51 殲滅
一応決着です。
「さて第ニラウンドの始まりだ」
勇気の剥き出しの殺気にセレン達は気圧されていた。
セレン達一人ひとりがこれまで殺してきた人間の数は百や二百ではきかない。
中には手強い相手もいたが決して気圧される事などなかった。
勇気の殺気に彼女達の本能的な部分が恐怖感を訴えているのだ。
野にある獣なら己より強い相手に出会えば単純に恐怖を覚え逃走を選択する。
しかし人間は知性によってそれを抑え込んでしまう。
「相手は二人、男の方は飛行ユニットがないので飛べないし女の方は先程の戦闘で立っているのがやっとの状態。大した事が出来るはずありませんわ」
セレンが恐怖感を振り払うように仲間達に声を掛けた。
「そうかな?俺に飛行ユニットが必要なら先程地面に潜っている間に紗耶香の物を着け替えればいいだけだ。それをしなかったのはそんな玩具に頼らなくても劣化勇者ぐらい簡単に仕留められるからさ」
「抜かせ!」
セレンの仲間の男の一人が挑発に乗った。
周囲に無数の火弾を作り出し一気に放ってくる。
「ほう、器用な事を」
勇気は両手にシャボン玉のような魔力の膜に包まれた空気の球を作り出した。
それは大きく膨らみ飛んできた火弾を全て呑み込んだ。
「巨竜の超々高熱の吐息を封じ込める事も出来るんだ。この程度どうという事もない」
勇気は無数の火弾を閉じ込めた球体を一気に圧縮した。
握りこぶし大まで小さくなり赤熱して輝いている。
「返すぞ」
勇気は魔力で球体の前に作り出した筒に小さな穴を開けそこに赤熱化した球体の熱量を流し込んだ。
それは細い熱戦となって火弾を放った男に一瞬で迫った。
男は反応する暇もなく頭と胸部を撃ち貫かれ絶命して地上に墜ちていく。
「それとこうだったか?」
勇気は両手を広げた。
その周囲に無数の火槍が生まれた。
「さて避けてみせろ」
勇気は火槍を放った。
セレン達は迫りくる火槍を必死に避けようとした。
しかし二人が刺し貫かれ燃え上がった。
「クッ、手に負えない。撤退します」
残った男に声を掛け全力で逃げに入った。
「まさかこれほど力の差があったなんて・・・」
セレンは呟いた。
大幅に増した魔力と身体能力を限界まで引き出す事が出来るようになって世界を支配するに足る力を手に入れた気になっていた。
しかしそれは勇気の前では普通の魔導士と大して変わらない力だったのだ。
彼女は気付かなかったが紗耶香が万全であれば彼女一人にすら敵わなかっただろう。
勇気が彼女らを劣化勇者呼ばわりしたのもあながち間違いではないのだ。
一旦退いて戦力を立て直す。
セレンは新たな勇者の子孫を選抜して殺し合いをさせ戦力を充当する計画を練り始めた。
と後方の男が火槍に貫かれ燃え上がった。
「な!!」
セレンは振り返りそこに信じられないものを見た。
「逃げられると思ったのか?」
勇気が飛行ユニットなしで飛翔し迫っていた。
「バカな!」
「使っているだけのお前達は気付かなかったろうが元々飛行ユニットは魔力の消費効率を抑えるために作ったものだ。対翼竜戦では数が多過ぎて無駄な魔力消費は命取りだったのでね。消費効率は悪いが自前の魔力だけで疑似飛行ユニットを作れば自力飛行も可能なのさ」
「クッ」
セレンは無数の火弾を生み出し勇気目掛けて放った。
火槍と同じで部下だった男に習って必死に身に着けた攻撃魔法で彼女の奥の手の一つだった。
「無駄だ」
勇気の前方にさっきの球体が現出し吸収された。
セレンは急旋回を掛け熱線の応射をなんとか躱した。
「これで終わりだ」
勇気は右手を前に差し出し自前の魔力を球体に注ぎ込む。
球体は先程までとは較べものにならないくらい白熱化した。
「そ、それは!」
「お前達くらいの魔力で生み出された火弾であれだけの威力があるんだ。自前でしかも直接魔力を熱変換して流し込めばこのぐらい造作もない」
勇気は急旋回を続けるセレンの予測軌道方向に熱線の剣を放ち振り抜いた。
熱線の剣はあっさりセレンの身体をきれいに薙ぎ絶命させた。
勇気は落下していくその亡骸をただ冷たい目で見ていた。
シリアルキラーと紗耶香の一騎打ちも入れたかったのですが勇気一人であっさり制圧可能なのでボツにしました。
名前もなく燃え尽きたシリアルキラーさん、安らかに眠ってください。




