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異世界無双血風録  作者: 大五郎
第15章 夢幻迷宮編
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57 Ⅱ 傍観者

帝国としか表記していないのは別にミスリードを誘っている訳ではありません。

なんとなくです(笑)

「皇帝陛下が崩御なされただと?」

ゴルシェ伯爵が驚愕の声を上げた。

「はい、近日中には病死との布告が帝国中にされると思われます」

急遽伯領に帰還した帝都駐在の家臣が伯爵に報告した。

「そんなバカな。それでは勇者召喚がどうなったか分からんではないか」

「それがその召喚魔法で呼び出された勇者によって皇帝が討たれたとの噂が帝都で流れております」

主人の性格を熟知している家臣は故皇帝に対する不敬なもの言いを気にした風もなく報告を続ける。

「なんと!では召喚者に死を齎すという話しも満更呪われた大陸の蛮族どもの戯言ではなかったという事か・・・」

そしてポツリと洩らす。

「・・・何にしても自分で試さなくてよかった」

「お前つくづく人非人だな」

さすがに隣に座っている黒髪の目付きの鋭い若い男がジト目で伯爵を見た。

「そう言うな。先駆的な実験に危険は付き物だ。それが死に直結するものなら尚更安全策を取らずばなるまい」

他人(ひと)で試すな、他人(ひと)で。召喚魔法自体を諦めるという選択肢はなかったのか?」

「ないな。それに勇者召喚が為されたのならいずれ勇者を手に入れる機会も巡ってくるかも知れんではないか。希少な素材をこの世界の手に届く範囲に引き込んだだけでも成功といえる」

「懲りないオッサンだな。いずれ手痛いしっぺ返しを喰らう事になるぞ」

「フォホホホ、確たる根拠もなく帝国伯であるこのゴルシェに手を出せる者などそうそうおらぬよ。それに実験体達も順調に仕上がっている。例え帝国軍が攻めて来ようとも千や二千の兵ぐらい我が実験体達が容易く蹴散らしてくれるわ」

「そう上手くいけばいいがな」

男が意味深な顔で返した。



城内地下区画に広がる実験室、そこに隣接して地下牢があった。

本来は領内で罪を犯した者を裁定するまで一時的に留置する施設であったが現在では犯罪者であるなしの区別なく実験素材の保管場として捕えた領民達を収容していた。

中央の通路を挟んで鉄柵で区切られた幾つもの小部屋に別れ数人ずつが収容されており総数で五十人以上の領民達がある者は膝を抱えある者は手で顔を覆って蹲り又ある者は壁に脊を預け灯りのない暗い天井を虚ろに見上げていたりと全員が一様に恐怖と絶望に打ちひしがれていた。

外の光が一切差し込まない地下牢であっても朝夕の粗末な食事でおおよその昼夜は分かっていたが深夜であってもいつ実験のために連れて行かれるかもしれず寝入っている者は少なく寝ていても眠りは浅くほんの些細な事で目を覚ましてしまう状態であった。

そんな中通路に一筋の細い光が差し込んできた。

時折巡回している警備兵の持つ哨戒用カンテラの強い光ではなく一般的なものを更に弱くしたような淡く薄い光であった。

果たして現れたのは布を被せて光量を抑えたカンテラを持つ一人の少女であった。

囚われの領民達は通路の気配に気付き目を覚ました者も含め不審げに少女を見た。

あからさまな反応はしない。

これまでの虜囚経験で目立つ真似をした者が優先的に連れて行かれていたので精々が不審の目を向け小声で隣の人間に囁き掛けるくらいであった。

「皆さん、私はゴルシェ伯爵の娘のシンシアです」

そんな彼等にシンシアが低い声で語り掛けた。

その言葉に領民達のざわめきが大きくなり中にはあからさまな憎悪の目を向ける者もいた。

「皆さん、お静かに願います。入り口の牢番は食事に一服盛って眠らせていますが他の者に気付かれるかもしれません。そうなれば皆さんをお助けする事が出来なくなります」

「俺達を助けるだと?今度は何の罠だ?お館の森を化け物どもに捕まらずに抜ければ助けてやると何人も連れて行ったが誰も助かった者はいないと牢番達が話しているのを聞いたぞ。今度はお前を使って騙すというのか?」

憎しみの目を向けていた者の中の一人がそれでも声を抑えつつ反駁してきた。

「・・・お父様の数々の悪行については返す言葉もありません。お父様の娘である私を憎み信じる事が出来ないというのももっともです。でもこのままなら貴方方の誰一人として助かる道はありません。ならば生き延びる可能性がある私の話しに乗るのが最善だと思われます」

「助けるてくれると言うならお前さんに人質になってもらって逃げるというのはどうだ?」

「お父様にとって私にそこまでの価値があるかどうか・・・。実験と称して命を弄び犠牲にし人を人とは思わない残虐行為を繰り返すお父様に貴方は親子の情を期待するのですか?」

「それは・・・」

明らかに倫理観に異常のあるゴルシェ伯爵の人間性を信じる事などありえなかった。

「この地下牢の奥に外に通じる抜け道があります。今から牢の鍵を開け隠し扉の前に案内します。皆さんはそこから逃げてください」

シンシアは牢番から奪ったと思しき鍵で牢の鍵を手前から順番に開けていきながら逃走手段を説明していく。

「当然、お父様には抜け道の出口は分かっていますから先回りされないよう急いで抜け道を抜けてください。・・・そして他領に逃げ込みお父様の非道を帝国に訴え出てください。平民からの訴えとはいえこれだけの人数の訴えを無下にする事はないでしょう。私達帝国貴族はあくまでも皇帝陛下より臣民をお預かりしているだけで貴方方は皇帝陛下の臣民なのですから。訴えが認められれば帝国が介入してこれ以上のお父様の暴挙を止めてくれるでしょう。恐らく我が家は断絶されることになります」

次々に開錠しながら父親を告発するようシンシアは淡々と語っていく。

「姫さんはどうするんだ」

「私はここに残ります。お父様を告発するのには同行した方がいいのでしょうがひ弱な私では逃げるのに足手纏いになるだけでしょう。それに非道を正すためとはいえ貴族の娘が自家を潰すのです。これ以上お父様を裏切れません」

牢から出てきた領民達は憎むとも憐れむとも何とも言えない微妙な表情で見ていた。

自分等を苦しめてきた憎むべきゴルシェ伯爵の娘ではあるが伯爵家を潰す覚悟で自分達を助けその上で人非道人の父親の前にその身を晒そうというのだ。

その結果がどうなるか彼等には分からなかったが著しく危険な事は間違いなかった。

しかし自ら留まるというのであれば彼等も掛ける言葉がなかったのだ。

シンシアは地下牢奥の隠し扉を開きその奥を指し示した。

「さあ早く行ってください。夜が明ければさすがに皆さんが逃げた事がバレてしまいます。その前に少しでも遠くに逃げ延びてください。私の事は全てお父様の暴挙を諌める事が出来なかった自分の罪です。翻意してもらう事に拘り被害をここまで大きくしてしまったのも。被害者である貴方方が気に掛ける必要などありません」

シンシアは真っ暗な抜け道を進むためにと牢の鍵束と一緒に奪ってきた牢番のカンテラを渡し彼等を見送った。

領民達はシンシアに気掛かりを覚えていたが彼等自身のこれからの困難な逃避行に気持ちを切り替え足早に去っていった。

シンシアはカンテラの灯りが遠くなっていくのを見届け隠し扉を閉じ出来る限り開閉跡を消していく。

「なるほどこうなったか」

唐突に地下牢の入り口側から声がした。

シンシアはハッとしたように振り向きそこに一人の若い男の姿があった。

このところ常にゴルシェ伯爵の傍らにいた黒髪の目付きの鋭い男。

「貴方はお父様の腰巾着!」

「腰巾着・・・、そんなふうに見られていたか。いやまあなんでもいいけどな」

若い男は一瞬あっけに取られた顔をしたが苦笑いで流した。

「・・・騒ぎ立てないところを見ると彼等を見逃してもらえるのですか?」

「腰巾着呼ばわりはスルーかい。まあいい。見逃すも見逃さないもなく俺はここ(・・)で何かする気はない。今暫くは傍観者に徹するさ」

「・・・お父様の悪行が露見すれば帝国が介入して来るはずです。貴方も只ではすまないのではないですか?」

「俺は伯爵がどうなろうが知った事ではないし帝国など元より恐ろしくもない。精々成り行きを見物させてもらうつもりだ」

「貴方はいったい・・・」

「俺の事などどうでもいい。そんな事より父親をこれ以上裏切れないとか言っていたがあの男にそんな思いは通じないぞ」

「そうかもしれません。でもお父様があのような研究に手を染めたのは私の所為でもあるのです」

「つまり病弱なお前さんを治すために生命魔術に嵌り込んだとかそんな話しか?」

「どうしてそれを知っているのですか!?」

「割とありがちな話しだからな」

「城から出た事がないので外の事はよく知りませんが私が思っている以上に外の世界は混沌としているのですね」

「いや、ゴルシェ伯爵のようなマッドな奴はそうはいない。只勇者によるキマイラ討伐の話しを先日聞いたと思うが魔物が跳梁跋扈している時節ではあるのでここで創造された獣人が大した事がないと思えるほどには世界は混沌としているがな」

「そうなのですか。・・・それはともかく十年前に同じく病弱だったお母様が亡くなり治癒魔法の才のあったお父様はそれまではその延長線上で細々とやっていた生命魔術の研究に手段を選ばなくなりました。犯罪人や奴隷は優に及ばず無辜の領民すら捕えて人体実験に供し始めたのです。十歳まで持たないと思われていた私が生き延びこうして一人で城内を出歩けるまでに元気になったのもそれらの非人道的な研究の成果によるものです。長期に渡る非人道的な研究を続ける内にお父様は新生命体創造の夢に憑りつかれ実験と称する残虐行為を嬉々として行うようになっていました。自由に動けるようになりお父様の所業を識り実験を止めるよう説得を続けていましたが聞き入れてもらえず犠牲者は増え続け已む無くこのような行動に出るしかありませんでした。でも非人道的な研究成果の恩恵を受けておきながらそれを終わらせようとする私をお父様が許せないというのであればその罰は甘んじて受けるつもりです」

「全てに目を瞑っていれば楽に生きられただろうに・・・。ま、選択は既にしちまったんだし本人が結果を受け入れるって言うのなら他人がどうこう言っても意味のない話しか」

男は踵を返して脊を向けた。

「結果はどうあれここ(・・)で事の成り行きは最後まで見届けてやる。精々見物人を飽きさせないよう頑張ってくれ」

男は右手をひらひらと軽く振りながら入口の外の闇に消えていった。

シンシアは黙ってそれを見送った。

次回はあのチンピラさんの再出演です。

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