第三十章 嘘つきのキス
五年前の約束通り、ウィンクルとルナはやってきた。これから、あたしたちはモチノキに行く。そこで、小さな学校をつくるつもりだ。そこで、その教えた子供たちが人にものを教えられるようになったらその子供たちにその学校はまかせて他の国に行く。それを繰り返していつかは…。
…気が遠くなりそうなほど時間のかかる話だが、誰かがやらなきゃいけない。誰かがはじめなくてはいけないことなのだ。そして、あたしがこの五年間夢見てきたことなのだ。
「…本気でいってるのか?」
これがこれからそんなことをやろうとしているやつのセリフか。…これからやることに比べれば今から一芝居うつことなんてどうってことないだろう。
「……別にもういいでしょ。一回やってるし。」
「そういう話か!!?」
「そういう話なの。…頼むよ。」
「でもなぁ…。」
「……前回のことチャラにしてあげるからさ。」
「なっ…!!?」
「…やらなかったら許さないからね。」
ここでコンコンと扉を叩く音が室内に響いた。
「プミラ、こんばんは。」
予想通りミコがきた。ミコとは昨日の夜から一回もあっていない。
「…ウィンクル。」
「えー………。」
ウィンクルがあたしの腰に腕を回し、顎を持ち上げる。
「……プミラ?」
ガチャリと返事がないことを訝しんだらしいミコが扉を開く音が部屋に響く。
「…やれ。」
「………。」
ウィンクルはその唇をあたしのそれに重ねた。
「…プミラ?」
その言葉が終わるとともに、ウィンクルから唇を離す。
「……あれ、ミコ?」
「…なにしてるの?」
「ウィンクルとキス。」
ミコの目つきが鋭くなった。
まぁ、こういわれたら誰しもイラっとくるよな。「そんなこととわかっとるわ!!!」って。
「…離れて。」
「やだ。」
「なんで?」
「あたしね、ウィンルが好きなの。…だから、ごめんね?あんたの想いにはぜんっぜん応えられない。つーか、あんたと付き合うなんて選択肢にもはいってない。」
「悪いな、無の神子。どうやら、プミラは俺みたいな色男がお好みらしい。」
ウィンクルのナルシストな言葉にイラっとしながらも言葉を続ける。
「ごめんね?あたし、こいつと愛の逃避行をするの。じゃあね。」
じゃあね、を言い終わるか終わらないかのところであたしはウィンクルの腕をひっぱりながらベランダから飛び降りた。
「プミラ!!!!!」
あたしたちはポフンとふかふかしたもの…ルナの上に着地した。ルナは精霊体になっており、めちゃくちゃでかいウサギ(をちょっとというか結構変えたもの)になっている。
「…ルナ、行くよ。」
【ハイハイ。ジャ、行クヨ】
ルナはふわっと飛び上がった。
「プミラ!!!!!」
ミコの声につられて下をみると、ミコはバルコニーから悲痛ながらもどこか鋭く怒りのような感情を込めた視線をあたしにむけていた。その視線からは裏切者、嘘つき、というあたしを非難する声が聞こえてくるようで思わずすぐにそらしてしまった。
「神よ…
まずい。
「ウィンクル!」
「あいよ!」
近くにそれなりに力のある精霊がいるといいんだけど…。
「精霊!おろすぞ!!」
ミコの言葉に比べてなんとなく軽い感じのするウィンクルの言葉に一瞬不安がよぎるも、こいつの能力は確かなので一応信じる。
「…光と風の神よ。僕の体に。」
ん!?なんか知らないバージョンだ!!!体に!?どういうことだ!!?
「火の精霊…でいいか…誰かいないかー!!」
…やっぱりウィンクルのほうはなんか気が抜けるな…。
「『この子たちを喰べればいいのかい?…え、違う?あー叩き落せばいいんだね。わかったよ、無の神子』」
ミコの体がふわりと浮き、あたしたちの前に立ち塞がった。
…ミコは確かに動いているし、話している。だが、これはミコではない。金色と銀色に染まった瞳孔のない瞳、薄い金色になった髪、普段のミコとは全く違う声、雰囲気、話し方…それらがすべてを物語っていた。
「【なんですのこれ!?】…すまん!俺に力を貸してくれ!!」
あたしの前に座っていたウィンクルが二重人格のようにまったく同じ声のまったく違うトーンで、自問自答している。
いや、二重人格とかじゃなくて普通に精霊をおろしてるんだろうけど、ミコに比べると外見的な変化が少ないのでパッと見やっぱり二重人格か一人二役やっているように見える。変化といえば、髪のなかの白い部分がルビー色に染まっている程度なので、正直「あれ?なんかピンクの髪の部分増えた?」程度にしかならない。
「『あれぇ~?精霊の臭いがするなぁ…。うん、ちゃんと潰さないとね。』」
「【なっ!!?黒鳥!!!!】」
「『…ふーん、紅玉か。ほかのやつの気配もするけど、まずはこっちをつぶそう。』」
ミコ側の人はどうやら、黒鳥?というらしい。ゆったりとした話し方は到底相手に威圧感を与えるようなものではないはずなのだが、なぜかとんでもない圧を感じる。というか、怖い。
対して、ウィンクル側の人は紅玉?…は高飛車そうな話し方に反してどこかヘタレ感を感じる。…というか、なんかこの話し方と雰囲気の人…知ってるような気がするな…。
「【たまたまこちらに戻ってきただけですのに…散々ですわ!】」
「『あははは。』」
文句いったり、笑ったりと対極的な二人だが、どちらもお互いを睨みあっていることは変わらない。
「『ほら、あの兎を叩き落さなきゃ。』」
突然強い風が吹いた。そして、その風はあたしたちを下へ下へと落とそうとする。
「ちょっと力をしばらく借りるぞ!!【はいはい、わかってますわ】」
ウィンクルはミコに向けて手を伸ばすと、横にスッとスライドさせた。それと同時に、ミコの頭のすぐ上に炎が横一文字に出現した。
「『あっち!!』」
どうやら、風によって炎を自分の頭に向けてしまったらしい。…ああ、熱そう…。
ミコとミコの中の神とやらには申し訳ないが、これによって風が収まった。
「今のうちだ!!ルナ!!」
【オッケー】
ルナはふわりと浮き上がり、空をかけていく。おそらく、ミコはついてきていない。否、この速さに追いつくのは不可能だろう。
「【…あなたは精霊ですの?】」
【ウン】
「【生き残り…ですのね】」
【ソウダネ。…アナタハ四大精霊?】
「【ええ。そうですわ。四大精霊が一人、ルビーです】
【ヤッパリ】
「【…こんなところで精霊に会えるだなんて…。ああ、ですがもう時間がありませんわ。語らいは今度にして、また会いましょう】」
【ウン】
ルナのその言葉が終わるか終わらないかのうちに、ルビー(?)の気配はすっとウィンクルから消えた。
「…え、今の四大精霊だったのか?」
【ソウダヨ】
「え、なんでいるんだよ。」
【サァ?】
「……まぁ、いっか。」
…それにしても、ミコは大丈夫なのだろうか…。神に力を借りればきっとすぐに傷も治るのだろうが…。
「なぁ、プミラ…本当にこれでよかったのか?」
「なにが?」
「こんな別れ方で…本当によかったのか?」
「…よかったんだよ。」
これが…一番だ。ミコの想いを跡形もなく消し去り、むしろ憎しみすら抱かせるこのやり方…これが一番ミコを傷つけずにすむ方法だった。今はたしかに傷ついているかもしれない。でも、その傷はきっとすぐに憎しみに代わるだろう。そして、人間はそう長く憎しみを継続できない。だからきっと…一年もすればあたしのことも忘れる。
「…プミラは気づいてないかもしれないけどさ、これ、俺たちがやったのと同じやり方だぜ?」
「………。」
「……なぁ、
「ルナ!スピードをあげろ!!!」
【コレガ限界ダヨ】
「……プミラ…。」
…これで、いいんだ。あたしは間違ってない。
あと二話で完結です!




