35 戦場Ⅱ
昨日は力尽きて寝落ちしてしまいました。
結局帝国軍は国境まで後退したがそこで停止した。
ダメージを受けた部隊の再編、野営地の構築などを始めている。
再侵攻を掛ける気満々であった。
私はそこまで確認すると救った親子を降ろした場所まで戻った。
直ぐに親子を見つけ降り立つ。
「帝国軍は取り敢えず撤退したけど再侵攻は時間の問題だと思う。村には戻らない方がいい。避難したい場所があればそこまで送ろうか?」
「それなら街道沿いの近くの街までお願いします。あそこは城塞都市ですので他の場所よりはまだ安心です」
「分かった。又飛ぶから掴まって」
私は二人を抱きかかえると飛び立ち城塞都市に向かった。
上空から見ると城塞都市にはセラス王国軍が集結していた。
ここに戦力を集中して帝国軍を迎え撃つつもりなのだろう。
城塞都市内部には避難民と思しき者も多く見られた。
適当な空き地を見つけ降り立ち二人を降ろした。
「ありがとうございました」
「ありがとう、お姉ちゃん」
親子の礼に軽く頷き返しさっさと飛び立とうとする。
城塞都市内の人口密度が高いため人目が多過ぎる。
今も空き地を覗き込む野次馬が人垣を作っている。
「お待ちください!勇者殿!」
その声に目をやると数人の騎士達が空き地に駆け込んできた。
城塞内警備であろう騎士達にも降りたのを目撃されたようだ。
私は溜息を吐いて一旦飛び立つのを止めた。
このまま立ち去るとせっかく助けた親子に類が及ぶかもしれない。
何せ自分はセラス王殺害の犯人だ。
もっとも捕縛や殺そうとしてくるなら斬り捨てるまで。
「何か用?」
冷徹に返す。
フレンドリーに話す相手でもない。
「新王より事前通達があり勇者殿と出会うことがあれば是非会いたいと伝えてほしいと。御同行をお願いします」
「断る」
素っ気なく返答し飛び立とうする。
新王が即位したのは噂で聞いていた。
クーイアン帝国の今回の侵攻の公式理由は帝国の権威の象徴である皇族専用飛行船を襲撃した犯人である王の引き渡しを拒んだこととされていた。
関係者には知られている事実ではあるが具体的な証拠も提示されておらず実際には帝国の皇族から嫁した王妃の子供である第二王子を新王にすることが目的とのもっぱらの噂であった。
「伏してお願いします。どうか」
騎士達が公衆の面前で両膝をついて頭を下げた。
私はその時は知らなかったが騎士にとっては最大級の懇願であり謝罪でもある死にも勝る屈辱であった。
しかしその必死さと気迫は伝わってくる。
「・・・分かった。会うだけなら」
私は譲歩した。
新王と言っても老王の息子である。
既に壮年の域に差し掛かっていた。
「勇者殿、御足労有難うございます」
新王もやはり頭を下げて下手に出てくる。
私が勇者と断定出来るなら故老王が行った所業も報復として父親を殺したことも知っているのだろうに。
歓談する間柄でもない。
「用件を聞く。それが済んだら帰らしてもらう」
私は素っ気なく返す。
「分かりました。現在我が国は存亡の危機を迎えています。物見から勇者殿が帝国軍を撃退したのは伝わっております。有難うございます。帝国軍の犠牲になった者も出ましたがお蔭で逃げ遅れた多くの民が現在も逃げ込んできています」
「次回は手を出さない。本当はこの国が亡ぶ様を見物に来たのだから」
「お怒りはごもっともです。しかし帝国軍の再侵攻は時間の問題でこちらに勇者殿が味方についたと判断した彼らは次回はそれなりの対処をしてくるでしょう。今回は温存していた帝国の勇者を出してくるのではないかと」
「勇気が出てくるのか」
私はハッとした。
「帝国の勇者はユウキというのですか。恐らくは出してくるでしょう。それで勝手なお願いなのですが帝国の勇者を抑えてほしいのです。帝国軍本隊はこの城塞で迎え撃ちますが敵に勇者がいるのなら一刻も持ちはしないでしょう」
「・・・分かった。こちらも帝国の勇者とは決着を着けなければならない。探す手間が省ける。ただし帝国軍との戦いには手を出さない」
「それで結構です。よろしくお願いします」
こうして私は図らずも勇気との再戦の機会を得たのだった。
次回こそは戦闘シーンに辿り着きたいものです。




