまで〜』  作者: 月神世一


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EP 6

【裏切りと渇き】インフラの完全停止

封鎖から5日が経過した。

杉並区、中村家の隣に建つ佐藤家のリビングは、耐え難い悪臭と淀んだ熱気に包まれていた。

「……う、あ……ぁ……」

生後六ヶ月の赤ん坊の泣き声は、すでに「泣き声」の体をなしていなかった。

掠れた呼吸音だけが微かに漏れ、目尻からは涙一滴すら流れていない。極度の脱水症状により、体内の水分が完全に枯渇し始めている証拠だった。

「ごめんね……ごめんね……っ。おっぱい、出ないの……っ」

母親である佐藤の妻は、干からびた胸に赤ん坊を抱き寄せながら、声にならない声で泣き崩れていた。彼女自身の目も落ち窪み、唇はひび割れて血が滲んでいる。

三日前、彼らは政府の「数日で解除される」というドローン放送を信じ、残っていた最後のペットボトルの水を使って、塩分たっぷりのカップ麺を食べてしまった。

一時的な満腹感の代償は、想像を絶する地獄だった。

猛烈な喉の渇きが襲ってきた時には、もう蛇口からは一滴の水も出なかった。

トイレは数回使っただけで汚物が逆流し、流す水もないため、家中に糞尿の臭いが充満している。窓を開ければ暴徒に入られるという恐怖から、密閉された室内はサウナのように蒸し暑く、彼らの体力をさらに削り取っていった。

「……くそっ、くそぉっ!! なんでだ! なんで助けが来ないんだよ!!」

家長の佐藤健二さとう けんじは、狂ったようにキッチンの蛇口を何度もひねり、バンバンとシンクを殴りつけていた。

床には、三日前に食べた空のカップ麺の容器が虚しく転がっている。あの時、残りの水をとっておけば。赤ん坊のミルク用だけでも残しておけば。後悔が泥のように頭の中を渦巻いていた。

その時、外から再びあの不気味なプロペラ音が聞こえてきた。

『……都民の皆様、冷静に行動してください。現在、自衛隊および米軍の協力により、物理フィールドの解除作業が最終段階に……』

三日前と、一言一句違わぬ合成音声。

健二はふらつく足でベランダに出ると、空を飛ぶ無人ドローンを見上げた。

「……嘘だ」

健二の乾ききった喉から、絶望の言葉が漏れた。

状況は何も進展していない。あれはただ録音された音声を、一定時間ごとに垂れ流しているだけの「自動音声」だ。政府は最初から助ける気などなく、自分たちをここに釘付けにして、勝手に干からびるのを待っているだけなのだ。

国家という巨大なシステムに完全に裏切られ、見捨てられた。

その事実を理解した瞬間、健二の膝から力が抜け、ベランダの床にへたり込んだ。

「あなた……お願い、なんとかして……! この子、死んじゃう……っ!」

妻の悲痛な叫びが、健二の背中に突き刺さる。

水だ。水を見つけなければならない。公園の池でも、泥水でもなんでもいい。

しかし、外からは時折、窓ガラスが割れる音や、人間の獣のような悲鳴が聞こえてくる。水を探しに出た近所の人間たちが、すでに「奪い合い」を始めているのだ。

健二は血走った目で、隣の家——中村家を見た。

一階の窓ガラスは割られ、中にはゴミが散乱している。「すでに略奪された空き家」に見える。しかし、健二は封鎖の直前、隣の奥さん(由恵)が大量の荷物を乗せた台車を引いて帰ってくるのを見たような記憶が、ぼんやりと頭の片隅にあった。

(……もしかしたら。あの外科医の家なら、まだ……)

理性が、飢えと渇きによって完全に焼き切れた瞬間だった。

健二はふらふらと立ち上がると、玄関からバールを握りしめ、外へと通じるドアノブに手をかけた。

隣の家を覗き見ている無慈悲な赤い数字は、彼らの命のタイムリミットを正確に削り取っていた。

【2040:15:33】

(封鎖から5日経過)

国家の嘘に殺されかけた小市民は、生き延びるため、ついに隣人という「鬼」の住処へ足を踏み入れようとしていた。

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