第十六章 Mの悲劇
「…はぁ。」
周りからのなんでお前いるんだよ的な視線が辛い…。いや、あたしも好きでこんなところにいるんじゃないんだって。ミコが無理やり連れてきたんだって!お偉いさまが本来座るはずの神殿のバルコニーにある席からぼんやりとメギのパレードを見おろしながら、言われてもいないクレームへの答えを考える。
「あれが…陰神子か…。」
牛車が眼下を通りすぎて…ん?
「と、止まった…。」
他の人たちは神子の前で一回止まって頭をさげてから行くが、まさか陰神子も…?一応、神殿内でミコと陰神子は同じぐらいの立場(ちょっとミコが上ぐらい…?)らしいが、なんとなく見下してそうなのでそのままスルーかと思ってた。
「ごきげんよう。無の神子殿。」
御簾ごしに声がかけられる。こ、これが噂の陰神子の声か…。よく響く声だな…。というか、こっちは低めとはいえ二階にいるのにわざわざ声をかけてくるとは…。
「…………。」
「…相変わらず無ですか。相変わらず、清らかなようで安心いたしました。」
「…………。」
いや、ミコは聞こえているはずだ。三分ぐらい前まで普通にあたしと会話していた。…てことは、普通に無視してるってこったな。
「……少しぐらいは口をきいてもよいと思うのですが。」
わー、さっき安心とかいってたのに少しイラっとしてるー。大人気ないなー。
心の中で笑っていると、なぜか急に寒くなってきた。
「…そこの娘。」
げっ!心をよまれた!?もしかして、この冷気は陰神子の能力か!?
「…名は、
「陽神子さまはどうしたのですか。」
ミコがしゃべった!
「…ここのところ、御所にずっと籠っていますよ。」
「こんかいは、
「来ていません。」
陽神子って…なんだか最近めっきり噂に出てこなくなったな。戦争が収まってるからかと思ったけど…陰神子はそうでもないし。というか、先のミズキとメギの戦争が終わってから陽神子の代わりに陰神子がよく出てくるような気がする。
「無の神子殿が口をきくとは驚きですね。なにがあったのやら。」
陰神子がじろりと品定めするようにこちらをねめるける。
「なにも。」
「…そうですか。それではごきげんよう。」
陰神子のその言葉とともに再び牛車は動き出し、滞っていたパレードの行進も前進しはじめた。
「…なーんか、いけ好かないヤツだねぇ。」
「……僕…あの人とはなしてるとなんだか心臓の裏がふるえるかんじがする。」
ぞっとする感じがするよなぁ。
「というか、これまで関わりあったんだね。陽神子とか陰神子とかと。」
まぁ、ないほうが変か。
「すこしね。」
へぇ。
「陽神子ってどんな感じなの?」
「…やさしい人だよ。」
マジか。随分噂と違うんだな。やっぱ噂なんてあてになんないんだね。
「会ってみたいけど…引きこもってるっていってたし無理か。」
「そうだね。」
さーて、次にくるのは誰か…
「……あんた。」
「なに?」
「ちがう。ミコじゃない。あんただよ。そこの神官。」
「……はい?」
「あそこの、あの男の名前はなんだ?」
あの、ゆるく結ばれた翡翠色の長い髪に濃いピンクと白のメッシュが入ったあの男…。無駄に美しいあの顔面にピンクサファイアのような瞳を冷たく光らせる、あの男は…
「ローズペリウィンクル・キョウチクトウ。メギの有力貴族のキョウチクトウ家の次期当主ですよ。」
………。
「…殺してやる。」
「え?」
あたしはバルコニーから飛び降りた。




