第二十三章 初めての魚の名前のアレ
「…まずは、部屋に入ろう。」
ウィンクルに促されてルナと部屋に入る。ルナは部屋に入った瞬間、また少年の姿に戻った。
ポスンとふわふわのソファに座ると、ウィンクルがなにか言いたげな顔でこちらを見ていることに気が付いた。
「…なに?」
「…本当にすまない!!」
「あ?」
「…き、き、き…き、えっと…接ぷ…魚の名前のあれをしてしまって!!!」
キスってことか?
「プミラのことだろうから初めてだったんだろ!!?プミラは悲しいぐらいにモテないからな!!!えっと…その…初めての魚の名前のあれを奪ってしまって…本当に申し訳ない!!」
な、な、な、な…!!!
「ば、バカにすんな!!!あたしにだって、キスした経験ぐらい…
「え、あるの?」
「…ある!!!ウィンクルとした!!!」
「だからそれを謝ってるんだよ!!!」
そ、そうだった。モテないとかなんとか酷い言葉を浴びせられて冷静さを失っていた。
「…まぁ、それに関してはあたしの数多の経験のなかの一つとしてなかったことにはしないが、許してはやろう。」
「え、キスはじめてだったんだよね?」
「…未来に色んなやつとする!!!」
「人口呼吸とか?」
ルナめ…どこまでもあたしを馬鹿にしやがって…。
「あと…手紙に…かいたことも…ごめん。」
「僕も…ごめん。」
……。
「…置いていったことは謝らないわけ?」
「…それは、謝らない。」
「悪いことをしたとは思ってないから。」
ふぅん。
「あたしは、傷ついたよ。」
「プミラの未来にとっては一番いい選択だった。」
「…いつか、あれでよかったって思う日がくるよ。必ず。はやく…僕たちのことなんか忘れちゃいなよ。」
「置いていくことが、プミラの夢を叶えるためにも、俺たちが死んだりしたときのことを考えたときにも最善の方法だった。」
「教師、なりたいって思ったんでしょ。」
「…まぁね。」
……
「…あんたたちの気もちや優しさはよーくわかった。だから、置いていったことはもう責めない。謝らなくてもいい。…実際、感謝してるところもあるから。」
ミコやヒメユリちゃんに出会えたこと、学ぶ機会を与えられたこと、夢への一歩を踏み出せたこと、生きる目的を見つけられたこと…。
「でも、
だけどね…
「どうしてお前たちは自分たちのことをそんな犠牲にするんだ!!!絶対にそれだけは納得できない!!あげく、自分たちのことはさっさと忘れてしまえだなんて自己犠牲の典型みたいなこといいやがって!!!」
あたしは、これ以上誰も踏み台にしたくなかったのに!
あたしによって不幸にする人間なんかつくりたくなかったのに!!!
「…俺たちはプミラの犠牲になったなんて思ってない。」
「戻りたくなかった実家に戻ったり、ペットとしての生活をしたり…どこが犠牲になってないっていうんだ!!!」
「僕たちはあくまで僕たちの夢を叶えてるからね。」
「はぁ!!?」
なんだ!?ウィンクルはやっぱり金持ちの暮らしがしたくて、ルナはドMだったってのか!!?
「俺たちの夢はプミラが夢をかなえること。それだけだよ。」
「…はぁ!!!?それこそ自己犠牲じゃないか!!!」
「もともと僕たちには夢なんてないからね。」
「だったら、仲間の夢を叶えてやりたいって思うのは当然の話だろう?」
……。
「おまえら…本当の馬鹿だよ…。」
「馬鹿じゃなかったらそもそも実家から出てかないよ。」
「馬鹿じゃなかったら精霊がペットになろうだなんて思わないよ。」
…精霊。
ずっと気になっていたことがある。でも、それを聞くのはあとででいい。まずはあたしの過去を清算しなくては。
「…まずは、殺そうとしてごめん。ウィンクル。」
「死ななかったから…まぁ、いいよ。ラーメン一杯でゆるす。」
「そこらへんの店で奢ってもらうより、ウィンクルの家のシェフにつくってもらったほうがおいしいでしょ。」
「え、ウィンクルの家の飯おいしいの?」
「めっちゃおいしい。」
「ルナの飯って生野菜だけじゃないの?」
「違う!僕の食事はウサギ用以外も用意されてる!!」
そうだったのか。
「…あとは、あたしのために…二人に苦しい思いをさせて、
「だから、いいっていってるでしょ。」
「…それでも、言わないと気が、
「だったら、ありがとうって言ってくれた方がいいよ。」
…わからない。あたしは馬鹿だから、なにが正しいのか…
「…ごめん。
「だから、
「そして、ありがとう。」
わからないんだったら、自分が思った通りにするしかない。
「本当に…ありがとう。」
「…俺たちのことなんか、気にしなくていいんだぜ。」
「君は僕たちに捨てられたんだからね。」
……。
「あと…五年間。よろしくお願いします。死ぬ気で勉強して、二人に絶対報いる。」
「…五年たったらまた三人で世界を放浪しようぜ。」
「…プミラは教師になりたいんだよ?」
「そうじゃなくて…なんつーのかな。国なんか関係なく、移動教室…いや、これだと意味が違うな。…とりあえず、世界中の貧困国を回りながら勉強を教えてまわるってのはどうだろう。」
「それいいかも。僕も賛成!」
「だろ!!?俺もルナもそれなりに勉強はできる。だから、俺たち三人でいろんな国に勉強を教えて回ろうぜ。」
それは…
「…あたしも、大賛成。でも、最初の国はモチノキだよ。わかってるね?」
「わーかってるって!」
それから、一時間近くあたしたちは将来について語り合った。
「…あ、そろそろ帰ったほうがいいんじゃない?」
「あ、本当だ。」
「じゃあ、
…そうだ。忘れるところだった。
「…ルナ。」
「なに?」
「…ルナは、本当に精霊なの?」
「うん。」
「色んな悪事を働いて、最終的に神に滅ぼされた…あの精霊なの?」
ルナが精霊だと名乗っていることやウィンクルの体にまとわりついていてよく手を貸してくれる存在が精霊だといわれても、むかしのあたしはなんら疑問に思わなかった。だって、精霊が悪だとか滅ぼされたとか誰からも教えてもらってないし。
「…それは違う。」
なぜかウィンクルが答えた。
「…どっちも違う。精霊は殺されたやつもいるけど、だいたいは封印されてる。それに精霊はそんな悪いやつらじゃない。」
「…もちろん悪いことやったやつもいるだろうけど、全員がそういうやつだったわけじゃないし、総合的に見ればむしろ人間や神よりも善良な存在だった…って僕は思ってる。」
「…じゃあ、なんで滅ぼされたの?」
「…神にとって都合が悪かった。それだけ。」
…ルナはせこいしずる賢い。でも、大事なときに嘘はつかない。だからきっとこれは本当のことなのだろう。学園や神殿の図書館の本にかかれていたことや授業でならったことはきっと…なにものかによってゆがめられたものだったのだろう。
「でも、なぜルナは残っているの?」
精霊は、四大精霊以外は滅ぼされたのではなかったか?
「…もしかしてルナは四大精れ、
「違うよ!!んなわけないじゃん!!」
…まぁ、そっか。
「…僕は精霊が封印されまくってるときに、普通のウサギの姿から戻れなかったの。月もでないし、女の人もいないし。それで力もからっぽだったから精霊だって気づかれなかった。僕は…みんなが戦ってるなかでなにもせずただ隠れてたまたま生き残ったの。…よくウィンクルのそばにいるやつは精霊の幽霊。運悪く戦争がはじまってすぐに殺されたやつら。他のやつは絶対に出れないように半分幽霊みたいな状態で封印されてる。」
なるほど…。あれ、でもなぜ最初の精霊以外は…
「…なぜ殺さず封印したの?」
「戦争がはじまってからしばらくして、勝てない戦だってことに気づいた四大精霊は力の大半を使ってみんなを守る強力な呪いをかけた。神さえもやぶれないような。それで、どうにも神は精霊を殺すことができなくなった。だから、神は一人の人間の魂にほぼすべての精霊を絶対出れないように封印した。」
じゃあ、世界のどこかにほぼ全ての精霊を体のなかにおさめてる人がいるってことか…。
「その人間、ウィンクルだったりしてね。」
「たしかにウィンクルは精霊に愛される性質だし、おろして力を使えるけどそれはない。」
…そいつを探す手伝いをしてやりたいが、あまりルナは踏み込んでほしくなさそうだし、国どころか今じゃ部屋からも出れないあたしがなんの役にたつというのか。あまり踏み込むのはやめよう。
「…じゃあ、今度こそ本当に帰るよ。」
「うん。」
「ばいばい。」
…しばらく、お別れか。
「…五年後、待ってるよ。あたしのこと、ちゃんと迎えにきてね。」
「おう!!」
「そっちこそ、忘れないでよ。」
…忘れるわけないよ。絶対に。
「…プミラ、そこにいるの?」
…この声は。
ウィンクルは普通の精霊だけでなく、幽霊となった精霊も体におろして力を借りることができます。プミラがいっていたウィンクルの能力以外の力というのはこれです。
幽霊となった精霊はウィンクルやルナ以外には普段は見えませんが、ウィンクルが近くにいると少しでも精霊の力を持つ人間は見えるようになります。
精霊に死という概念はほぼ存在しませんが、神によってのみ力や存在が人間やその他のものに認識されない幽霊という存在に追い込むことができます。また、精霊によってのみ神も幽霊にされます。




