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異世界無双血風録  作者: 大五郎
第16章 終焉編
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62 迎撃

取り敢えずここまでです。

苗床母船の統括体は決断を下した。

既に地上に降下させた千体以上の子包体の反応はなくなっていた。

地上生物の群れが統率された動きを見せる中から発せられた高エネルギー反応。

前回降下させた子包体が破壊された時と同レベルのエネルギー反応があり敵性存在の排除のために今回降下させた子包体が全て殲滅されたということである。

この惑星の地上には重大な脅威が存在する。

これは著しくイレギュラーな事態であった。

星々を渡り安定的な環境の惑星を見付けてはコロニー、(ネスト)を作り繁殖を繰り返して飽和状態に達したら巣分けして又宇宙に旅立つ。

繁殖の主体である子包体は真空の宇宙で激烈な放射線に曝されても一切影響を受けず単独で大気圏突入をもこなす強靭な外皮と体構造を持つほぼ無敵生物であるが繁殖の一時期完全に無防備状態になり生まれたばかりの幼生体も成熟するまでの間は成体に較べると遥かに軟弱であった。

そのため繁殖地となる惑星に生命体が存在する場合は繁殖期の脅威となる生物種の排除を行うのが常であった。

彼らの繁殖に適した安定的な環境の惑星の多くには土着の生命体がいたが通常であれば斥候として送り込む従属種族である寄生体だけで事が足りる。

寄生体は土着の生命体の中でも特に強靭と思われる種に憑りつきその中枢を融合捕食して凶暴化させ周囲の脅威となりそうな生物種の殺戮を始める。

それが完了すると一部の寄生体だけを休眠状態で残して自死し惑星を彼等に明け渡す。

だが極稀に寄生体を跳ね除ける力を持った生物がいる場合がありそんな時には子包体を送り込んで殲滅する事になる。

統括体のこれまでの数百にも上る惑星の入植で子包体を投入したのは数例しかなく全て一方的な殺戮であった。

彼らの種族が宇宙に広がっていく永い歴史の過程で幾つかの強力な生命体に遭遇したが数体以上の損害を受けた例はなくその全てを子包体の大量投入によって解決しており全滅する事などなかったのであった。

これまでの繁殖期の弱体化の脅威だけではなく種族的な脅威にこの惑星で初めて遭遇したのであった。

如何なる犠牲を払っても殲滅しなければならない。

全戦力を投入しても敗れた以上取りうる手段は限られており統括体は苗床母船の減速なしの惑星への突入を選択した。

これによってこの惑星は完全浄化されあらゆる生物は死に絶える。

惑星の環境も完全に破壊され再度安定するまで数万年以上の時間を要するに事になり又自らの巨大質量によって苗床母船も破壊されるが種族的脅威を取り除くためにはやむを得なかった。

ほぼ永劫の時を生きる彼らにとって数万年程度の時間はさして問題にならないし入植も統括体自身の機能で行い苗床母船も統括体が生み出す事が出来るため取り返しはつく。

統括体は苗床母船の通信機能を使ってこれまでの情報と苗床母船による特攻を掛けて敵脅威の排除を図りその後数惑星環境が安定化するまで休眠するとの連絡を入れた。

そして地表で子包体が戦闘を行った地帯へ墜落する落下軌道に苗床母船を乗せ親衛体と共に統括体は離脱した。

苗床母船は乗せた軌道を進み徐々に高度を下げていく。

統括体は離れていく苗床母船を見つめながら勝利を確信していた。






暴風雨が吹き荒れ雷が鞭打つように襲い掛かってくるが勇気の竜の鎧(ドラグーン・アーマー)01はそれを強引に突破し雷雲の上に出た。

もうもうと大気の上層まで立ち上る噴煙を背後にして地平線の彼方から迫りくる炎の衣に包まれた黒い莢豌豆型の物体を正面に捉える。

降下してくるといっても真上から落ちてくる訳ではなく周回軌道から徐々に高度を下げているのだ。

熱圏に入ったばかりでまだかなりの距離があるのに視認可能でしかもそれがだんだん大きくなっていた。

勇気は竜砲(ドラグーン・バスター)を構え魔力を充填しながらそれに向けて加速していく。

「こちらシオン00、ユウキ、何とかなりそうかい?」

シオンから通信が入った。

紗耶香はまだ到着していないようだ。

「こちら竜の鎧(ドラグーン・アーマー)01。正直言ってよく分からないな。俺の事前警告で帝国が全天観測を行ったところ周回軌道上に巨大な何かがいるという事ぐらいしか分からなかったからな。敵の母船と判断して最悪質量弾として使ってくる可能性は考えていたが敵を吹き飛ばすために必要な力の大きさも分からなければこっちの全ての魔力を注ぎ込んだ竜砲(ドラグーン・バスター)の威力も未知数。紗耶香の一撃で破壊出来る事は確認したが敵母船の装甲がトライポッド並みとは限らないしあの質量だからな。俺の現在の全魔力を込めた一撃もかなりの威力にはなるはずだがどの程度破壊出来るか。強いて言えば勇者召喚魔法が世界の危機に対応出来る者を召喚しているってところぐらいしか当てにするところがない。それにしたって一見勇者個人に大きな力があるように見えるが実際にはその力は他の人間の犠牲を前提にしている上にローアンが滅んだようにそれ以上の犠牲が出ない事を保証するものではない。どうしてこんな方式にしたんだ?』

『・・・勇気がさっきアルナス軍を皆殺しにしたように他に手段がなかった。勇者召喚魔法の術式を作る原因となった当時の世界の危機は強大な魔力を持つ魔族の魔界からの侵攻によるものだった。魔族の下っ端ぐらいなら私でもなんとかなったが上級魔族、特に魔力の特異点たる魔王には及びようもなかった。そこでそれに匹敵する存在を他の世界から召喚する事にした。皮肉な事に異世界への接触方法は魔族がこの世界に開いた魔界から通じる門を解析して可能となっていた。しかし魔王を倒すに足る強大な力を持つ存在を召喚するなんて個人のちっぽけな魔力では不可能だったしそんな存在を呼び出したところで魔王と戦ってくれる保証もないしこっちの世界に感心を持たれて新たな脅威になられても困るし興味がなければ勝手に自力で帰還しかねなかった。だから敵を倒せる可能性があっても召喚時には大した力を持たない者を召喚してこっちの世界で成長させる事にしたんだ。魔族の大侵攻で危機に瀕していた当時の状況では悠長に成長を待っていられず私の知る一番の魔力を高める方法である”魂喰い”の能力を召喚者に持たせるよう術式に組み入れた。最悪この世界の大部分の人間が死んでも脅威を除き僅かなりとも生き延びられればいいと考えてね。そこまで追い詰められていたんだよ。当時の権力者や名声に目が眩んで術式の内容も理解しないで私を殺して勇者召喚魔法の魔導書を奪った弟子達にはそこまでの危機感はなかったろうがね』

『その辺はどこの世界も同じだろう。世のため人のために我が身を顧みず行動する者もいれば自分のために世界を食い物にして滅ぼしても構わないって愚か者もな。後者の場合巡り巡って自分に戻ってくるんだが。前者もあまり利口なやり方とはいえないが』

『そういう割には今そこにいるじゃないか。狙いを外さないためギリギリのタイミングで撃つつもりなんだろう?八十万人近い魔力を注ぎ込んで最大出力で放たれる竜砲(ドラグーン・バスター)の一撃と厖大な落下エネルギーを持つ超巨大な敵母船とが正面から激突するんだ。そんなものの至近にいれば破壊不可能といわれる龍鱗ですらに持つかどうか。ましてや中身の生身など持つはずがない』

『それでもやるしかないだろう。ここで逃げても後がない。惑星の生命環境が完全に破壊されれば誰も生き延びられないしな』

『すまないね。こんな事に巻き込んでしまって』

『何を今更。元の世界に帰るためにこの世界の危機に挑む事を決めたのは自分の意志だ。シオンは選択肢を示しただけでするかしないかは俺の自由意志に任せた。だからそれについては気にしなくていい』

『ユウキ・・・』

『それに元の世界に帰りたいというのも俺にとっては目印みたいなものだからな。元の世界に戻れたところで感性がいかれて人殺しに忌避感が無くなった今の俺が元の世界の社会に適合出来るか怪しいものだ。辿り着くのが目的じゃなく辿り着くために進むのが目的だった。だからここで終わるのもありかもしれんさ』

『・・・本当にそれでいいのかい?』

『ああ、もっとも俺も命根性は汚いからここで死ぬつもりはないけどな。だがもし俺が帰らなかったら紗耶香と加奈の二人の事を頼む。言わずもがなだが俺がこれを始末して尚も帰還魔法が働かなければまだ脅威が去っていないという事だ。力になってやってくれ』

『まだ敵が残っていると?』

『ああ、死なばもろともなんて考えるのは多分人間だけだろ。ならば奴らが戦力を温存している可能性は十分ある』

『こんな時でも冷静なんだな』

『負けず嫌いなだけさ。死んでも負けてやるつもりはない。奴らを殲滅して人類が存続出来る人数と環境が残ればこちらの勝ちだ』

『こちら竜の鎧(ドラグーン・アーマー)02。到着した。これより収容作業に入る』

紗耶香から通信が入った。

通信ノイズに混じって背嚢が開き収納スペースの荷物を掻き出す音が聞こえた。

『手早くな。こちらもそろそろ頃合いだ』

『勇気・・・、そこまでの覚悟があったのか。何故私にやらせなかった。敵に温存している戦力があるなら勇気が生き残って当たった方が確実だったろう』

口を挟まなかったので聞いていないのかと勇気は思っていたが聞いていたようだ。

『適材適所ってやつだ。紗耶香では撤退していたアルナス軍を皆殺しに出来ないだろ。それに紗耶香にこの役を回して死なれたら加奈に恨まれる。俺なら生き延びられる可能性もあるしな』

『・・・分かった。必ず生きて帰ってきてくれ』

『そのつもりだ。だが帰りは少々時間が掛かるかもしれない。その時は紗耶香が何とかしてやってくれ』

『任せてくれ。いつまでも勇気に頼ってはいられないからな』

『その意気だ。決して諦めるな。諦めたらそこで終わりだ。これから射撃に集中するために通信を切る。取り敢えず俺が目の前のでっかい障害物を吹き飛ばして道を開いてやる。後は任せたぞ』

『勇気!必ず、必ず生きて帰ってこいよ!絶対だ!』

紗耶香の声を聞きながら通信を切った。

感覚同調している竜の鎧(ドラグーン・アーマー)01の聴覚器官が風切り音をうるさいぐらいに拾っているが奇妙な静けさを感じた。

復讐を果たしラードを出た時は一人だった。

出来るだけ人に関わらずに生きていこうと思った。

この世界の人間のために何かをするつもりなんて毛頭なかった。

勇者としての務めを果たせば元の世界に帰れると知ってやむ無く関わっていった。

それがこの有り様だ。

帝国情報部からアルナス軍の侵攻時期を知り今回の戦いの前に呪われた大陸に直接足を運んで各国首脳におおよそ何が起こるのか警告して回った。

アルナスを含めた超大陸全土にも帝国を通じて警告を出しておいた。

お節介な事である。

そして今この死地に踏み込んでいる。

勇気は苦笑しながら竜の鎧(ドラグーン・アーマー)01の目で敵母船に照準を合わせていく。

見る見る内にその姿が大きくなっていく。

炎の衣を纏い大気を引き裂きながら接近してくる莢豌豆型の巨大な敵母船。

落下速度が音速を超えているためその音は聞こえないが大気が張り詰めている感覚があった。

普通の人間ならその圧迫感だけで恐怖に竦み上がってしまうだろう。

それを正面から冷静に見据え勇気は竜砲(ドラグーン・バスター)の発射のタイミングを計る。

恐怖感なんて戦奴時代に摩滅させてしまっていた。

いつもより死に近い位置に立っている。

ただそれだけであった。

魔力は既に限界まで注ぎ込んである。

竜砲(ドラグーン・バスター)の砲口から漏れ出る強力な光が内部の厖大な熱量を物語っていた。

そしてその時が来て勇気は敵母船に向けてそれを放った。





統括体は驚愕していた。

周回軌道に戻った統括体は苗床母船の落下状況を観察していた。

子包体が壊滅した地帯に正確に落下するか見定めるためであった。

地表全土に破壊の嵐が撒き散らされるため少々落下ポイントがズレても問題はなかったが念のためであった。

あれだけの大質量である。

もはや落下を阻む方法などありはしないはずだった。

しかし統括体は地上の落下予定ポイントから子包体の全長ほどの大きさの物体が上昇して苗床母船に高速で向かってきているのに気が付いた。

それは激突寸前厖大な熱エネルギーを放出し苗床母船の中心部に命中させた。

中心部分は瞬時に溶け崩れ船体全体が崩壊していく。

苗床母船の中心部はプラズマ化して超々高温の爆炎の球体となって膨れ上がり周辺部は無数の破片に分裂し地上に落下していった。

その破壊を為したと思われる物体は母船に高速で接近していたためそのまま自らの放った厖大なエネルギーを内包した超々高熱の爆炎の球体に呑み込まれていった。

やがて爆炎は周囲の大気と爆発的に反応し周囲に超高温のプラズマのシャワーを撒き散らしながらも徐々に拡散して消えていった。

その後には何も残ってはいなかった。

一部始終を観察していた統括体はそのちっぽけな大きさの物体が惑星へ落下中の苗床母船という巨大質量物体を破壊したという事実に驚愕を覚えていた。

幸いそれを為した物体は自らが放った熱エネルギーに呑み込まれて消滅したようであった。

あれが子包体を壊滅させた敵性存在には間違いないだろうが単体である保証もなかった。

ただ一体で特攻同然に捨て身で突っ込んできたところをみるとあそこまで強力な個体はあれ一体である可能性が高くそれを失った今こそが正体は不明なれどあれが属する種族ごと排除する最大のチャンスかもしれなかった。

惑星の浄化も破壊された船体の破片が地上に大ダメージを与えたものの全生物の死滅に至るほどのものではなかった。

又破片の落下の影響で現在は荒れている惑星の環境も一時的なものに過ぎず敵性種族の排除さえ済めば大した時も待たずに入植可能な状態であった。

統括体はこの星系に近い(ネスト)に戻り増援を呼んでくる事も検討したが往復で百年以上経過する間にこの惑星の敵性種族が手の付けられないぐらい強力な存在になる可能性もあった。

統括体は暫く逡巡した後近衛体を引き連れ地上降下を開始した。




現在主人公はシュレディンガーの猫状態です。

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