第二十ニ章 アルカロイドは電気娘の夢を見るか?
「はぁ…。」
今になって気づいたが、ウィンクルの部屋がどこなのか知らない。おそらく、貸し部屋のどこかであることは想像できるが…。
「…どうすっかな…。」
実は今回、あたしはウィンクルを殺すつもりはない。それは、あたしを思ってくれるミコやヒメユリちゃんという存在、そしてあたしの夢のためだ。これ以上あいつらにあたしの人生をめちゃくちゃにされたくない。
…なんて、もっともらしいことを言ってみるが…まぁ、本当のところあたしは最初からあいつを殺すつもりはなかったのだろう。…ヒメユリちゃんの言う通り、あたしはまだあいつらのことが大好きなのだ。部屋の中で色々考えているうちに気づいた。なにをされても、あいつらのことを心の底からは嫌いになれない。
だから…ただ、話したいのだ。あたしの、何が悪かったのか。今は、どんな暮らしをしているのか。ルナはどうしているのか。なぜ、自分の生まれのことを隠していたのか。なぜ、盗賊になったのか。
* * * *
「はーぁ…。」
貸し部屋のバルコニーに面している庭を歩いていると、大きなため息が聞こえてきた。
「どうしたの?」
「殺されかけたんだからメギに戻ってこいってお母さまが…。」
「あー…。」
「でも、俺の悩みはこれだけじゃない…。」
「なにさ?」
「なにさもほいさもないよぉ!ルナもわかるだろぉ!」
聞きなれた声と聞きなれた名前に思わず足を止める。
「俺、プミラに殺されそうになったんだぜ?」
「そうだね。」
「き、き、き、キスもしちゃってさぁ!!!絶対怒ってるって!!」
「そりゃ怒る。」
「だって、近くに陰神子さまいたし精霊なんか使ったらすぐばれるだろ!!腕力で勝てるわけもないし!!兵士は使い物になんないし!!」
「たしかにあれしかなかったね。」
「プミラが幸せになれる方法も、あれしかなかったのかな…」
………。
「…でも、プミラはここにいた方が絶対に幸せになれる。」
「それは間違いないな。」
「それに、ああでも書かなきゃプミラは死ぬ気で僕たちのこと追いかけてきそうだし。」
「結局追われてるけどな。主に俺。」
「…こんなことになるんだったら、わざわざ傷つけるようなこと書かなきゃよかたね。」
「本当に。」
本当に、本当に…
「…馬鹿だよなぁ。俺たち。」
「一番の馬鹿はお前だよ。」
「なんだとっ!?」
「嫌で嫌で必死に逃げ出した実家にプミラの学費のためわざわざ戻るなんてさ。」
「…本当は自分の力で稼ぎたかったよ。家になんか戻りたくなかった。でもさ、まとまったお金なんてそうそう手に入らないし…。それに俺とお前だけじゃあ、盗賊できないし。」
……。
「…ルナも、ごめんな。」
「なにが?」
「ペットなんて…苦痛だろ?」
「べっつにー。ふっかふかの布団で寝れるだけで大満足だよ。」
「…ごめんな。」
「…他に一緒にいられる方法がなかったんだからしょうがない。」
「お前だけでもプミラのところにおいてくれば…
「僕がそばにいたら、盗賊になろうってまた思っちゃうかもでしょ。僕とプミラが力を合わせればそれなりに盗みもできるし。」
「俺がいらないみたいにいうなぁ!!」
「実際にいらないもん。」
「このぉーっ!!!!」
べしっ、やら、ばしっ、やらちょっと間抜けな喧嘩のような音が何秒か続いたあと、突然静かになった。
「…プミラと、昔みたいにまた話したいなぁ。」
「…うん…。」
月が一段と輝き、庭にうつる二つの影の闇を深くする。
「…話したいんだったら、話してやるよ。」
庭にぶっきらぼうなあたしの声が響く。
「「プミラ!!!?」」
四つの瞳がこちらを見つめた。
「な、なんの用だ貴様!!」
「だ、だれかk
「だめだ!!ここでバレたら次こそプミラは死罪になる!!」
「そうだった!!!」
…はぁ。
「…全部聞いてたからおまえらの事情はなんとなくわかったよ。それに、ここにきたのは殺すためじゃなくて話すためだ。」
「ぜ、全部とは…?」
「ウィンクルがため息をついたころからだな。」
「全部じゃないか!!」
だから全部だっていっただろ…。
「…とりあえず、ここだといつ誰にバレるとも知れなくて不安だから部屋にあげてくんない?」
二階ぐらいだったらまだ届くかもだが、さすがに三階はもう無理だ。
「…あ、ああ。」
しばらく待っていると、うさ耳を生やしたルナがぴょこんと下りてきた。
「…ひさしぶり。」
満月に照らされて、ルナの乳白色の髪が幻想的にぼんやりと水色に輝く。
相変わらず無駄に美少年だ。
「…うん。」
ルナはがしっとあたしに抱き着いてきた。
「これは、べつに、寂しかったとかってわけじゃないよ。」
「うん。」
「力を補給してるの。」
幼い少年の姿だったルナが少しずつ大きくなっていき、まだ幼さを残す青年の姿になった。
ルナは月の光を浴びたり、女性に触れることで力を補給できるのだ。ルナの本来の姿はウサギのような生物であり、力によって子供の姿になったり大人の姿になったりする。話によると、どうやらウサギの姿から離れれば離れるほど、必要な力が多くなるらしい。
「行くよ。」
ルナに担ぎ上げられる。そして、ルナはぴょーんと三階のバルコニーまで飛び上がった。
「…よいしょっと。」
ルナにおろされると、ちょうどウィンクル…こちらも無駄に整った顔をしていてムカつく…と向き合う形になった。
「………。」
さて、なにから話し始めよう。




