64 決戦
冗長過ぎたかも・・・。
統括体は極寒の地で大規模な生命活動が行われているエリアを感知した。
新たな大陸の探索もこの惑星の生物にとって環境が比較的マシな地域から始め終わりに差し掛かっていたのだが未だ苗床母船を破壊した個体の種族を発見出来てはいなかった。
このまま発見出来なければ表面から凍結を始めている海洋の探索に切り替える予定であった。
この広い宇宙で彼らが遭遇した水棲の種族が苗床母船を破壊した高高度を飛翔していた例はなく可能性は低かったがそもそもこれまでの経緯が今までにないイレギュラーな事態でありあり得ない事とはいえなかったからである。
しかしここに来て極地に程近い山脈の内部にそれを感知したのであった。
山脈内部には巨大な空洞がありそこでは活発な生命活動が行われていた。
気候変動で生命活動全体が衰退しているこの惑星でこれ程大規模な活動を感知したのは始めてであった。
これまでの不振に終わった二大大陸の探索結果から最後に残ったこの地があの個体の種族のコロニーである可能性が高かった。
統括体は近衛体らと共に大空洞に向かっていった。
果たして大空洞への侵入口は簡単に見つかった。
外部に大量の暖気が漏れている箇所がありそこには彼らでも通り抜けられそうな洞窟の口があったのだ。
暖気が漏れている箇所は他にも幾つか見つかったがどれも小さくあの個体の種族が使っているとすれば出入口はその洞窟しかあり得なかった。
そして何よりもその洞窟の前に彼らを待ち受けるように佇むあの個体と同型の個体の姿があった。
彼らは少し距離をとって舞い降り九体の近衛体を先頭に接近を開始した。
空の暗雲が日の光を閉ざし吹き荒ぶ豪雪が更に視界を奪っていく。
紗耶香は漫然とその極寒地獄のような風景を眺めながら洞窟を背に竜の鎧の中で奴らを待ち受けていた。
大空洞の出入口である洞窟から立ち上る暖気はたちまちの内に豪雪に吸い込まれ消えていき飛沫のような水滴が周囲に降り注いでいた。
それも積雪に触れるとすぐに凍てつき氷の層を形作っている。
竜の鎧の龍鱗の表面も氷結し竜を模した頭部の突き出た顎から氷柱が下がっていたが温度調整用魔道具が関節部の僅かな隙間から忍び込む冷気を防ぐため感覚同調している紗耶香が寒さを感じる事はなかった。
暗雲の下奴らがこの大陸全土を飛び回っているのは分かっていた。
各国から通信用魔道具で情報は上がっていたがこちらからは敢えて討って出る事はせずこの地を動かなかった。
超大陸からの情報で最初に犠牲になって消滅した数ケ国以外で被害を受けた国はなく上空を通過するだけだったというのが分かっていたため取れた手段だった。
どうやら奴らはあの時落下する母船を破壊した竜の鎧01の同類を探していると思われる。
生体組織で構成された有機パワードスーツである竜の鎧は一見一個の生物に見えなくもない。
奴らは最大の脅威の排除を優先して最初の様子見以降は人間を無視しているのだろう。
寒冷化で衰弱しているこの惑星で生命活動が活発な大空洞はかなり目立つ事もありここに陣取っていればいずれ紗耶香の竜の鎧02を発見して向こうから襲撃してくる。
ならばここで準備を整え迎え撃つのが最善である。
それがシオンと紗耶香と加奈達三人が出した結論であった。
超大陸からの情報やこの大陸各国との信頼関係など勇気が整えてくれていた状況を最大限有効に使う事にしたのだ。
そして奴らは来た。
勇気ほどではないが紗耶香も魔力の極微放射による周辺感知がかなりのレベルに達しており豪雪で竜の鎧の視野が限られる中高空より近付いてくる敵の一群を明瞭に捉えていた。
正面の雪に埋もれた広い街道筋に少し距離をとって降下してくる。
各国での目撃情報通りこれまでのトライポッドと同じ大きさ形のものが九体、後方に一体一回り大きい奴がいた。
敵が温存していた戦力である。
数を残していないのであれば前衛の九体もこれまでとは別物と考えた方がよさそうであった。
更に後ろに控えている一回り大きな奴は差し詰め敵の親玉ラスボスといったところか。
こちらも只一回り大きいというだけではないだろう。
目撃情報では高空を十体の黒い影がプラズマ光の尾を引きながら通過していったとしかなく数以外に詳細なディテールまでは分かっていなかったが現状打てる手は全て打っておいた。
後は全力をもってぶつかるだけである。
前衛の九体が高速で前進を開始し後方の大物一体はゆっくりと進んでくる。
前衛の九体は積雪が厚く積もった悪い足場をこれまでのトライポッドより遥かに速いスピードで滑るように移動していた。
脚の動きが滑らかで速い。
その動きから紗耶香の竜の鎧と同程度の反応速度があると判断出来た。
前回のように機動力とスピードで圧倒出来る相手ではない。
後方の大物は前衛で小手調べするつもりかかなりゆっくり移動して距離をとっていた。
こちらの実力はまだ分からない。
紗耶香は動かず前衛の動きを注視する。
前衛は左右に大きく広がると一斉に頭部を全面開放しそれぞれ九対の眼球を展開、計八十一個の眼球が一気に数倍の大きさに膨れ上がった。
「加奈!大盾!」
紗耶香の声に合わせて竜の鎧の足元の積雪を割って三枚の巨大な盾が正面と左右に囲むように迫り上がった。
盾の表面は龍鱗に覆われその大きさは竜の鎧を十分カバーしていた。
トライポッドから最大出力の分解消去光線が放たれた。
これまでの一体が放つ分解消去光線の三十倍近い威力のそれが龍鱗の大盾に叩きつけられる。
全てを消し去るはずの闇色のカーテンが盾に纏いつくが溶けるように消え失せていった。
龍鱗の大盾は健在で紗耶香は正面の盾裏の取っ手を竜の鎧の顎でくわえ左右の大盾は両腕で保持し防御体勢を維持したままスラスターを吹かしダッシュを掛けた。
分解消去光線を放ちながら前進を続けていた敵前衛の中央部の一体と衝突寸前全ての盾を離した。
衝突寸前だったトライポッドは前脚を蹴りだし盾を押し止めるがその瞬間抜き放たれた竜牙の太刀がそれごと袈裟斬りにした。
龍鱗の大盾と共に袈裟斬りにされたトライポッドの眼球剥き出しの頭部の上斜め半分がズルリと横にズレ落ちていく。
それと同時に同士討ちを避けるため一時的に止まっていた分解消去光線が左右の敵から放たれる。
しかし一旦手放したはずの左右の盾が雪の上を自走するように手元に戻ってきてそれを防御した。
竜の鎧の左手で左の盾を掴み右手に抜き身の竜牙の太刀を保持したまま右腕に右の盾を引っ掛けスラスターを横向きに吹かして左側の敵に向かった。
前方の敵からの分解消去光線は掴んでいる左の盾で捌き後方から放たれた攻撃は竜の鎧の半身を後ろに傾け右の盾で防いだ。
「足止め!」
間近になった正面の敵は先の二の舞を恐れ後方に飛び退こうとしたが紗耶香の声に応じて足元の雪が粘着生物のように絡みつき一瞬その動きを止めた。
元々只の雪のためかそれはすぐに千切れるがその一瞬の間に間合いを詰め竜牙の太刀がそのトライポッドの頭部中央を貫いた。
その脚から力が抜け太刀が引き抜かれるとドゥと倒れ伏す。
前衛のトライポッド達は足元の雪自体が敵であると認識して脚下からプラズマ光を発し飛び上がった。
しかしあくまでも狙いは竜の鎧で眼球を向けて分解消去光線を放ち続ける。
「牽制!」
紗耶香は手持ちの盾でそれを防ぎながら指示を出す。
滞空するそれぞれのトライポッド目掛けて円盤型の小振りな盾が積雪の中から何十枚も発射される。
回転しながら接近する小盾に警戒して分解消去光線を浴びせるがこれも龍鱗の盾であるため消滅せず照射圧で衝突コースを外れ下に落ちていく。
しかし地上に落下する寸前積雪が鞭のように伸び小盾をキャッチすると再度トライポッド達の方に回転を掛けて放り投げていく。
飛び回る小盾の回避に注意力を割かれ紗耶香に対する攻撃が疎かになったていく。
その隙を突いて紗耶香は龍鱗の大盾を離し飛んでいる小盾の一枚を左手で掴み取って竜の鎧の両脚のスラスターを全開にして近くのトライポッドの一体目掛けて飛び上がり接近していく。
紗耶香は小盾を翳して前方からの分解消去光線を防ぎ頭から突っ込んでいく。
側面からも攻撃を受けるが小盾に阻まれ散発的なものとなり竜の鎧の間接部や接合部の僅かな隙間に潜り込まれる事はなかった。
竜の鎧から狙われているのに気付いた正面のトライポッドは分解消去光線を放ちながらも後退しようとしたが飛び回る小盾が邪魔し反応が遅れ易々と接近を許してしまった。
ザン!!と竜牙の太刀を横薙ぎにして頭部球体を切り裂いた。
次の敵に向かう竜の鎧が幾つかの小盾を弾き飛ばすが紗耶香はそれを無視して突き進む。
その様子を見て分解消去光線を防ぐだけでそれ自体には脅威なしと判断したトライポッド達も小盾を無視して竜の鎧に攻撃を集中しようとした。
その途端竜の鎧の進行方向で一番近くにいたトライポッドの一体が小盾に切り裂かれた。
トライポッドを切り裂いた小盾は極細ワイヤーと繋がっておりそれは紗耶香の竜の鎧の左腕から伸びていた。
最初に掴み取った小盾は特別製でその外周にはびっしりと短い竜牙が生えており魔力光に輝いていた。
竜牙の小盾。
今回の戦いのために紗耶香達が造った武器の一つで極細ワイヤーで竜牙に魔力を届かせ切り裂く中距離攻撃用の武器である。
先程掴み取った小盾は適当に選んだのではなく選んで掴み取っており接近する間に左腕の極細ワイヤーに接続して敵が小盾を無視すしたタイミングで飛び交う他の小盾に紛れさせるようにして投げつけたのだった。
残り五体となったトライポッド達は小盾の飛び回っている範囲の外に一旦退避していく。
「虚と実・・・、真似をさせてもらったぞ・・・」
紗耶香は誰に告げるともなく呟いた。
勇気は事も無げに敵の裏をかいて打ち倒していた。
臨機応変さや力もあっただろうが絶えず考え打てる手を打って仕掛けを仕込む努力を惜しまなかったからだ。
しかし飄々とした態度からはそんな様子は感じさせなかった。
この戦いの戦術を自分達だけで考えてみて初めてその怖さを知った。
僅かな情報を元に敵の力を予測し対応策を練っていく。
敵の力を見誤まって紗耶香達が敗れればこの惑星の人類が滅びかねない。
敵は敵対者を排除するためなら惑星を一つ潰す事もいとわない連中だ。
阻む者がいなくなれば容赦なく滅ぼされるだろう。
勇気はその重圧に平然とした顔で耐え抜き命を賭けて超巨大敵母船の落下攻撃という最大級の危機を撃ち破り道を開いてくれた。
自分はあの時戸惑うばかりで勇気に責任の全てを押し付けてしまった。
勇気がいない今こそ約束したように自分の力で道を切り開いてみせる。
紗耶香は気合いを入れ直して敵の動きを探った。
小盾が飛び回っている範囲の外にいる後方の大物が動き出した。
雪に魔力を通して操り紗耶香の支援をしているのは積雪と氷の下に潜んでいる加奈で制御の限界が小盾の飛び回っている範囲であった。
紗耶香から膨大な量の魔力譲渡を受けた現在の加奈は魔力制御の特訓の成果もあって辺り一帯数百mの積雪位なら自在に動かせるようになっていた。
そのギリギリの位置までそいつは近付くと頭部を全開にして巨大な眼球を露にした。
眼球は一つしかなかったが頭部の元の大きさから更に数倍の大きさに脹れ上がっていく。
「雪壁!」
指示と同時に竜の鎧を急速降下させその積雪の上に転がっていた大盾を掴んで構え大物との間に巨大な雪壁が割り込むように盛り上がってきたところで敵の一撃が放たれた。
竜の鎧を覆い隠した高く分厚い雪壁を一瞬の内に吹き飛ばし周囲一帯を分解消去光線が黒い濃霧のように包み込んだ。
「痛ぅ・・・」
紗耶香の四肢の付け根に激痛が走った。
雪壁と龍鱗の大盾の二段構えで直接照射は防いだが辺りを濃厚に覆った分解消去光線が輻射熱のように竜の鎧の間接部の隙間に潜り込み内部の有機組織を少し削り取ったのだ。
下手をすれば千体以上のトライポッドの集中攻撃に匹敵する威力だった。
感覚同調している紗耶香は自らの四肢の間接部をカミソリで切り刻まれるような痛みに呻いた。
幸い接合部の方は内側からの龍鱗による二重シールで防げたが機動性を重視してシールが緩くしてある間接部は防ぎ切れていなかった。
「・・・シオン!」
『了解。治癒を開始する』
背嚢に通じる伝声管よりシオンの返答が帰ってくる。
同時に竜の鎧内の破損個所の痛みが薄れ再生が始まるのを感じた。
背嚢の収納スペースにはシオンが乗り込み治癒魔法の適性の低い紗耶香の代わりに破損時の再生にあたる手筈になっていた。
激痛が直ぐに薄れ破損部の再生が始まったのを感じつつ周囲の状況を確認する。
地上の周囲数百mの雪と氷がなくなり土の地肌まで深く抉られた底に紗耶香の竜の鎧は片膝をついて盾にもたれ掛かり鎮座状態となっていた。
そしてその後方百mぐらいのところに半分の大きさのもう一体の竜の鎧が同じようになんとか大盾を支えた状態で蹲っていた。
「大丈夫!?加奈!」
「ンッ・・・、だ、大丈夫、自己治癒中だから」
口腔奥にある発声器官からの声に加奈の乗る竜の鎧03も同様に返答した。
今までは魔力で積雪をコントロールして戦闘支援するので精一杯だったため返答すら出来なかったが雪そのものが周囲から消滅し竜の鎧の治癒のみに力を使っているだけなので何とか返答ぐらいは出来るようになっていた。
竜の鎧03はこの戦いに向けて紗耶香の厖大な魔力を使って加奈とシオンが戦闘支援用に造り上げたものであった。
積雪と氷の下に潜むために温度調整用魔道具で保温し敵の攻撃は龍鱗により防御して戦闘支援を行う事を主目的として近接格闘戦能力はあまり重視しなかったため02に比較すると半分程度の大きさであった。
自らの血肉で造り感覚同調で動かす都合上操縦者の身体能力が如実に表れるため元々戦闘能力が低い加奈が乗る機体には近接格闘戦能力は必要ないという考えもあったからだ。
しかし敵にとっては戦場に現れた攻撃対象である。
前衛で残っていた二体が加奈の竜の鎧03に三体が紗耶香の02に分解消去光線を放ちながら上空から突っ込んできた。
小盾も大物の一撃で積雪の下に隠してあった分も含めて全て吹き飛ばされ竜牙の小盾も極細ワイヤーが消滅して一緒に飛ばされており牽制するものがなくなっていた。
紗耶香はスラスターを全力で吹かして加奈の竜の鎧03に向かう敵に突進した。
紗耶香の02を攻撃していた三体も追撃してくるが龍鱗の大盾でその攻撃を防ぎながら加奈の03を襲う二体の敵に接近していく。
その二体の眼球がギュリンと紗耶香の02に向き分解消去光線が放たれた。
一瞬早く紗耶香はスラスターを横向きに全開にして躱した。
前後から分解消去光線が連射され追尾してくるが互いの射線に乗るように位置取りすると同士討ちを避けるために射撃が止まり紗耶香は前方二体に肉薄した。
二体は回避しようとするがガクンと空中でつんのめるように動きが止まった。
いつの間にか加奈の竜の鎧03が身を守っていた大盾を離し両腕から極細ワイヤーをその二体の脚に絡めつかせて足止めしていた。
『今よ、紗耶香ちゃん!』
紗耶香の竜牙の太刀が動きの止まった二体を斬り飛ばす。
だが次の瞬間地上で大盾を離し無防備状態となっていた加奈の竜の鎧03に向け後方の三体から分解消去光線の集中攻撃が浴びせられた。
「加奈!!」
紗耶香は逆噴射を掛けその三体に向かった。
三体は三方に散らばり包囲してくる。
スラスターの向きを小刻みに変え変則的な高速機動で敵の攻撃を避けながらその内の一体に肉薄する。
近接した状態で竜牙の太刀を次々と繰り出すが敵も三本の脚の角度を動かしプラズマの噴出方向を器用に変え躱していく。
やはり当初の予想通り反応が速く単純な斬撃なら躱せるようだ。
とはいえ相手も躱すのが精いっぱいで分解消去光線を放つタイミングが取れず周囲を巡る二体も目まぐるしく位置を変える紗耶香の竜の鎧02を捕捉しきれずこちらの動きを制限するための牽制攻撃を味方に当てないように放ってくるだけであった。
先ほどとは逆の状況であったが敵の一体に肉迫して斬撃を放ち動き続けそれでもはみ出る部分は左手の大盾で防御する事によって拮抗状態を維持する。
「加奈!加奈!大丈夫!?」
「わ、私は大丈夫・・・、紗耶香ちゃんは・・・そっちに集中して・・・」
紗耶香の呼び掛けに切れぎれの返信が戻ってくる。
高速機動を続けながら魔力による空間感知を広げ周辺の状況を探る。
直撃を受け倒れた竜の鎧03がヨロヨロと起き上がろうとしているのが分かった。
「加奈は後方に下がって積雪の下に潜り込んで!後はこっちでやる!」
「分かったわ・・・、紗耶香ちゃん」
加奈の竜の鎧03が何とか後方に下がっていく。
大物の方は動きが止まっていた。
威力が大き過ぎてあの一撃は混戦状態では使えないのだろう。
高速機動戦を繰り広げている空域と射線が重なるため後退して積雪の中に潜り込んでいる加奈の竜の鎧03にも攻撃出来ないようだ。
「シオン!生きてるか?だったら目眩ましを頼む!」
「カナに比べて扱いが酷い。だがまあいい。でっかいのをいくよ!超火弾!」
その声と共に背嚢と繋がっている部分から膨大な魔力が吸い取られ竜の鎧02の周辺に機体と同程度の巨大な火球が数十個発生した。
その超火弾群にトライポッドと共に竜の鎧02は突っ込んでいった。
どちらもその程度の火力でダメージを受ける事はなかったが事前に分っていた紗耶香は肉迫していた相手の対物感知能力に低下し動きが鈍ったのを見逃さずその直前に放った斬撃を振り抜かず切り返し頭部球体を真っ二つにした。
超火弾群は連鎖的に爆裂していきその空域全体が炎に包まれた。
残り二体も対物感知能力に影響が出て動き鈍くなっていた。
紗耶香は竜の鎧02の大盾を腕に引っ掛け左手に竜牙の太刀を預け空いた右腕から極細ワイヤーを射出してその二体の脚を絡め取っていく。
紗耶香の膨大な魔力で強化コントロールされている極細ワイヤーは超高熱の爆炎の中融け落ちもせずトライポッド達の脚に絡まり動きを封じていく。
高速機動で旋回してそのまま二体を巻きつけ一固まりにすると大盾を前にして体当たりしスラスターを最大の推力が出るロケット推進に切り替え後方に控える大物目掛けて突っ込んでいく。
大物は少し躊躇したようだが先ほどと同じ超強力な分解消去光線を照射し大盾の前の二体のトライポッドは瞬時に消失し竜の鎧02の周囲も濃厚な闇に閉ざされた。
「クゥ・・・」
再び四肢を引き裂かれる痛みに耐えながらそのまま突っ込み極細ワイヤーも消失して自由になった右手で竜牙の太刀を掴み直し龍鱗の大盾を貫通させて相手の頭部球体を狙った。
しかしその刃が届く寸前ガクンと竜の鎧02の動きが止まった。
大物の脚の一本が無数に枝分かれして剣山のように前に突き出され竜の鎧02の動きを抑え込んでいた。
斬り飛ばそうとするが関節部のダメージで動きが鈍っており竜の鎧02の両腕両脚に枯枝のようなそれがしっかり巻きつき動きを封じられていく。
空いている数本の枝の先端に小さな眼球が現れ膨れ上がり他の枝に当たらないように竜の鎧02の関節部に細く絞り込んだ分解消去光線を照射していく。
「アアアアッー!!!」
関節部の隙間から潜り込んでくる分解消去光線が内部組織を破壊していき激痛が紗耶香を苛み続ける。
シオンが竜の鎧02の関節部の治癒を続けているが損耗率の方が高いため徐々に組織の破壊が拡がっていきやがて内部的に胴体部と両腕両脚部とが切断されそうになる。
「シ、シオン・・・、他はいい!右腕だけに治癒を集中して・・・維持して!」
「他が一気に侵食されるぞ!いいのか!?」
「か、構わない!やって・・・くれ!!」
紗耶香の声に従いシオンは竜の鎧02の右腕の関節部のみに治癒を集中他の部分は一気に浸食が進み切断された。
「!!! !!!」
声にならない絶叫が紗耶香の口から上がり竜の鎧02の左腕と両脚がダラリと力なく垂れた。
ただ右腕だけが竜牙の太刀を突き出したままで柄を握っていた。
「紗耶香ちゃんを離せ!!!」
加奈の竜の鎧03が足元の積雪の中から飛び出し大物目掛けて突っ込んできた。
その手には巨竜の犬歯以外の竜牙から削り出して造られた短剣が握られており竜の鎧02を拘束する枯れ枝のような脚を数本斬り飛ばした。
しかし直ぐに他の枝分かれした脚が殺到し竜の鎧03の動きを封じていく。
「今だ!!」
紗耶香は空いている枝分かれした脚が全て竜の鎧03に向かった瞬間02の操縦席前の胸部装甲を開いて生身で外に飛び出した。
予め装着してあった飛行ユニットを全開にして02の右腕を拘束している枝分かれした脚の全てを瞬時に斬り落とした。
その手には紗耶香自身が使うために準備しておいた等身大の竜牙の小刀が握られていた。
紗耶香は竜の鎧02が握ったままになっている竜牙の太刀の柄の部分に両手を当て魔力を流し込み感覚同調したままの02の右腕を動かした。
竜牙の太刀が敵の頭部眼球に突き刺さるのとほぼ同時にその眼球から分解消去光線が放たれた。
”無茶し過ぎだ”
紗耶香は分解消去光線を受ける寸前勇気の声を聞いた気がした。
次回、最終回
・・・ではありません。
伏線の回収は二章後の予定です。




