39 戦場Ⅵ
血風録ですので・・・。
「御主人様・・・」
「アイか」
森の中からメイド服の少女が出てきた。
「エッ!?」
私は驚きの声を上げた。
セラス王の城で見た侍女の服は如何にも地味であったが少女の着ているメイド服はまるで秋葉原で見掛ける物と同様の派手さがあった。
同時に元の世界の物にはない上品さがあり着ている少女の可憐さと相まって別次元の美しさがあった。
少女の年齢は十四、五といったところか。
しかし何故にメイド服?
「黒騎士殿、この少女は?」
「我が手の者だ。心配ない」
「しかし何故メイド服を着ているのです?」
「ウム、呪われた大陸の勇者が広めたもので徐々にこの超大陸でも流行りつつあるのだよ」
勇気の奴一体何をやってくれているのだ。
私はワナワナと拳を震わせた。
「それで首尾は?」
「はい、セラス方向には重厚な包囲が敷かれております。やはり迂回して進むのが最善かと思われます。それとその方の物と思われる特殊な剣を見つけましたので回収しておきました」
アイは黒騎士に偵察結果を報告しながらうやうやしく刀を差し出した。
「私の刀!」
「違いないようだ。よくやった、アイ」
「ありがとうございます、御主人様」
褒められたアイは無表情に返事をしたが何処か照れている雰囲気が感じられた。
私は刀を受け取り破損や変形がないか確認する。
幸い刃毀れ一つなく主人よりは運が良かったようである。
私はホッとして差したままの鞘に収めた。
飛行ユニットはやむなく放棄したが鞘の方は諦め切れなかったのだ。
「さて紗耶香殿、迂回してセラスに向かうのでよろしいか?」
「・・・ああ、そうしよう」
私は迷いながらも返答した。
途中何度か少数の帝国兵と遭遇したが私と黒騎士で瞬殺していきやがて国境の緩衝地帯である開けた荒野に出た。
立ち塞がるように帝国兵数千名が陣取っていた。
どうあっても只で通してはくれないようだ。
「ここからは強行突破しかないな。紗耶香殿、覚悟はよろしいかな?」
「もちろん」
黒騎士の治癒魔法で打撲も完治し何度か取った休息と食事で体力も完全回復している。
前回の飛行ユニットを使った一方的な殺戮ではないが隷属の首輪のお蔭で潜在能力を限界まで引き出せるようになった今の私ならこの程度は問題ないだろう。
「むしろ黒騎士殿の方が心配だ」
「ハハハッ、この程度の軍勢過去に何度も単騎で遣りやったことか。敵中突破なぞ造作もない」
心配することはなさそうだ。
ここまでの戦いであの重そうな全身甲冑を着けたままで私に近い速さで動き力任せだが恐るべき膂力で敵を薙ぎ払っていた。
その手腕を見る限り人数が幾ら増えても問題はないだろう。
「アイ、お前は後から夜陰に紛れて隠形で抜けてくれ。落ち合う先はセラスの城塞都市だ。派手に突破していくから痕跡を追うのは難しくないだろう」
「承りました、御主人様」
かくして私と黒騎士二人の敵中突破が始まった。
クーイアン帝国守備隊の規律は緩んでいた。
前線に出て戦った、というより一方的に叩かれた侵攻軍と違い勇者の力を舐めていたのだ。
幾らなんでもこの軍勢を正面から突破する事はないと。
そして彼らはそれを後悔する事になる。
「森から二名、報告のあった女勇者とその協力者と思われます!」
「なんだと!直ぐに迎撃しろ!」
指揮官が命令を下すも時既に遅く距離を詰めた紗耶香と黒騎士は守備隊に突っ込んでいた。
「我は黒騎士、黒き死の使いだ!殺されたい奴は掛かってこい!命が惜しい奴は我らに近づくな!人の身で我らに敵う事はなし!」
口上を述べながら黒騎士はその大剣で周囲の帝国兵を薙ぎ払い粉砕していく。
血飛沫と頭や腕や胴体などの人体パーツや内臓が撒き散らされ凄惨な様相を呈していく。
紗耶香は無駄のない動きで一閃一殺で前方の敵を斬り倒していくが黒騎士の立ち回りが派手過ぎてまったく目立っていなかった。
ようやく態勢を整えた魔導士達が派手な立ち回りを続ける黒騎士に火弾を撃ち込んできた。
しかし黒騎士は火弾を切り裂き打ち払っていく。
火の子が飛び散り降り掛かってくるが黒騎士はお構いなく突き進んでいった。
華麗な剣技で却って目立たなくなっている紗耶香の方は抵抗が少なく突進速度を速めることが出来たが黒騎士を心配してあまり離れ過ぎないようにしていた。
段々帝国兵は二人の周辺から退き始め部隊の中頃を過ぎた辺りから抵抗がなくなり後はあっという間に突破する事が出来た。
そのままの勢いで進む二人を帝国兵達は追撃する事はなかった。
血沸き起こり肉踊り。




