41 戦場Ⅷ
なんとかここまで辿りつきました。
セラス王国の城塞都市を包囲し攻撃しているクーイアン帝国軍は十万の大軍である。
攻城部隊の激戦を余所に後詰めの部隊は手空きの状態だった。
それでも女勇者がこちら方面に向かっており後方から襲撃される可能性が高かったので警戒はしていた。
初戦での痛撃は決して忘れられない恐怖を彼らに刻み込んでいたからだ。
但しその時使用されていた飛行ユニットは失われており徒歩での襲来のみが予想されていたため肉壁となって城壁上の攻防が終わるまで命を賭けて足止めをするよう厳命を受けていた。
しかし後方から現れた敵の姿を確認した途端彼らは浮き足立った。
全長三十mの巨大ゴーレムが地を響かせる足音を立てながら彼らの方に向かってきたのだ。
その土色と質感からクレイゴーレムと判るが一般的常識として全長数cmのクレイゴーレムを操るのが精一杯であると知っていた。
しかも操れるのは魔導師クラスの人間だけでありそれも数分で魔力が尽きてしまうし大きくなればなる程必要とされる魔力は大きくなっていく。
彼らにとってゴーレムの大きさそのものも脅威だがそれを操る相手の厖大な魔力の持ち主自体も理解の範疇を超えた化け物であった。
しかし帝国軍は怖れを押し殺して攻撃を開始した。
まず騎馬隊が迎撃に向かうが正面から突っ込んだ騎士達は何もしない内に巨大ゴーレムの足に蹴り飛ばされ踏み潰されていく。
左右に別れて横から攻撃を仕掛けた騎士達は槍で突こうが剣で斬ろうがまるでダメージを与えることが出来なかった。
そして巨大ゴーレムは展開している帝国軍の陣中に突入していった。
魔導士達も火弾を撃ち込むがその巨大さ故に効果は全く見られない。
「ワハハハッ、帝国軍の諸君!これが勇者の力だ!存分に味わうがいい!」
その頭部に立つ黒い全身甲冑に包まれた巨漢の姿があった。
帝国軍の魔導士達は黒騎士目掛けて火弾を放つもその剛剣の前に斬り飛ばされ火の子となっていく。
降り掛かる火の子に構わず黒騎士は火弾を応射する。
帝国軍の魔導士共々周辺の兵士達も焼き払われていく。
一方的な蹂躙に接敵していた帝国軍兵士達は為す術もなく退き始めた。
何らダメージも与えられず進行速度も落とす事が出来ないのなら我が身を張って挑んでも無駄死にである。
そして動揺は帝国軍全体に広がり前戦の攻城部隊にも退却命令が下った。
帝国軍は巨大ゴーレムの進路上から二つに割れ後退していく。
「あれには勝てん」
総指揮官の将軍は只呟くのみであった。
紗耶香は巨大ゴーレムを懸命に動かしていた。
黒騎士の指導の元、巨大ゴーレムを魔力により形成し指示通り脚部の可動のみに意識を集中していた。
「本来勇者の持ち味はその厖大な魔力にある。それに例え剣士としての腕が超一流であり接近戦に持ち込めば勝てるからといって闇雲に接近戦に拘っていては自ら戦術の幅を狭める事になる。紗耶香殿はもっと魔力の使い方を覚えるといい。それと剣術を組み合わせて戦術の幅を広げれば敵に対してより大きな脅威となり出来ることも増えるだろう」
巨大ゴーレムの頭の上に仁王立ちになっている黒騎士がその下の頭部部分にいる紗耶香に声を掛けた。
「こ、こんな状態で・・・何か他に出来るとは・・・思えないけど・・・」
途切れ途切れに返答する紗耶香の声はかなり苦しいようであった。
「慣れだ、慣れだ。紗耶香殿はもっと魔力を鍛えた方がいい」
既に帝国軍からの抵抗はない。
巨大ゴーレムは無人の野を進むがごとく城塞都市に向かっていた。
「しかし・・・こんな足しか動かないハリボテを・・・よくも怖れてくれたものだ・・・」
「見た目でハッタリを掛ける。それも戦術の一つだ、紗耶香殿」
「しかし・・・これは・・・ペテンではないのか・・・?」
「虚と実を織交ぜるて戦術の幅を広げる。これも大事な事だよ、紗耶香殿」
かくして帝国軍のセラス侵攻作戦は巨大ハリボテによるペテンで幕を閉じたのであった。。
本当はこれからまだまだ攻防戦を繰り広げようかと思ったのですが冗長過ぎるような気がしてここで一旦帝国軍との戦いは終了します。




