36 戦場Ⅲ
状況を整えるのに時間が掛かっております。
「セラスに女勇者が現れた?」
俺は双子メイドの淹れたお茶を飲みながらお茶菓子を摘んでいた。
適温でこくがあって喉越しよくお茶菓子も舌に蕩ける美味さだ。
帝国が用意した最高の茶葉をシュナで修行したメイド達が淹れたのだ。
美味くないはずがない。
レティシア皇女の舌にも合ったようで双子メイドのどちらかもしくは両方共も自分の側仕えにもらえないかと打診を受けたが断っておいた。
「フーン、帝国軍も大変だな」
俺は素っ気なく言った。
後ろの同じくメイド服を着た加奈がモグモグ言っているがシオンに口を塞がれている。
レティシア皇女には加奈のことは拾ったとだけ伝えてある。
ある程度は察しているだろうがこちらの情報を必要以上に漏らす事もない。
「それで軍の方から内々に勇者様に御助力頂けないかとの要請がきております」
「断る。俺にメリットがない」
「しかしその者は貴方様の命を狙ったのでしょう。ならここで討つのも一緒ではありませんか」
「帝国に利する局面で討つ必要がないな。それにあの程度なら帝国の勇者と同じでいつでも殺れる」
俺は殺気を放った。
加奈はビクンと反応したがそれ以外はこの場に気圧される者はいない。
「それでは制圧したセラスを丸ごとユウキ様に進呈するというのはいかがでしょう?なんなら私もつけますが」
「それこそ断る。何を好きこのんで帝国の鎖に繋がれたがるものか」
「あら残念。それではどのような条件なら受けていただけますか?」
「そうだな。女勇者の飛行能力を封じてやるから後は帝国軍が独力でセラスを制圧すること。そして今回侵攻に失敗すれば暫くはセラスに手を出さないというのはどうだ?」
「しかし勇者は地上戦でも一人で万の軍勢を駆逐する事が出来ると聞いております。力押しで倒せる相手ではないと思いますが」
「倒すことは無理だろうがあの手の剣士タイプはやりようによっては無力化出来る。攻勢に出れば無敵だろうが守勢に回れば所詮一人だ。ま、俺なら十万ぐらい一瞬で消し炭だがな」
「・・・分かりました。その条件でお父様に伝えておきます。軍の方にはお父様が話しを通すでしょう」
レティシア皇女も俺が帝国軍十万の将兵を軍艦ごと殲滅した事を知っているのだ。
制御も受け付けないそんな危険物を女勇者にぶつけてあわよくば共倒れも狙っている事であろう。
しかし制御も出来ないもので利益を得ようというのならそれなりのしっぺ返しも覚悟してもらう。
俺は獰猛な表情を浮かべていたのだろう。
加奈がシオンの腕の中で真っ青になって恐怖で凍り付いていた。
「それで紗耶香ちゃんをどうするつもりなんですか!」
加奈は直ぐに立ち直って俺に食って掛かってきた。
ほんと紗耶香ちゃん一筋だ。
「相手の出方次第だな。今回は飛行ユニットを使わないって約束してくれれば手を出すつもりはない。ただし向こうから手を出してくればその限りではないが」
「私を紗耶香ちゃんに合わせてください。必ず説得しますから」
「今回は無理。戦闘力ゼロの女の子を抱えて戦場の上を飛ぶなんて危険過ぎる。帝国軍も隙を見せたら背中から撃ってきかねない連中だ。四面楚歌の状態で足手纏いまで連れていたらなにかあった場合対処しきれなくなる可能性が高い」
「でも合わせてくれるって約束したじゃないですか」
「その約束があるから今回も命だけは取らない。再会は別の機会を作ってやるから待て」
「でも・・・」
「本来こんな温い対応は俺らしくないんだから我慢しろ。帝国の勇者だってサクッと殺ったんだ。なんなら約束を反故にしてもいいんだそ」
「・・・分かりました」
「それとだ、加奈。俺は同世界人だからといって赤の他人の面倒をみる趣味はない」
「はい?」
「いつまでも油を売ってないで働け!ただ飯を食わせるつもりはない!」
「はい!?」
加奈は慌てて双子メイドの手伝いに向かった。
「フフッ、優しいことだね」
「あれでも親友に殺され生き返ったばかりだからな。しかも見知らぬ異世界でストレスも半端ない。少しはサポートしてやらないと持たないだろう」
ガシャーンと食器が割れる音がした。
この飛行船に積んである食器は最高級品ばかりだというのに。
「・・・取り敢えず弁償代の足しに扱き使ってやる」
「ハハハッ、扱き使えば使うほど損害が増えそうだ。ユウキの財布の方が持たなくなるんじゃないか」
シオンが苦笑しながら言った。
次回こそは戦闘シーンに・・・。




