第二十九章 アジテーションラブ
「こんばんは。プミラ。」
深夜、静かな室内に扉をノックする音と感情ののらない淡々としたミコの声が響いた。
あたしは自分の手元にあった紙とペンをひきだしにしまい、急に心拍数の上がった心臓をどうにかなだめながら静かにドアをあける。
「……こんばんは、ミコ。…こんな深夜にどうしたの?」
ミコが部屋に訪ねてくることはよくある…というよりほぼ毎日あるが、こんな遅い時間に訪ねてくるのは珍しい。
ミコはうつむきながらゆっくりと口を開いた。
「…こわいの。」
「……なにが?」
夜が怖いのか?でも、そんな話聞いたことないし…。
「プミラが…いなくなっちゃいそうで。」
落ち着きかけていた心臓が再び痛いぐらいに脈を刻み始める。
「…なんで、そんなこと思うの?」
「わからない。でも…なぜかこわい。プミラのことを信用してないわけじゃない。でも、こわい。」
その言葉を聞いてまた心臓の痛みが増す。
「…そっか。」
「…ごめんなさい、プミラ。」
…謝らなくちゃならないのは、きっとあたしだ。
「…不安だったら、今日は一緒に寝るか?」
「え…?」
「そうすれば、あたしがいなくなる心配も少しはへるだろ。」
「…うん…。だ、だけど…。」
「だけど?」
ミコは目をただただきょろきょろさせている。
「……本当にいいの?」
「いいよ。」
べつにミコは友人兼子供みたいなものだし。子供に添い寝することはべつにおかしなことじゃないだろう。それにウィンクルとかルナといるときなんていつも三人で一緒に寝てたし。
「…ベット、ひとつしかないよ?」
「同じベットで寝るのが嫌だったら、あたしがソファか床でねるけど。」
「……ううん。いやじゃないよ。」
「じゃ、一緒に寝ようか。」
ベットのほうを親指でさすと、ミコの目もそちらに向けられた。そして、なぜか顔を曇らせた。
「…寝てなかったの?」
どうやら、ベットが少しも乱れていないことに気付いたらしい。
「……ああ。」
「……なに、してたの?」
「…べつに?月をながめながら自分の将来のことについて考えてたんだよ。」
……嘘は、いってないはずだ。
「……どこかに、行こうって。ここから、いなくなろうって…そう思ってるの?」
「…さぁね。」
今日のミコはやけにするどい。そして、やけに探ってくる。
「プミラは…ずるい。僕にいろんなことに立ち向かわせておきながら、君は僕から逃げてる。」
「…そんなことはない。」
あたしは誰よりもミコに真摯にむかいあってきた。
「うそつき。今だって僕のことばから逃げてる。」
「それは…
「それに…僕の想いからも逃げてる。」
「…想い?」
なんのことだ?
「僕は、プミラのことが大好きだって…そう伝えてるのに…プミラはいつも答えを濁す。」
……。
「…ミコは、勘違いをしているんだ。親への愛のようなものを、あたしに抱いているだけで…
「…勘違いなんかじゃない。プミラを親だなんて思ったことなんかない。プミラを一人の人間として…愛してる。」
好き、ではなく愛しているといはれたのははじめてで、いままでのようには誤魔化すことのできないなんともいえないその言葉の重みに思わずたじろぐ。
「この想いは本物で、たしかに僕のなかにあるものだ。それを勝手に勘違いだってプミラが決めつけて、拒否すらせず放置するなんて…逃げてるのと変わらない。」
いつのまにか壁際においこまれていた。ここから抜け出すことは簡単だ。ミコを蹴るなりなんなりすれば、きっとすぐ抜け出せる。
でも、ミコの目が、あたしの心が、今は絶対に目をそらすなと叫んでいる。
「……逃げないで、プミラ。」
ミコは私の瞼の上に唇を落とした。
「………。」
こんなミコしらない。こんなことをミコはしない。いつのまにミコは変わってしまった。
いや、あたしが変えたのかもしれない。
「お願いだから、逃げないで。僕の想いに応えて。」
そういうと、ミコはあたしからすっと離れて扉のまえまで移動した。
「…今日は、一緒に寝なくてもいい。答えは明日の夜聞かせて。」
ミコはあたしの方を見もせずに部屋から出て行った。
「………。」
……あたしは、ミコの想いには応えられない。ミコのことは…大好きだ。だが、愛してるかと言われれば…答えは…わからない。
…それに、明日はアイツらが迎えにくる。あたしはここにいるわけにはいかないのだ。あたしにはやらなくちゃいけないことがある。だから、どうやってもあたしはミコの想いには応えられない。
…そうだ、
どうせだったら、完全に諦めさせよう。あたしへの愛や優しい感情を完膚なきまで叩きのめそう。そうすれば、きっとあたしのことを思い出すこともなくなる。
前回の投稿からだいぶ日にちが開いてしまい申し訳ありません。
そろそろ最終回です。




